歯車仕掛けの相棒

@hineyuri

エリカxワングのタッグ初めての事件

序章

男は車を運転していた。その車は最新の歯車機構を用いて構成されており、市場にもめったに出回らないような超高級車と呼ばれる部類のものであった。


雨上がりの湿った石畳と蒸気機関のボーッというようなくぐもった音が響くこの街には少しに合わない。


盗人でさえ後が怖くて盗まないようなそんな代物だ。


そんな車に乗る男は眉間に深い皺を刻んでおり、ワイシャツにはち切れんばかりの筋肉を内包している、そんな男であった。


男の運転する車は町の中でも有数の大きさを誇る建物、その地下駐車場へと入って行く。


 駐車場の奥の奥、最奥に近い場所に車を停め、その大きな体を大きなアタッシュケースと共にやっと外に出した。


車のキーをコートのポケットに入れ、そのままコートのポケットに両手を入れ、アタッシュケースを持つ手を変え、キーをポケットの中で弄ぶ。


駐車場中央にある昇降機に乗り込んだ。


昇降機は動きを止め、昇降機の扉が開く。


男の姿を見たものは一部を除きお辞儀をする。


男は挨拶をそこそこに自らのデスクへと進む。


進む先は人が避け、道ができる。


昇降機から降りて十数メートル先に男のデスクはあった。


それはデスクというよりも一つの部屋であった。


男は椅子にコートをかけ、クローゼットを開ける。


ハンガーにかけられているショルダーホルスターを身に着ける。


男はその手のまま大きなアタッシュケースを開け、男専用に製造された銃を出す。


銃身の先を照明の方に向けて内部を覗いて異物や実包が入っていないか確認をする。


機関部にも同様に異物や実包が入っていないかを確認して、銃身と機関部を連結させる。


その後も男は安全装置の効き、銃床のゆがみなどがないか等の点検を合計三丁済ませた。


拳銃は左胸側に入れ、拳銃のもう1丁は右胸側に入れた。そして仕事用のコートを羽織る。


そうしてやっと男は椅子に掛けていたコートをハンガーにかけ、自ら部屋にあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れ椅子にやっと座る。


「はぁ。」コーヒーを一口飲んだ後にため息を漏らす。


実は男は最近大きな事件が終わり、資料作りさえ終わってしまったのだからやることがない状態なのだ。


コーヒーを飲みほした男は、未解決の事件の資料でもあさろうかと資料室に向かおうとすると、「おぉ、ワング君、いいところに。ちょうど君のオフィスへと向かおうとしていたところだったんですよ。」とややおなかが出た初老の男に話しかけられる。


「どうされました?署長。新しい事件ですか?」とワングは署長に聞く。


「えぇ。そうですよ。それと、新人の教育も同時にお任せしたいのですが。よろしいですか?」とても穏やかな言葉遣いで署長はワングにお願いという名の命令をする。


ワングは新人の教育なんて断りたかったが断ることはできないというのはわかったことだ。


「わかり、ました。」


「では、新人の子は君のデスクに向かわせますね。」署長は紙の束をワングに手渡し、来た道を戻っていった。


 「はぁ。」ワングはまたため息をつき、自分のデスクに戻って事件の資料を読み込むことにした。


 ワングが資料をめくる音だけがしていたデスク内に扉をノックする音が聞こえる。


 ワングは再度ため息をつきながら扉を開ける。


 扉を開けた先には黒髪、黒目の短髪の女が立っていた。


 「初めまして、ロシ・エリカです。どうぞ、エリカとお呼びください。歯車の歯はまだ1枚です。よろしくお願いします。」と畳みかけるように勢いよく挨拶をする。


 他の州ではわからないが、この国では警察の階級章は歯車の枚数で表される。

 

 歯数が多ければ階級が上となる、だから1枚歯のエリカはたしかに新人と言える。


 「よろしく。キャスドル・ワングだ。呼び方は何でも好きなように呼ぶといい。」キャスドルはエリカから差し出されている手を握り返す。


 「とりあえず中に入れ。」


 久々に出していなかった来客用の椅子を出し、机を挟んでワング自身と向き合うように置いた。


 「君が、署長から今回の事件を共に調査するように言われた新人か?」ワングは眉間のしわを少しでもましになるようにもみこむ。


 「はい。署長から辞令を受け取りました。」緊張からか、やけに聢(しか)とした受け答えをするエリカ。


 「そうか。以前はどこにいたんだ?」


 「詰め所での勤務を行っておりました。」そうか確かに新人は交番で勤務を最初にするのが慣例となっていたのだったとワングは思い出す。


 「わかった。今回担当する事件のことはどのくらいまで把握している?」


 「今回の事件が強盗だと推測されていること以外は、把握していません。」


 ワングは、そこからか。と少し頭を抱えた。


 「わかった。これから被害者の所まで車で向かうから、それまでの間、事件資料を読み込んでおけ。」とエリカに向かって言い放つ。


 エリカはまた聢とした承諾をした。


 二人はワングのデスクから昇降機に乗り、ワングの車に乗り込んだ。


 駆動部から音と振動を出しながら車は発車した。


 「私は、歯車の歯が一枚ですけど、ワングさんは5枚ですよね?では、特注の銃、持っているんですか?」ワングが車を走らせ始めて少ししてからエリカが言う。


 「あぁ。持っている。だが、今はそんな話はいい。事件資料を隅から隅まで暗記しろ。」ワングはエリカに冷淡に返す。


 「えぇ。わかりました。」


 車内の空気が次第に悪くなっていくのでワングは窓を少し開けた。


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