ハルカとハルカ    泉水しゅう

@izumisyuu7

第1話「告白」と「約束」

「そろそろ言ってくれてもいいんじゃない?......」

「......そろそろって......」

「......今まで待っていたんだから......」

「えっ?......」

「私のこと好きなんでしょ?......私も...好きだから......」

「......うっ...う...ん......」

「ハッキリ言わないんだから...もうっ!...」

「だって...こんなところじゃ言いにくいよ...だって...皆が見てるし...]

ここは僕の家だ。そして今日は家族、親戚一同が集まっている...そんなところで先程の会話だ......

会話の主は僕、朝霧翔太郎と、いとこの水森陽香である......

「おおっ!いいぞ!陽香!」

「もう早く言え〜!」

「ショウちゃん!嬉しいでしょ?」

「照れてて可愛いー!」

こんなヤジに臆することなく僕を真剣な眼差しでじっと見つめている女の子......水森陽香はいとこで誕生日が同じで幼稚園から小中とクラスもずっと一緒で、休みの日や普段学校から帰ってもほぼ毎日一緒にいることもあって「ハル」「ショウちゃん」といつの間にか呼び合うようになっていた。

そして僕は陽香のことをだんだんと恋愛対象として意識するようになり、好きだと思う気持ちが大きくなっていた...

そうなったのも陽香が美人で優しくて僕にだけは気安く話しかけてくれて、僕に対して思っていることを隠さず言うことやこれと決めたことは即行動するところが今回みたいに窮地に立たされることもある......が、とにかく!一番近くにいる大好きな女の子なんだから......

僕としては早く付き合うようになって将来的には結婚したいと思っている......

陽香はというと...学校の昼休み時間の教室で女子達と恋愛観を話している時に「付き合うなら結婚してくださいだよねー...やっぱりハッキリと言ってもらってから結婚までの間を楽しく付き合っていくのがいいのよぉ〜」と、僕と机一つ分しか離れていない割と近いところから横目で視線を僕の方に向けながら『そういうことだからよろしく!』とでも言いたげな雰囲気で話していた。女子達は当然「キャー!!相手って...朝霧くんでしょ?」と大盛り上がり...陽香はその質問に否定することないために教室内は蜂の巣をつついたような状態になり、僕と陽香の二人は皆からの視線を集めてしまっていた...

僕は恥ずかしさから顔は赤面して激しく狼狽しているのに陽香はというと嬉しそうにしていて僕に笑顔を向ける余裕さえ見せていたのだった...

僕はその時を思い出して『結婚してください』と言わないとダメなんだろうなあ...ちょっと...えっ!?ちょっと!?ちょっ...ちょっとじゃない!メチャクチャ恥ずかしい!!それも!よりによって今かよぉ!...

そんな『告白』を親戚一同の前で言えっていうのかよおっ〜!!僕としては二人っきりの時に『付き合ってください』から言いたかったのに......

でも陽香に『結婚してください』と言ってとなっても言えなくもない...

どちらにせよ最終的には『結婚してください』と言うことになるのだから...それが今とは思っても見なかった...

まだ心の準備が出来ていないのだ......

それにしても陽香の行動力にはいつも驚かされる...



僕が中1の頃だった...

陽香の兄の叶空(とあ)さんからエレキギターを貰ってからギターを弾くことにハマってしまい、毎日のようにギターの練習をしていた時の事である。

だんだん上達してきた頃「あっ!F弾けてる!」陽香の笑顔が僕に向けられた。

それも自分のことのように喜んでくれた。

僕は調子に乗って曲を弾いてみせた。

「ギターだいぶ弾けるようになったねぇ!」

「うん!まだまだだけど多少は弾けるようになったよ」

「なんたってコードのFが弾けるようになったもんね!」

「そうだよ!ギター始めた頃は押さえてもポコポコって音しか出ないところもあったけど、頑張った甲斐があったよ」

「だって最初の頃は曲弾いててもFのところになると曲が止まって押さえから再スタートだったのが、今はスムーズになって曲になってるし、音も綺麗に出るようになったもんね」

