宿敵ですよ魔王様
私は村の崩壊後、近隣の村の人に協力をお願いして村のみんなを葬って旅に出た。
墓は時々近隣の村の人が手入れしてくれるらしい。
私もたまに顔を出すようにしよう…
「あ、すいません、こちらに…」
村長であった父親の伝手や街での情報を頼りに、やっとの思いでかなり山奥にある屋敷にやってきた私は、そこで庭掃除をしている女性に話を聞いてみた。
彼女はいぶかしげにしていたが、奥へと入っていった。
しばらくすると、二人の足音が聞こえてきた。
「どなたか存じませんが、この私に会いたいというのはあなたですかな?」
「はい、突然の訪問をお許しください」
「…!?」
その男性は振り向いた私を見て驚いている様子だった。
するとメモ帳に色々書いてお手伝いさんらしき女性に渡した。
「あ、君、すまないがふもとの街の方でこれらをちょっと買ってきてくれないか?」
「え?それは構いませんけど…ああ、綺麗な方ですしね」
そういっていたずらっぽく笑うと、彼女は大急ぎで乗り物に乗って山を下りて行った。
「…よし、これで大丈夫だろう。他人に聞かれると困る事もあるだろうしね」
「お手数おかけします」
「君は20年前に倒された魔王の娘かな?」
「いえ、厳密には違うんですが、分身に近い存在です」
「なるほど…」
目の前に居るのは、20年前にかつての私を殺したらしい英雄だ。
「君が振り向いた時に顔を見て驚いたよ。20年前に戦った魔王がそのままの姿で立っていたわけだし」
「…」
「もしかして私に復讐に来たのかな?」
そういう彼は特に焦ったような様子もなく落ち着き払っていた。
「いえ、私は以前の魔王としての記憶が全くありません」
「そうなのか…」
「赤ん坊になっていた私はある親切で優しい人間に拾われ、ミレーナと名付けられその人の村で普通の人間として育てられました」
「ふむ」
「先日、村に魔族が攻めてきて、その際に私が魔王の生まれ変わりだと知らされました…」
「なんと…」
「ですが、私には自分が魔王という実感が全くありません。魔力だけはとんでもないようですが…」
「まあ無理もないだろうなぁ…」
「はい、ずっと村で普通に暮らしてましたので…」
思わずため息をついた。
「ところで、君は何故私に会いに来たのかな?私は復讐されても文句の言えない身だから、てっきり復讐だと思ったんだが…」
「いえ、かつての私の事を知っている人に話を伺おうと思いまして…私は以前の自分を全く知りませんから…」
「なるほど…」
そこでジャンから聞いた話はまとめると以下のような事だった。
・・・・・・・・・・
ジャンの故郷はかつて魔族との戦いで滅ぼされたらしい。
その復讐のために体を鍛えて軍に入った。
そしてある時、魔族の治める街への潜入任務を任された。
上からは情報源は教えてもらえなかったが、魔王がその街にやってきて何かをやっているという情報が手に入ったからだ。
だが、彼は街に入って驚いたという。
立派な建物も多く、かなり発展していた街だったそうだ。
住人が魔族であり、建築様式に独特のものがある以外は、大き目の人間の街とさほど変わらない感じだった。
彼も今までいくつか魔族の街を襲撃した事があったが、どこもボロ小屋しかない田舎というような状態だったらしい。
驚きつつも仲間たちと潜入任務を行い、何とか魔王、そう、かつての私の部屋へと侵入できたそうだ。
そしてかつての私と相対してまた驚いたそうだ。
「おや、人間の方ですか?こんなところまで入り込んでくるとは…」
「お前が魔王だな?」
「はい、そうです」
魔王であったかつての私は最初、全く彼を警戒していなかったらしい。
不意の来客でも扱うような感じだったそうだ。
「いかがですか?この街は?」
「ずいぶん立派な街だが、人間の街を占領したのか?」
「いえ、とんでもない!元々ここは荒れ地だったんですが、開拓、開発してここまでの街に作り上げたんです」
彼は記憶をたどったが、ここに街があって占領された、という事件は思い当たらなかったそうだ。
そして彼がいくつか質問をした後に攻撃の意思を見せると、私はものすごく寂しそうな顔をしたらしい。
