不遇回復術師、追放から始まる最強伝説~王城から追放された少年の逆転劇~

藍礼

第1話:異世界召喚と追放

放課後の空は、赤みを帯びた夕焼けに染まっていた。天城翼は、両手をポケットに突っ込みながら、いつも通りの帰り道を歩く。中学時代は柔道部で全国大会優勝の経験があるが、腕の怪我で引退。高校では帰宅部として、静かに日々を過ごしていた。




「翼、今日も一緒に帰るぞ!」


背後から声が響く。振り向くと、幼馴染の佐倉陽向が笑顔で駆け寄ってきた。サッカー部のエースで、学校では人気者。クラスの女子の視線を一身に受けている。




「別に俺は急いでないからな」翼は苦笑しながら答える。




その隣には春日さくら。バレー部のエースで、冷静沈着な美少女。歩く姿はまるで聖女のような気品が漂う。翼にとって、彼女は少し遠い存在だった。




「翼、ちゃんと帰れてる?」さくらの声は落ち着いているが、目は少し心配そうに揺れる。


「大丈夫だよ、二人と一緒だと安心する」翼は微笑む。




三人での下校はいつも通り平穏――のはずだった。




突然、地面が青白く光り始めた。アスファルトが波打つように揺れ、視界が光に包まれる。翼は目を覆い、宙に浮く感覚を覚えた。




「な、なにこれ……?」陽向が叫ぶ。さくらも驚きの声をあげた。




光が収まったとき、三人は見知らぬ場所に立っていた。空は深い紫色、遠くには巨大な城がそびえ立つ。草原の向こうには未知の街並みが広がっていた。




「ここ……?」さくらの声には戸惑いが混じる。


「異世界、か」翼は冷静に周囲を観察する。柔道で鍛えた集中力が、自然と頭を働かせる。




すると天から声が響いた。


「召喚された勇者、聖女、回復術師よ。我が世界を救う力を授けん」




陽向の手が自然と剣に伸びる。「勇者……だと!? やっぱり最強になれるな!」


さくらは静かに微笑む。「聖女……なるほど、納得ね」




翼には声が届く。


「回復術師よ、汝に与えられる力は……不遇なる補助魔法」




「不遇……?」翼は眉をひそめた。


声は続ける。「戦闘や回復において、聖女や司祭のほうが回復量が多く、直接戦闘で目立つことは少ない。しかし、知恵と魔力を駆使すれば、陰で戦局を変えられるであろう」




『……雑用みたいな扱いか』翼は内心で呟いた。




陽向は飛び跳ねる。「やった、勇者だ! 俺、やっぱりチートだな!」


さくらは微笑む。「翼、あなたは……まあ、後ろで支援ね」




翼は苦笑しつつ頷く。表向きは不遇でも、内心では冷静に分析していた。『誰も俺の本当の力を知らない。見下されているうちに準備を整えよう』




三人は城に招かれ、王に謁見することとなった。豪華な玉座に座る王は、まず陽向とさくらを称賛した。




「勇者よ、聖女よ。汝らの力で我が国を守り給え」




だが翼を見る王の目は冷たく、口元は小さく尖っていた。


「回復術師……君はこれだけか。戦闘でも、回復でも聖女や司祭の方が圧倒的に有用だ。ふむ……」




周囲の宮廷人も頷き、囁き声が飛ぶ。


「役立たずの回復術師か」


「荷物持ちか、補助魔法係だけだろう」




陽向とさくらは別室に案内され、王や宮廷から称賛を受ける。翼は一人、王の前に残された。




「よかろう。君にはこの国で生き延びる方法を示そう」王は小さく呟き、翼に渡したのは銀貨10枚のみだった。




「……は?」翼は思わず声を上げた。




「これで国を出て行きたまえ。君の職業では、ここに留まる意味はない」




明確な追放の宣告だった。表向きは不遇職、戦力外として扱われ、王城から放り出される――。




翼は銀貨10枚を握りしめ、深呼吸する。背後では幼馴染たちの歓声が聞こえる。二人はチート級の力で褒め称えられている。




しかし翼の瞳は冷たく光っていた。




『表向きは回復術師、不遇職……でも、俺は最強だ。誰も知らないうちに、この世界で必ず生き抜く』




小さな魔法陣を手早く描き、魔力を集中させる。派手な戦闘はできないが、戦略と補助、そして秘めた力で戦局を覆す準備は整っている。




王城の門をくぐり、翼は異世界の大地に足を踏み出した。銀貨10枚、追放、見捨てられた立場――すべては表向きだ。しかし、この世界での最強支援術師としての物語は、今、静かに幕を開けた。

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