第4話  鑑定スキルが、なんかヤバい

「あ、あの……!」


 俺がこれからの輝かしい未来(パンツライフ)に思いを馳せていると、傍らで浮かんでいたポルンが、おずおずと声をかけてきた。


「ん? どうした、ポルン」

「いつまでも『新入りさん』って呼ぶのも、あれですし……。よかったら、あなたのお名前、教えてもらえませんか?」


 名前。

 そういえば、考えてもいなかった。

 前世で呼ばれていただろう佐藤だか鈴木だか、そういう名前はもう俺のものではない。

 そのあたりの記憶もうっすらとしている。

 それに、今の俺は精霊だ。この新しい世界で生きていくための新しい名前が必要だ。


(……しかし、どんな名前にするか。ポルンみたいに可愛い感じか? いや、俺のキャラじゃねえな。かといってシュバルツなんたらとか、やたら長くて威厳のある名前も厨二病っぽいし……)


 そうだ!ポルンが俺の事を「虹色の光」がなんとかって言っていたよな。

 虹……か。七色の光と弧が描く空の架け橋。そして新たな土地での出発。……悪くない。


「そうだな……よし、決めた。アーク。今日から、俺の名前は『アーク』だ」

(虹の円弧(Arc)と、方舟(Ark)をかけた、壮大で格好いい名前。我ながらセンスあるぜ)


「アーク、様……! 素敵な名前です!」

 ポルンが、キラキラと光を瞬かせる。


「おいおい、ポルン。『様』付けなんてやめろよ。気色悪い。前みたいに普通に話してくれ」

「え、ええっ!? でも、アーク様は僕なんか比べ物にならないくらいにすごく強いですし……」


「いいから、そうしろ。俺たち、友達だろ?」


 何気なく口にした言葉だった。

 だがその一言を聞いた瞬間、ポルンの光がこれまでで一番強く、そして温かく輝いた気がした。


「と、友達……! 僕なんかが、アークさんと…! は、はいぃ! アークさん!」


 ポルンが、感極まったように俺の周りをぶんぶんと飛び回る。

(……そんなに嬉しかったのか。……まあ、こいつには、色々世話になってるしな)


 俺は、少しだけ照れくさい気持ちもあったが、悪くない気分だ。

 内心で満足していると、そのポルンが「あっ、そうだ!」と思い出したように言った。


「でも、一つだけ不思議なんです」

 ポルンが、小さな光を不思議そうに瞬かせながら、首を傾げた(そんな気配がした)。


「あの魔導士の子、あんなに強大な魔法を使ったのに、まだ使用回数が残ってるみたいなんです。今も、仲間内で自慢げに小さな火の玉とか出して遊んでますし」


 ポルンが指し示す水面を覗き込むと、そこには酒場で元気にしているアンナの姿があった。

「使用回数?」


 また新しい専門用語が出てきた。

「はい。人間が一日に行使できる魔法の回数のことです。魔力の『器の大きさ』みたいなものですね」

「ふむふむ」


「この世界にはレベル1からレベル10までの魔法の種類があって、それぞれのレベルごとに使用回数の上限が決まっているんです。これは魔導士の能力が高いほど回数は多くなるんですが……。例えば、レベル1の簡単な魔法なら一日に何回か使えても、世界を揺るがすようなレベル10の魔法なんて、伝説級の大魔道士でも、過去に使用記録があったかどうか……たぶん現在の人間界でトップクラスの人でもレベル8くらいの魔法しか使えないんじゃないですかね?」


(ほう。レベル10魔法なんてのもあるのか。聞く感じだと、よくあるロストテクノロジー的なものか。俺なら究極に興奮するパンツを見れば、そういうのを撃てたりするのだろうか……?)


 なるほど、アンナのステータスを見てみると、


レベル1:1/4

となっている。


「この1/4ってのが使用回数か? これだと一日に4回使えて、今は残り1回ってことだな?」

「えっ!? アークさん、そんなことが分かるんですか!?」

「そんなことって……普通にステータスを覗いたら、これくらい分かるじゃないか……」


 俺が当たり前のことのように言うと、ポルンは、これまでで一番というくらい、その光を激しく明滅させた。

「い、いえいえいえ! ありえません!」

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