第8話:ブリーフィング
緊急事態を知らせるアラームが鳴り響いた後、イコライザーを操作しウォルフとグラハムとピーターは同時にその映像を見ていた。
「なぁ、旦那。これって……」
〈怪鳥号〉船内では同じホログラムが投影されている。ディスプレイの中では四機の無人航空機が、撮影する映像が四分割された画面で映し出されていた。
無人機達が追っていたのは一人の少女だった。晴れ渡る青空を、その少女は異形の装束を纏って飛んでいた。
陽光にその姿が煌く。鋼鉄製の天使の様な翼。写真で確認した本来の物と変化した衣装。顔は能面の様に凍り、青い瞳には意思の光は無い。……UAVは彼女に対して三度呼びかけた後、本部から火器制限を解除されると攻撃を開始した。両翼の下に設けられたミサイルが白煙を上げて発射される。自分に迫り来る雲霞の様なミサイル。少女はそれを振り返らずに目だけで確認すると突如、その姿が消える。次の瞬間、それまで彼女の姿を映していたUAVが爆ぜた。四画の内一つが黒に染まった。残り三画のカメラは同時にその姿を映す。
少女は見得を切る様に滞空していた。右手には愛用の剣を手にしてる。三つのカメラが同時に映し出すその姿を見て、グラハムは呻く様に呟く。
「ノイ殿……」
それはノイだった。かつてグラハムと同じチームだった少女、ノイ・アーチェ。
彼女は瞬間移動をし不規則な地点に姿を現し、その剣で一機ずつUAVを潰していった。茶色の髪と青い瞳が画面に映ったと思うと直後に画面はブラックアウト。ノイの動きはUAVに求められた対処能力を超えており、無人機は成す術も無く落されていく。襲い掛かる一機を真っ二つに切断した後、その破片を足場にして足甲に仕掛けられた隠し足を展開。カタパルトの様にして更なる推進力を得て、次の一機に殺到し撃墜する。その光景はまるで――
「凄い、まるでジェダイの騎士からX-MENのミュータントに変わった感じ。具体的に言えばエンジェルの羽を持ったナイトクローラー……」
ピーターがそう言った直後、先程UAVが放ったミサイルの数発が追尾しノイに殺到する。一度爆炎が全てを覆うも、噴煙が晴れると障壁を張ってそれを防いだ姿が映る。最後の抵抗でUAVは機銃を掃射するが、その悉くを彼女は体捌きで回避。最後の一機が、自分を両断しようとする彼女の能面の様な顔を映したのを最後にして映像は終わった。
「ウォルフ殿。少し外せぬ用事が出来た、また今度ゆっくり話そう」
「行くのか、旦那?」
真顔のウォルフに向け、グラハムは渋い顔を向ける。
「少女一人を殺めるには、国境なき守護者は十分過ぎる火力を持っている。あの様に無人機を全機撃墜し、通告を再三無視したともあれば本部も本気で撃墜対象と見なすであろう。不幸な事に第五ザバービアの航空部隊と装備は優秀だ、撃ち漏らしはないであろうな。そして死んだ人間を生き返らす手段は存在せぬ。この二つだけはどの様な技術が流れ込んでも変わらぬ不文律だ――余は到底見過ごせぬよ」
「旦那……」
「さぁ、もう行かねばならぬ。ピーター、手伝ってはくれぬか?」
グラハムがそう言うと、ピーターは頭のゴーグルを下げた。それは彼が戦闘になった時によく行う動作である。
「まさか俺抜きでやるつもりだった? ――悪いな兄弟、俺もちょっと野暮用が出来ちまった」
ピーターが申し訳なさそうに言った矢先、ウォルフの行動は早かった。彼は座席に座ると素早く操作を行う。機体の窓にかかっていたミラーフィルムを解除し、窓には遮る物が何もない第五ザバービアのドッグ内部が映っている。そしてウォルフは瞠目する二人を尻目にこう言い放った。
「実は俺も丁度用事が出来た所なんだ」
そして彼は右の親指で操縦桿を指し。
「もし行き先が同じなら付き合うぜ? 男三人楽しくガールハントと洒落込もう」
ウォルフがそう言った時、グラハムの脳裏に一人の顔が思い浮かんでいた。
「……すまぬ。一人、声をかけたい者がおるのだ」
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