「そう言ってもらえて嬉しいよ」

「弾けてるの見て...もう涙が出ちゃうぐらい嬉しくて翔太郎のことで心が満たされていくのがよくわかったの...」

笑顔が少し優しく輝いて見えた...僕はその表情に吸い寄せられてきたことに驚き

「またまたたぁ!涙が出るどころか『あっ!F弾けてる!』って、やっと弾けたかぁみたいな顔して笑ってたじゃん!」

思いもしない言葉を口にした...あっ!と思い焦りが出てきたところに僕を見ている優しげな顔はフッとし、イタズラっぽい笑顔になり

「バレてたぁ?」

「もっ、もちろん!」

合わせるように喋る...

「バレてたんじゃしょうがないなぁ...」

陽香はちょこっと舌を出し照れ笑いしながら僕の顔を見た。

「ちょっとは恋愛ドラマや小説に出てくる、優しくて心が清らかで純粋な恋愛をしている主人公の女の子みたいな感じで言えたとおもったのに!」

「残念だったな」

笑いながら話をしていると不意に何かを思いついた様子で目を輝かせながら

「そうだ!バンドしよう!」

「えっ!?」

「メンバーの心当たりあるから聞いてみるね!」

と言うとすぐにメンバー集めに動き出して即メンバーも決まり、バンド結成、活動開始となった。

その行動力にはいつも驚かされるけど...今回は凄い!一度言い出すともう止まらなくなるんだよな...メンバーが集まりバンド結成までわずか二日...

今回の陽香の行動力にはもう感謝しかない...

バンド結成が決まった日に僕の部屋に来ていた陽香とバンド用の選曲のためにCDを聴きながら...

「ありがとうハル!バンド結成なんてまだまだ先のことだと思っていて考えてもいなかったのに...本当にありがとう!」

「だってショウちゃんがこんなにギターを頑張っているのを見ていたから...何かしてあげたかったの...それにメンバーに入って一緒にバンドしたかったんだもん!」

そこまで僕のことを見ていてくれて、一緒にバンドしたいなんて言ってくれて僕は嬉しさとは違う、心にこみ上げてくる何かを感じた。そして何度好きにさせるんだ!という思いも相まって

「ハル!...すっ...」

僕は思わず言葉が出かかったが、恥ずかしさが突然大きくなって言葉が出なくなってしまった...

そして、言いかけた言葉を思い出して顔が真っ赤になっていった...

いつもこうだ!陽香に肝心なことを言おうとすると緊張と恥ずかしさで何も言えなくなってしまう......

なんで恋愛に関しては寡黙な人になるんだろう?...

他のことなら全然普通に喋れるのに......

「なに?ショウちゃん!...どうしたの?...何か言いかけたようだけど...顔真っ赤だよ!?...」

「いっ...いやっ!...なっ...何でもないよ...」

その言い方に陽香は何かピンっときた顔に早変わりし

「あーっ!」

「なっ何?」

そう言いながら狼狽している僕の姿を見るなり

「絶対に何か言おうとしてたでしょ?...なんだか照れてるっぽいし...ん?...あっ!『好き』とか言いたかったんじゃないの?」

こういう時の陽香の勘は冴えている。言おうとしていた言葉をすぐに言い当てる。

言い当てられた僕はもう赤面した上に目が泳いでいてもうバレバレとしか言いようのない状態だった...それでもバレないようになんとかしようと......

「だっだだ...だから、なっなな何でもないって...」

必死に誤魔化したつもりだったが思いとは裏腹に言葉はバレバレの引っかかりまくりのセリフに

「じゃあ何を言おうとしてたの?...何でもないなら教えてよ!」

「 ...... 」

陽香の毅然とした態度にもう僕は何も言えなくなってしまった......

