【悲報】学校一の『氷の女王』、再婚した親の連れ子だった件。 ~家ではポンコツな義妹(クールビューティー)が可愛すぎて死にそう~
Shi(rsw)×a
第1話「氷の女王と、秘密の契約(物理)」
俺の名前は、神谷悠人(かみや ゆうと)。
県立高校に通う、ごく平凡な高校二年生だ。
趣味はゲームと深夜アニメ。特技は、授業中に気配を消すこと。
友人からは「陰キャ」「モブ」などと、ありがたい称号を頂いている。
まあ、実際その通りだから反論はしない。
平穏な日常こそが至高。
目立つのは面倒くさい。
俺は、壁のシミになって、卒業までの日々を穏やかに過ごしたいのだ。
……だが。
そんな俺の平穏を、一方的に脅かす存在がいる。
「――雪城さん、マジぱねぇ」
「今日も仕上がってんな……」
教室の、一番窓際。
俺とは対角線上の、いわば『一軍』席。
そこに座る女子生徒に、クラスの(いや、学年の)視線は釘付けだ。
雪城 冬花(ゆきしろ ふゆか)。
長い黒髪は、光を吸い込むような艶やかさ。
雪のように白い肌と、すべてを見透かすような、少しだけ青みがかった瞳。
非の打ち所がない、完璧な美貌。
そのくせ、成績は常に学年トップ。
まさに、神が『美』と『知性』のパラメータを振り切った、二次元から出てきたような存在。
……ただし。
性格は、その名前の通り、絶対零度。
「……あの、雪城さん!」
ほら、始まった。
昼休み。クラスのイケメン陽キャ、確か……サッカー部のエースだったか。
彼が、顔を赤らめながら、雪城さんの机の前に立った。
クラス中が、固唾を飲んで見守っている。
「ずっと、好きでした! 俺と、付き合ってくだ――」
「ごめんなさい」
食い気味に。
コンマ一秒のタメもなく。
雪城さんは、本(確か、小難しい哲学書だ)から一切目を上げずに、そう言い放った。
「え……あ、でも、理由を――」
「興味がないので」
「……っ!」
バッサリ。
あまりの冷たさに、見ているこっちが凍傷になりそうだ。
イケメン陽キャは、顔を真っ赤にして(さっきとは違う意味で)、「覚えてろよ!」というテンプレな捨て台詞を残して走り去った。
……いや、お前、何様だよ。振られただけだろ。
雪城さんは、ふぅ、と小さくため息をつくと、ページをめくる。
まるで、何もなかったかのように。
(……こっわ)
あれが、彼女のあだ名。
『氷の女王』の所以(ゆえん)だ。
男子からの告白は、これで今月五人目。全戦全勝(全撃墜)。
(まあ、俺には関係ないけどな)
俺と彼女は、住む世界が違う。
月とスッポン。
主人公とモブA。
交わることのない、平行線。
俺は、購買で買った焼きそばパンをかじりながら、今日も平和に過ぎていく日常を噛み締めていた。
……この時は、まだ。
*
「――ただいまー」
「おお、おかえり、悠人!」
放課後。
俺は、古びた二階建ての一軒家(我が家)に帰宅した。
リビングのドアを開けると、珍しく親父がいた。
フリーのカメラマンをしている親父は、いつも家を空けていることが多い。
「あれ、親父。今日は早いな。撮影は?」
「ん? ああ、今日は休みだ。……それより悠人、ちょっと大事な話がある」
親父は、やけに真剣な顔で、俺に手招きをした。
なんだ?
生活費が尽きたとか、そういう話か?
「……なんだよ、改まって」
「まあ、座れ」
俺がソファにドカッと座ると、親父は、少し言いにくそうに頭を掻いた。
「……あのな、悠人。……親父、再婚することにした」
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
サイコン?
再インストール?
