第八章:ラストダンジョンのセーブポイント

凛は、他の信者たちとは違う。

金も、立場も、何も持たない。


けれど、俺が用意した救済すら一切受け取らず、本当に“何か”を待っている。



「神子様、私、これから永遠にあなたと一緒です」



ある日、そう言われたとき、俺は一瞬思考が止まった。



……まさか、惚れたのか?

たしかに、あそこまで助けてやったんだ。

普通の女なら勘違いしてもおかしくない。

自分で言うのもなんだが、顔は上の中以上だ。



でも、こいつは普通じゃない。

俺の頭のどこかで警鐘が鳴っていたが、やっぱりどこかで「これで全部終わりだろ」とタカをくくっていた。



それでも、凛の目の奥の“光”が日に日に強くなっていくのが、妙に気になった。

あれは執着。それも、恋愛や信仰の域をはるかに超えた何かだ。



~~~



「神子様、もう迷いません。“禊ぎの儀式”、見届けていただけますか?」


唐突に、そんな申し出があった。



教団には“禊ぎ”という儀式がある。


親が、キリスト教の洗礼や、滝行を見よう見まねで取り入れた

裏手の滝で、水を頭から浴びるだけ形骸化した行事だ。



正直、俺にとってはどうでもいいイベントの一つ。

だが、凛はその場所に、異常な執着を示していた。


「……いいけど、お前、そんな体で滝行なんて無理すんなよ」


俺がそう言うと、凛は大きく首を振った。


「大丈夫です。神子様が見てくださるなら、何も怖くありません」


その顔は、信仰を通り越した“確信”に満ちていた。

──こいつ、本気で俺と一緒に“次”へ行こうとしてるんじゃないか?


不安が喉元にせりあがる。

でも、今さら後戻りなんてできやしない。

俺は“神子”で、あいつは“信者”だ。

ここで逃げるのは、どこか負けを認めるみたいで、どうしても許せなかった。


「……分かったよ。お前の禊ぎ、最後まで見届けてやる」


~~~



その夜、凛はひどく落ち着いた様子で、教団の裏手で水を汲み、長い髪をとかしていた。


「神子様、明日──滝の一番上で、お待ちしています」



俺は、ただ黙って頷くしかなかった。


この女が、もう絶対に“戻れない”場所にいることを、心のどこかで確信しながら。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る