おかえりなさい魔王様

SS野郎

お迎えですよ魔王様

ある静かな夜の事だった。


夜中に激しい物音で目が覚めた。


「な、何今の音!?」


窓から外を見てみると、村が燃えていた。


「一体何が!?」


状況が飲み込めないでいると、部屋のドアが開いて村長である父親が部屋に入って来た。

どうやらケガをしているらしい。


「お父さんそのケガは一体!?」

「ミレーナ、無事だったか…」

「い、一体何が起こったの!?」

「いいかい、ミレーナ。よく聞くんだ」


いつもと様子の違う父親に戸惑いながら私はうなずいた。


「今までなぜかすっかり忘れていたが、実はお前は私たちの実の子ではないんだ…」

「え…!?ど、どうして今そんな話を!?」

「私たちはもう助からないだろう。だから、お前にも真実を知っておいてほしくてな…」

「そ、そんな…」

「今から20年前の話だ…」


村長夫婦は20年前、ある用事で王都の方へと出かけていた。

その帰り道、道端に一人の女の子の赤ん坊が籠に入れられて泣いていたそうだ。

二人はふらふらと近づいていき、その子を拾って我が子として育てる決心をした。

だが、なぜかその拾ったということを忘れて今まで実の子として扱っていたそうだ。


「じゃあ…私は一体…」

「わからない。だが、私たちはお前を実の子と思っているよ…記憶がよみがえったとしてもな…だから、何としても生き延び…」


話の途中で父親は事切れた。


「そんな…」


私が実の子ではない。


衝撃的な事を言われて呆然としていた。

言われてみると、私と両親は目の色や髪の色が違っており、皆から不思議がられていたこともあった。

それに、私は会った事は無いが、両親の祖父母も私のような紫の目や金髪ではないそうだ。

そんな事を思い出していると、家にまで延焼してきた炎の熱で正気を取り戻した。

家の外に出て周囲を見回すが、村中が燃えており、村のみんなも倒れていた。


「ど、どうしてこんなことに…」


なぜこんなことになったのかわからない不安な中、足音が聞こえてきた。

生存者がいるのかと思いその方を見てみると、魔族と呼ばれている者たちの姿が見えた。


「そんな…まさか魔族たちが攻めてきた…!?」


20年前の話だ。

魔族との緊張が高まっていたそんなある日、一人の勇者の手によって魔族を指揮していた魔王が倒された。

指導者を失った魔族たちは大陸の奥地へと撤退し、平和が訪れたのだ。


生まれて初めて魔族を見た。

だが言ってしまえば、見た目は角や尻尾が生えているだけの人間なので、今まで聞いていたほど怖いとは思わなかった。

これなら、時々現れるモンスターや、村長である父が対応していた犯罪者の方がよっぽど怖い。


「その魔族たちがまた攻めてきたって言うの!?」


だが一つ引っかかる事があった。

この村は大陸の西側に位置しており、魔族たちが住んでいる大陸の東側から見るとかなり遠いのだ。

魔族たちの国にもっと近い東の方へ攻め込んできた、という話は全く流れてきていなかった。

なぜこんな遠くにまでわざわざ攻めてきたのだろうか…


そんな事を考えていると、マントを羽織ったなんとなく地位が高そうな魔族がこちらに気が付いた。


「あ、あそこにおわすのは…!?」


そんな事を言って、他の魔族たちを引き連れてこちらに走って来た。

怖くはなかったが、突然こちらに向かってきたのには驚いた。


「や、やっと見つけましたぞ!」

「え?」


そう言うと魔族たちはなぜか私の前で跪き始めた。


「お久しぶりでございます、魔王様…」


そんな事を言って涙まで流し始めた。


「私が…魔王…!?」

「はい、間違いありません」


またとんでもない事を言われた。


「そんな…魔王は20年前に倒されたって…」

「はい、その通りです。ですが、撤退する時に人間に倒されたあなたを何とか我らの領土へと連れ帰ったのですが、数日するとその遺体が消えていたのです」


…魔族はそういう生態なのだろうか。


「それを見た者は、これはあなたが死後、自分の因子を詰め込んだ塊を大陸のどこかに飛ばしたのだと言いました」

「!?」

「我々の中にはたまにそうやって生まれ変わりを作る者がごく少数ですが現れるのです」


どうやらそういう風になるのはかなり特異な個体らしい。


「ですが、我々の領土では見つけられず、皆諦めかけていた所、占い師が人間の村にあなたの存在を感知したと騒ぎだしたのです」

「占い…ですか…?」

「はい、大半の者はうさんくさい話だと信じていませんでしたが、私は藁にもすがる思いで密偵を送り込み、何とかあなたの存在を見つけ出したのです」


にわかには信じられない話だが…


「でも、人違いなんじゃ…」

「いえ、そんな事はございません。そのお姿も、以前の魔王様とほとんど変わりません。潜在的な魔力の量もすさまじいものがあります」

「で、でも…」

「それに、左の手の甲に、3本の線を組み合わせたような三角形のあざがあるはずです」


確かに、私の左手の甲にはそのような変わったあざがある。

友人たちにも珍しがられていた。


「そんな…そんな…!」

「魔王様、また再び我々を導き、人間どもから救ってくださいまし!我々には魔王様のお力が必要なのです!」


突然の事に混乱し頭を抱えていると、他の魔族たちも一斉に頭を下げて懇願してきた。


「…ところで、なぜ村に火を…」

「はい、魔王様の魔力でしたら、この魔法の火を弾き飛ばし燃え移る事もありませんので…」


確かに、これだけ激しく燃えているのに、私のそばにはその炎が燃え移ってきていなかった。

まるで透明な見えない筒でもあるかのように…


「まさか、私を探すだけのために村に火を…!?」

「はい、それにこれで我々に抵抗する者も排除することもできますし…」

「…そんな…そんな事のために村の人々を…?」


その時、私の頭の中で何かが切れた音がしたような気がした。


「うぉあああああああああああぁぁぁぁぁ…!」


私が絶叫すると同時に、体からとんでもない量の魔力が噴き出した。

魔法を使ったわけでもないが、その解放の衝撃だけで村中の火を消すどころか村の地形をも変えてしまうほどであった。


この時、私の中に恐ろしい力が眠っていることに初めて気が付いた。

そして、おそらくこの力で周囲に「私は村長の実の娘である」と思い込ませる魔法を無意識に使って身を守っていたのでは…という嫌な疑念がわき上がってきた。

魔法の炎によってその効果が届かなくなり、父親の記憶がよみがえったのでは…

もしそうだとしたら、私は自覚もせず自然に、村の皆の意識を変えてしまう程の過剰な効果がある術を使っていたことに…


そんな疑念の中、気が付くと炎はすべて消えていた。

そして私の周辺はまるで嵐が起こったかのように吹き飛び、村の地面の半分がクレーターと化していた。


「こ、これは…」

「あ…が…」


どうやら、マントの魔族以外は、私の魔力が解放された時の衝撃で全員消し飛んでしまったらしい。


「あ…ご、ごめんなさい…」

「ああ…その…仲間を傷つけられると激高する性格…そして敵である相手にも慈悲をかけるそのやさしさ…間違いない…あの魔王様が…魔王様が…帰ってきてくださったのだ…」


そう言い残すと、その魔族は満足げな笑顔を浮かべまま、灰となって散っていった。


「うああ…」


完全に破壊された村の真ん中で私が座り込んで泣いていると、空から静かに雨が降って来た。

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