「やっぱり言わないんだ!こんな時のショウは私に『好き』とかそんな感じのことを言おうとしても結局言わなかった時の態度よね?だんまりなんて小学生の頃から変わってないからすぐ分かるもん!」

「わっ!わっ!わっ!わっ!」

「やっぱり図星だったみたいね?...どうなの?」

「......うん......」

ニヤリとしたハルカは...

「じゃあバツとして『好き』って言って!」

そう言うと陽香は僕の横からベッドへと歩き軽く飛ぶようにして座り、笑顔のまま静かに目を閉じた...

僕の顔が赤面して激しく狼狽するのをわかっていて、尚且つそれを無視して『早く言いなさい』と催促するかのごとく何も言わずにいた...

こうなっては僕は言われたとおりにするしかない...

もう完全に僕の負けだ...

陽香に向いて直接言おうとすると緊張と恥ずかしさで言葉が出ないことを見透かしているのか、カーペットの敷かれた床に座って僕の横にいたのにわざわざベッドの方へ移動したことに感謝しながら...今なら何故か言えるような気がする...彼女に顔を向けて自分の本心を打ち明けるつもりで...本当に、ずっとずっと前から好きだったと言いたかった気持ちがいつもより大きく膨らんでいてもう...いつか言おうと決めていた言葉を今、ついに言うことができたのだった......

「陽香...好きだよ...」

いつもとは違い静かに目を閉じたまま聴いていた陽香は閉じているはずの瞳から溢れんばかりのキラリと光るものを流し始めた...

そして溢れ出るものを隠すように俯き、両手で覆い...その隙間からは夕日に映って光るものが彼女のスカートを濡らしていった......


◇陽香◇


私は翔太郎のいつもとは全然違う言葉が私の心の中にとても温かい何かが入ってきて、それと同時にじーんとなんとも言えない胸の中の感覚に幸せを感じて涙が自然と溢れ出して......どうしたの私?......

「翔太郎の意地悪....」

私はいつもとは明らかに変な、でもすごく嬉しくて幸せな感じでいる...

「...えっ?......」

これって翔太郎の気持ちなの?......そうなのね?...

自分の中で考えて出てきた答え...

「......今、見えたの......」

濡らした頬を拭いながら...

「本当かどうか分からなくって......」

「......えっ?何が?......」

今まで物凄く心配だった翔太郎の気持ちが半信半疑から確信へと変わって...私の心からこみ上げてくるものが何であるかに気付いてしまった......

「違っていたらどうしようって、毎日悩んでいたの......」

「ん?......悩んでた?......」

「もう...あなたは知らなくてもいいの!...」

「ええっ!何で?....悩みなら聞いてあげれるし...」

「もう分かったからいいの!...」

「そっそうなのか?...」

「そう!今から本気でいかないと!」

「ほっ本気で?...何に?...」

翔太郎の言ってくれた言葉の大きさに負けまいと...絶対に!...絶対に私の夢を叶えるために本気で全力でいこうという思いが強くなって...必ず叶えると心に決めた私がいた......


◇翔太郎◇

「陽香...好きだよ...」

やっと言えた!...

陽香に届いたかな僕の気持ち......

(えっ!泣いてる!!!!......言い方が悪かったのか?...)

「翔太郎の意地悪...」

「...えっ?...」

やっぱり言い方が悪かったんだ......

どうしよう...今更言い直しますなんて言える状況じゃないぞ!!!陽香を泣かしちゃったし................

「......今、見えたの......」

ええっ!?何が見えた?僕の焦っている顔かぁ?..........

それとも冗談っぽく見えて勘違いされたか????????

「本当かどうか分からなくって......」

んんん?やっぱり冗談っぽく見えてたみたいだ.......

ヤバいヤバい......のか???

「......えっ?何が?......」

本当にずっとずっと前から好きだったんだよおおお!