・・・・・・・・・・
「そうして、壮絶な戦いの果てに私が勝った、というわけだ…」
「なるほど…」
「そして魔王を倒した合図を送ると、街に軍隊が流れ込んできて占領したんだ」
私はその話を語る彼を見て不思議な感覚になった。
「…ところで、あなたはかつての私を倒した英雄なんですよね?」
「ああ、そういうことになっている」
「その割には…なんというかこう…国を救った英雄、みたいな扱いをされてないように思えるのですが…」
「ああ…」
「それに、あなたにとっては輝かしい栄光だと思うのですが、なんかこう…悲しそうに話しているのが…」
彼は用意していた飲み物を飲むと、さらに語り始めた。
「かつての君を倒した後、街から出る時のことだった…」
彼は少しうつむいて言葉を続けた。
「街はすでに味方の軍隊が入り込み、魔族との間で激しい戦いが繰り広げられたんだ」
「激しい戦いだったようですね…」
「ああ、その時、魔族の一人の少年が目に入ったんだ」
「少年?」
「ああ、そばに両親と思われる魔族が二体倒れていた。そして私をものすごい目つきで睨んでいたんだ」
その光景を想像し、思わず魔族の一団が迎えに来た時の自分と重ねた。
「その時思ったよ。この少年はかつての私だって…」
「かつての?」
「ああ、私の村も魔族に侵攻されて滅ぼされてるからね…その時、おそらく私もあの少年のような目つきで魔族たちを見ていたに違いない…」
「…」
「そこでふと思ったんだよ。私は人間にとっては英雄だろうけど、魔族にとっては殺戮者でしかないってね…」
「…」
「国に帰ってからは国やら貴族やらから褒賞の類を色々渡されそうになったけど、全て辞退したよ。どうしてもあの少年の顔が思い浮かぶんでね…」
彼の表情が少しずつ暗くなっていった。
「だが、国王様だけはどうしてもと言ってきた。まあ私に何もなしだと示しがつかないだろうしね。そこで私は望みを言ったんだ」
「望みですか?」
「ああ、隠居させてくれって…静かな山奥でのんびり過ごせるように最低限の補助だけ欲しいってね…」
「その結果が今の生活ですか?」
「そうさ。ここで畑を耕しながら静かに暮らしているよ。買い物に行ったお手伝いの女性いただろう?彼女も国から派遣されてる人なんだ」
「なるほど…」
「本当は一人の方がいいんだけどね…もし仮に魔族が私に復讐に来たら、巻き添えになるだろうから…」
そう言うと彼はため息をついた。
「私は魔族にとっては魔王の仇だしね…まさか本人の分身が直接乗り込んできて話をするとは思ってはいなかったけど…」
その時、外から多くの荷物を持って歩いてくる足音が聞こえた。
「ただいま戻りましたー!頼まれていた物は全て買ってきました!」
例のお手伝いさんが帰ってきたのだ。
「これで料理を作ればよろしいですね?」
「ああ、頼むよ。3人前にはなるだろう?」
「ええ、お任せください!」
「あ、あの、私も手伝わせてもらっていいですか?」
するとお手伝いの女性は彼の方を見た。
彼がうなずくと、彼女もうなずいて了承してくれた。
こうして二人で作った食事を三人で食べた。
にぎやかに食事をするのは、ずいぶん久しぶりに感じた…
「では今日は泊まっていきますか?」
お手伝いさんにそう言われ泊っていくことになった。
たまに来客があるため、数名は泊れるようになっているらしい。
そして翌朝、軽い食事をご馳走になって出立した。
彼だけが見送りに来た。
お手伝いさんは屋敷の奥で探し物をしているらしい。
「私の話は参考になったかな?」
「はい」
「かつての君を殺した私が言うようなセリフではないと思うが…」
「はい?」
「君は君なんだから、君の思うとおりにすればいいと思うよ。かつて魔王だったとか関係なくね」
その言葉を聞いてなんだか心が軽くなったような気がした。
私は少し微笑んで、深々と頭を下げた。
「はい、ありがとうございます」
そして私は深々とお辞儀をして旅に出た。
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