第15話
ナイフが交差する。
火花が散り俺の皮膚に焦げを作る。
この男は俺との戦闘を楽しんでいるかのように、笑いながらナイフを振るう。
「楽しいなぁ〜!!!」
―――――――――――――――――
何時間経っただろうか。
俺は体力の限界で、全身が悲鳴をあげていた。
『もう諦めろ』と。
俺はそんな身体を叩き鼓舞する。
俺はナイフを地面に置き、己の拳を構える。
男はそれを見て少し顔が曇るが、すぐに笑顔になる。
そしてその男もナイフを置き拳を構える。
そして互いに頬を殴る。
その拍子にお互い吹き飛ぶ。
ゆっくりと起き上がる。
「痛ェ……」
「やっぱりバレちゃうよなぁ〜」
その男は少し苛ついた様子でつぶやく。
「だけど……君もう限界でしょ?」
そんな言葉を俺に投げる。
俺は胸がざわついた。
身体が限界ということがバレたからだ。
「君の一撃を食らってわかったよ。 君はこの連戦で疲れているんだね…… 可哀想に……楽になればいいじゃないか、諦めて、暗闇に身を委ねたら……」
「ふざけるな」
俺は拳を握りしめ自分の太ももを叩く。
「ぶち殺してやる」
俺は素早い動きで男の背後を取る。
俺は拳を振り上げる、その男はそれを顔を横に傾け避ける。
だが、俺はそれを予想していた。
もう片方の腕で、アッパーをかます。
その男は、それを予想していなかったようで少し宙に浮く。
だが、その男は咄嗟に脚で俺を蹴りあげる。
俺は腕を交差させガードしたが、それも虚しく顎に直撃した。
どちらもゆっくりと立ち上がる。
そして殴り、殴られ、殴り、殴られ、
時間だけがすぎていく。
気づけば朝を迎えようとしていた。
エルナ達がそろそろ戻ってくる。
早く片付けないと……
俺は冷たい土の上で鉛の様な身体を持ち上げようとする。
が、動かない。限界が来た。
それもそうだ。ずっと殴り、殴られたから。
早く立たないと……
俺の指が地面に食い込む感覚がする。
全身が痛い。
もう、諦めた方がいいんじゃないか?
そしたら楽に……
そんなわけないだろ……エルナが笑って生きられる世界を……
「うぉおおぉぉぉぉぉおぉぉ!!!!!!」
俺は雄叫びをあげながら全身に力を込める。
震える腕
震える脚
震える心
俺はゆっくりとだが、確実に立ち上がることができた。
その男は木に寄りかかり、息が上がっていた。
そして、そしてそして
片腕が消し飛んだ。
俺は何も見えなかった。
その目の前で空を舞っている腕が俺のなのか理解が追いつかなかった。
目の前の男はニヤッと笑い
「プレゼントだ……」
その男はゆっくりと近づく。
「悲しいな。自分を鼓舞して立ち上がった瞬間にその心をへし折った…… 諦めが着いたか? なぁ!!」
もう少しだ。
「おーい……声が出ないほど絶望したのか……?」
俺と男の距離があと一歩の所に来た時
俺は左脚で蹴る。
そして左手で殴る。
その拍子に男は倒れる。
俺は懐に隠してあったナイフを取り出し、首に近づける。
「はっ……殺しても意味は無いことぐらいわかっているだろ?」
俺はその言葉を無視し、ナイフを脇腹や、致命傷にならない所を突き刺し続ける。
返り血が飛ぶ。その男は痛がる素振りを見せずに笑っていた。
不思議な感覚だ。
俺と瓜二つの男が居る。
そしてその男が考えていることは俺には分からない。だけど、ずっと頭の中に
『殺してくれ』
そんな言葉が響く。
俺が思っているわけじゃない。現に俺は死にたくない。
だけど、誰かの思いが俺に訴え続けている。
俺は一段と高く腕を上げる。
そして
突き刺す。
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