「違っていたらどうしようって、毎日悩んでいたの......」

今言ったのは毎日悩むことか?言ってくれって言われたから違う何かか?......

「ん?......悩んでた?......」

何に悩んでた????

あんなに元気いっぱいの陽香にどんな悩みがあるんだ?...毎日悩むなんて...一体......

「もう...あなたは知らなくてもいいの!...」

「ええっ!なんで?....悩みなら聞いてあげれるし...」

悩み事ぐらいはいくらでも相談に乗るし...それとも僕には言えない何かがあるのか?

「もう分かったからいいの!...」

「そっそうなのか?...」

ええええっ!今までちゃんと言わなかったからか?

それなら緊張はするけど恥ずかしがらずに言うようにするから!!!!

「そう!今から本気でいかないと!」

「ほっ本気で?...何に?...」

本気で何をするんだ??もっと『好きです』って言わせるのか?でも本気だぞ?何なんだ?本気って?

陽香は何に本気になったのかわからないけど...僕だって本気で『好きです』って言ってやる!!......



さて、今親戚一同が集まっているのは僕と陽香が中学を卒業して高校に合格(同じ高校)したので卒業と合格祝のパーティーをしているのだ。

陽香とは中学を卒業してからもほぼ毎日会っていて今日のパーティーの食材の買い出しにも一緒に行っていた。僕の家に食材やパーティーの準備をしてある程度準備ができたところで「ねえ、ショウの部屋に行こ!」陽香は少し緊張した面持ちで言ってきた。

「おう!いいよ...」

僕は断る理由もないのでいつもどうり部屋に行こうとしたら手に柔らかく温かい感触が...陽香が僕の手を握り、手を引いて陽香から僕の部屋に入っていった。部屋に入るなり

「この部屋はいつ来ても落ち着くわぁ」

「そりゃ毎日来てるからなぁ?」

いつもの会話だと思っていたら陽香の笑顔が急に緊張したような面持ちに変わり

「ちょっと真面目な話があるの......」

「ん?......どんな話?......」

僕は一体何の話だか分からずにいると

「私達もうすぐ高校生になるんだから...今日正式に言って欲しいの......」

僕は突然言われたことに呆気に取られてしまい...

「えっ?なっ...何を?」

「忘れたの?」

そう言われて僕は何のことだか分からずに

「せっ...正式に?」

頭に浮かんだ気になる言葉を聞き返すように口に出した。

「......そう......」

今日はパーティーの日もあって真っ先に思いついた。

「パーティーのお礼をするのか?」

「もう!違うでしょ!......今日...言って......」

「えっ!?...今日?......何を言うんだ?......」

僕の頭には今日言わなきゃいけないことばかりに集中していて焦ってしまい、何を言うのか分からず聞き返してしまった。

「あーっ!忘れてる!!」

そのセリフに僕はなにか言わなきゃいけないことを必死に考えたが今日言わなきゃいけないことばかりを考えていて焦ってしまっている......

「えっ?えっ?えっ?......何かあったっけ??」

「もぉーっ!また言わせるの?...小1の時に約束したでしょ?...約束!」言いながら陽香は僕を睨みつけた。

「...あっ!」

『約束』と聞いて僕は今、思い出した!......

僕達が小学生の頃に陽香が言った『約束』のことを......

それは小学生になって間もない頃〜

「翔太郎!私のこと好き?」

「うん!好きだよ!」

「ハルも翔太郎のこと好きだから大人になったら結婚しよ!」

「うん!いいよ!」

僕はあの頃『結婚』の言葉は知っていたけど一緒に家に住むぐらいにしか思っていなかったし、単純にいつも一緒にいる陽香のことが好きだったというのもあって一緒にいたいから『うん!いいよ!』と言ったと思う...たぶん......