「いや、だから、再婚。結婚だよ、ケッコン」
「……はあ!? いや、相手は!? いつの間に!?」
「いやー、実は三ヶ月くらい前から付き合ってる人がいてな。……すごく、いい人なんだ」
親父は、中学生みたいに、照れ臭そうに笑う。
……マジか。
俺の知らないところで、そんなメロドラマが。
「いや、親父の人生だし、俺は別に構わんけど……」
母親は、俺が小さい頃に離婚している。
親父が幸せなら、それに越したことはない。
「そうか! そう言ってくれると助かる!」
親父は、ホッとしたように胸を撫で下ろした。
「それでな、早速なんだが……今日、その人と、その人の娘さんも、こっちに引っ越してくることになってる」
「…………は?」
「え、今日!? 今から!?」
「おう! もうすぐ着く頃だと――」
ピンポーン。
(……タイミング、良すぎだろ)
「あ、来た来た! 悠人、お前も挨拶しろよ!」
「え、あ、ちょ、心の準備が……!」
親父は、ウキウキで玄関に向かっていく。
マジかよ。
再婚?
新しい、お母さん?
……あと、『娘さん』って言ったか?
(……え、俺に、妹か? 姉か?)
どんな人が来るんだ。
ギャルとかだったら、どうしよう。
いや、それはそれで……。
「――どうぞどうぞ! 狭い家だけど!」
「お邪魔します……ふふっ、なんだか、緊張しますね」
玄関から、親父の弾んだ声と、柔らかそうな女性の声が聞こえる。
……うん、優しそうな人だ。
これなら、まあ、大丈夫か……。
「ほら、〇〇も、挨拶しなさい」
「……はい」
(……ん?)
今、聞こえた声。
少し低くて、落ち着いてて。
でも、どこか、聞き覚えがあるような……。
ガチャリ。
リビングのドアが開く。
親父の後ろから、エプロン姿の(めっちゃ綺麗な)女性が顔を出す。
「初めまして、悠人くん。私が、お父さんと結婚する……」
「あ、どうも、初めまして……」
俺は、頭を下げる。
そして。
その女性の後ろから、もう一人。
ゆっくりと、姿を現した。
学校の制服じゃない。
白いワンピース姿。
下ろされた、艶やかな黒髪。
そして、いつもより、少しだけ……不安そうに揺れる、青みがかった瞳。
「…………」
「…………」
俺たちの視線が、空中で交差する。
時間(とき)が、止まった。
「……あ」
「…………雪城、さん?」
「え?」
俺の口から漏れた名前に、彼女は、ビクッと肩を震わせた。
親父と、新しいお母さんが、きょとんとした顔で俺たちを見ている。
「なんだ、悠人。知り合いか?」
「え、いや……あの……」
(いやいやいやいや!)
(知り合いっていうか!)
(クラスメイトっていうか!)
(学校一の『氷の女王』っていうか!)
なんで、お前が、ここにいるんだよ!?
雪城冬花は。
『氷の女王』は。
俺から視線をそらすと、うつむき加減に、消え入りそうな声で、こう言った。
「……今日から、お世話になります。……雪城、冬花です」
……マジか。
マジで、言ってるのか。
(俺の……俺の平穏な日常が……)
(今日、完全に、終わった……)
「ひ、ひな……じゃなかった、悠人くん。その……ええと」
あ、新しいおD11母さん(仮)も、混乱してる。
「あ、お、お義母さん! あ、いや……ええと……」
「悠人! お前、冬花ちゃんと知り合いだったとはな!」
親父だけが、能天気に笑っている。
(笑いごとじゃねえよ!)
俺は、頭を抱えた。
これから、どうなるんだ。
この『氷の女王』と、一つ屋根の下で?
家族として?
「……あの」
俺が混乱の極みにいると。
雪城さんが、おずおずと、俺の服の袖を掴んだ。
「……え?」
「……その、呼び方……なんですけど」
(呼び方?)
「学校では……今まで通り、『雪城さん』で、お願いします」
「あ、ああ……うん、分かった」
(そりゃそうだ。バレたら、俺が全男子生徒に殺される)
「……でも」
雪城さんは、一度言葉を切ると、俺の目を、まっすぐに見上げた。
学校では絶対に見せない、不安と、決意が混じったような顔で。
「家では……その……『お兄ちゃん』って、呼んでも、いい、ですか……?」
「…………ぶふぉっ!?」
俺は、飲んでもいないお茶を噴き出しそうになった。
(お、お兄ちゃん!?)
(あの『氷の女王』が!? 俺を!?)
秘密の同棲生活、初日。
俺の理性は、早くも崩壊寸前だった――。
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