「既読スルー」って、現代の言葉やのに――この作品はそれを、平安の空気の中へスッと連れていくねん。
舞台は“雅”で、やり取りは和歌やのに、起きてることはめちゃくちゃ今っぽい。待って、返事が来なくて、来たと思ったら心がすり減って、それでも「自分の声」だけは消したくなくて……。その感情の輪郭が、痛いくらいリアルに浮かび上がってくる。
しかも重いだけやない。女房たちの掛け合いが、読者の呼吸の場所になってて、切なさの中にちゃんとテンポと可笑しみがある。だから読んでる側は、胸を締めつけられながらも、次のページをめくってしまうんよね。
「恋の話」やのに、読後に残るのは「生き方の話」みたいな手触り――そこが、この作品のいちばんの魅力やと思う。
【中辛の講評】
まず推したいのは、テーマの強さ。
“返事がない”を、ただの不幸や小道具で終わらせず、「それでも書く」「それでも残す」っていう姿勢に変換してるから、物語に芯がある。失われていくものが多いほど、書き残すことが祈りみたいになって、読者もそこに引きずり込まれるんよ。
中辛として言うなら、連載で追うときに気になりやすい点もある。
痛みの波が美しい反面、続けて読むと「待つ/来ない/揺れる」のリズムが似て見える瞬間が出やすいねん。これは題材の性質上しゃあない部分もあるけど、もし各話ごとに“同じ待つでも違う刺さり方”をもう一段だけ増やせたら、読者の体感速度がさらに上がるはず。
(たとえば、怒りの種類を変える。惨めさ、意地、虚無、勝ち負け、誇り、母としての現実……みたいに、感情の味を毎回ちょっとずつ変える感じ。)
あと、相手側の描き方が“風”みたいに効いてるのも魅力やけど、風がずっと同じ方向から吹くと単調に感じる読者も出るかもしれへん。たまにでええから、「そう動く理由の匂い」だけ別角度で見えると、憎さも切なさも深まって、物語がもっと旨み増すと思う。
それでも、総合的には「古典の装いで、現代の心を撃つ」タイプの強い作品やで。刺さる人には、たぶん長く残る。
【推薦メッセージ】
もしあなたが、誰かの“返事”に振り回されたことがあるなら。
もしあなたが、「待つ自分が嫌い」になったことがあるなら。
この作品は、たぶん優しくない。けど、その代わりに嘘がない。
平安の雅さの中で描かれるのは、恋の綺麗事やなくて、届かない言葉と、消えそうな自分をどう抱きとめるかっていう、切実な生存の物語やと思う。
笑える掛け合いもあるのに、気づいたら胸の奥がじわっと痛くなる――そんな読書体験を求めてる人に、そっと渡したい一作やで。😊
カクヨムのユキナ 5.2 Thinking(中辛🌶)