「でも翔太郎から私に言ってよ!...絶対!今のはハルから言ったから無しね!」

「えっ!僕から言うの?...なんか恥ずかしいよ...」

「いいの!『結婚して』って言って!大人になる前に言ってよ!...大人になって結婚する前に言う約束よ!」

さすがに当時小一の僕でもなんとなく恥ずかしいと感じていた...

『結婚して』なんて言う事を考えてもいなかったのだから.....

「大人になる前って...いつ言うの?」

「じゃあ『言って』って言うからね!」

「うん!言ってね!」

たぶん当時の僕は小一の会話だし遊び感覚の約束程度にしか考えていなかったと思う...

「約束よ!」

「うん!」

小一の頃の何も考えずにする軽い返事...

あの頃の『約束よ!』と言った時の陽香は僕を睨みつけながらそのことを言っていたと思う...

それからは僕に『約束』のことを何回も言ってきていたので覚えていたが...小六だったかな?「好きって言って」に変わっていってたから陽香も忘れたもんだと思っていたし、僕も完全に忘れていた...だけど陽香の僕を睨みつけて『約束』という二つのキーワードが合ったかのようにあの頃のことが徐々に思い出されてきた...

「今日言ってもらってショウと一緒の高校生生活を楽しみたいの...どう?」

「そっ...そうか...」

じゃあ今から彼女になってくれるのか?...

いや...小一の時の『約束』だから『結婚しよ』だよな......

...ええっ!『結婚してください』って言わなきゃいけないのかよぉっ!

でも...もう陽香と付き合っていたんだっけ????......

...まだ付き合ってなあぁいっ!!......

だったら付き合ってくださいとか彼女になってくださいが先だよな......なんか順番があああっへっへんだぞおおおっ!!

付き合うのすっ飛ばして結婚???......えええええええーっ!?

でも確かに『今日正式に言って欲しいの』って言ってたよな...

何かの聞き間違いか??遥かに聞いてみることは...

陽香の顔を見ると...いつもの笑顔ではなく、真剣な表情で僕のことを見ている......

うわああああああああああああああーっ!!!!!!

とても聞ける状況じゃないでしゅ!!聞けましぇーん!!!

まっまずは『付き合ってください』だよな......でも、正式にって言ってたから『結婚してください』だろうなぁ...

頭の中は混乱していて同じ言葉を繰り返し、まるで傷が入って同じフレーズを奏でるCDのようになっていた...

...とっとっとりあえず直にはとても聞ける雰囲気ではないのでそれっぽい方向から確認を...

「はっ陽香っ...これって凄く大切なことだよな?」

「もちろんよ!これを言ってもらわないと未来がすべて変わるから!」

『未来がすべて変わるから』だとぉっ!!

『結婚してください』だああああああっ!!

やっぱりですかああああああああああああーっ!!!

そうこうしている間に

「おーい!準備できたから集まれー!」

『すっ救われたぁー!』

「もぉーっ!翔太郎が早く言ってくれないから!...パーティー終わるまでに言ってよ!......言わないと...こっちにも考えがあるから...いい?」

陽香は必ず言ってよと言わんばかりの強い視線を僕に向けたあと、イライラした様子で部屋を後にした。

「......うん......」

僕はそれしか言えなかった...

でも...どこで言うんだ???親戚一同がいるところで...

これは...陽香を呼んで僕の部屋で言うしか...ん?あれっ??...しまったあああああああああああーっ!!!!

言うのは『今』だったでしょおおおおおおーっ!!

失敗したああああああああああーっ!!!

陽香はそんなことを見透かして僕の部屋で言ってって.......ごめん!!!

「どうしよう????」そうこう考えているうちにパーティーは始まり大人は酒も入り会話も弾んでいるところに陽香の「そろそろ言ってくれてもいいんじゃない?」だ。

僕は不意をつかれてしまい、飲んでいたサイダーを吹き出して咳き込んでしまった...そして「...そろそろって...」と言ってしまって今の状況だ。

親戚一同に両親、妹まで僕のことを見てる...

