転生したらザマァな展開になった悪徳ギルマスの逆転劇

みなと劉

第1話


 気がつくと、俺は知らない部屋の中にいた。

 木の机、石造りの壁、そして壁にかけられた一枚のギルド証。


 ――【冒険者ギルド・リュミエール支部長:バルド・ランツ】


 鏡を見た瞬間、息を呑んだ。

 そこに映っていたのは、太い顎髭をたくわえた中年男。

 ゲームで見たことのある“悪徳ギルマス”その人じゃねぇか。


「……は? 俺、転生してる?」


 そう――俺は前世、日本でブラック企業に搾り取られた社畜。

 過労死したと思ったら、今度は“悪名高いギルマス”に転生していた。



---


 状況を整理する。

 このギルドは町でも有名な「汚職ギルド」。

 依頼のピンハネ、魔物討伐報酬の着服、女冒険者へのセクハラ。

 全部、このバルド・ランツがやらかしたことだ。


「……よりによってこんなやつに転生かよ」


 けど、俺は知っている。

 この世界、近いうちに“ギルド査察”が入る。

 原作ではこのギルマス、捕まって牢屋送りだ。


 ――だが。


「俺はそんなバカな末路はごめんだ」


 保身のためならなんだってやる。

 俺は悪徳ギルマスとして、“金になること”を全部やり尽くす。



---


 まずは――

 金払いのいい冒険者に、依頼を優先的に回す。

 強い奴らが稼げば、ギルドの名声も上がる。

 その手数料は合法的に俺の懐へ。


 次に――

 貧乏な新米には「護衛つき依頼プラン(有料)」を売りつける。

 実際には中堅冒険者を二人雇うだけで、差額は利益。


 そして――

 討伐した魔物の素材をギルドブランドとして加工販売。

 “ギルド印の回復薬”“ギルド印の保存肉”として売り出すと――


「支部長! 在庫が足りません!」

「王都から追加の注文がきています!」


 ……あれ?


 いつの間にか、俺、英雄扱いされてね?



---


 冒険者たちは口々に言う。

「バルド支部長、マジで有能だ!」

「前のギルドじゃ稼げなかったけど、ここは違う!」


 国の使者まで来て、こう言った。

「あなたの経営手腕、ぜひ王都でも発揮していただきたい!」


 いやいやいや……俺、保身のために動いてただけなんだが。

 ザマァされる予定の俺が、いつの間にか持ち上げられてる?



---


 ――こうして、

 悪徳ギルマスに転生した俺は、

 気づけば“国公認の英雄ギルマス”になっていたのだった。


 けれど、その裏では。

 「王都ギルド本部」の面々が、静かに歯ぎしりをしていた。


「バルドめ……調子に乗りおって……!」


 次のザマァは――俺じゃなく、お前らの番だ。



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