それも、皆ニヤニヤしながら...

この『ニヤニヤ』が始まったのは中3の夏休みのある日、僕の家での食事会の日だった...

三家族とも仲が良くてよく会うし、なんたって父さんの三兄弟と母さんの三姉妹が結婚しているのもあって食事会なんかもよくしている。

その日は台所で女全員が集まっていつものように色んな話をしていた...

そして食事中もワイワイと楽しくしていたところでふと気がつくと僕と横に座ってる陽香を見て女性陣がニヤニヤしていたのが始まりだった...

父さんも叔父さんも陽香の兄さんにも母さん達がボソボソと僕には聞こえない小声で囁いたと思ったら...男性陣までニヤニヤし始めたのだった...

それからは陽香の姉さんの百香さんが「陽香はいい子だからよろしくね」とか、「兄ちゃん!陽香姉ちゃんと結婚しなよー!」など言われ出したのだ。

(なんで急に皆ニヤニヤしてるんだろう?...)

それも陽香と一緒の時に限って言われるもんだから恥ずかしくて赤面していたが、陽香も笑顔で「よろしくね!」とニコニコしていたのだった。

今思えばあの日に陽香が何か皆に言ったんだろうということも分かってはいたが...

「翔太郎は私に結婚してください」って言ってくれるからとでも話していたに違いないと今気がついた...僕以外の皆がすでに陽香に言うことを知っている...そう思っていると

「早く!皆の前で言って!」

陽香の声に皆頷いている...

やっぱり皆知っているんですかあああああああーっ!!

それって晒し者じゃん!メッチャ恥ずかしい!!

心臓はバクバクと脈は早くなり、赤面状態、今!正に進退窮まっているのだ!!

「恥ずかしがらずになぁ!」

「親同士見ているからしっかり言えよ!」

陽香の父の叶悟(きょうご)さんと父さんは酒を飲んで酔った勢いなのかこんなことを言った...

「こんなのは早く言った方がいいわよ!」「さっさと言いなさい!」陽香の母美香さんと母さんも皆に混じってこんなことを......

「そうそう!高校卒業と同時に結婚っていいわよ!」「そうそう!」母さんの妹の有香さんと美香さんまでこんな事を言う始末だ...

でも、確かに母さんの姉妹は皆、高校卒業してすぐに結婚している。

僕がなかなか言わないでいると...

「言わないと...皆の前でチューするぞ!」

「ええっ!!」

陽香はこんな状態にいても立ってもいられずにとんでもない発言を...

一瞬シーンとしたがすぐに皆は大盛り上がり...

「チュー!チュー!」

「しろ!しろ!」

「遅かれ早かれするんだから今やれー!」

など、僕は八方塞がり状態になりもう『告白』するしかない...

誰が見てもはっきりと分かるほどの美人で僕にとっては世界一大好きな女の子だ。

さすがに皆の前でチュー!?はあまりにも強烈過ぎてトドメを刺されて死んでしまうかもしれない!!

もう言おう!とした時だった...

「もうしちゃうよーっ!」

と言うと同時に陽香が僕の方に近づき陽香の温かく柔らかい両手が僕の頬を優しく包んでいった......

「陽香!好きだよ!結婚しよう!」

正にチューされる直前に言えたのだった...

それを聞いた陽香はその体制から抱きついてきた...

そして瞳には今にも溢れそうなほどの涙が浮かび、その潤んだ瞳には僕の顔が映り込んだまま僕を見つめていた...

「はい!喜んで!......翔太郎大好き!ありがとう!」

僕は皆の前でついに『告白』をしてしまった...



告白をした後はお祭り騒ぎでまた、皆からの祝福もあり昨日は大変だった。

今日からは高校入学の準備で僕と陽香のは一緒に連れ回されていた。制服のサイズ合わせに靴や鞄選びに...高校の入学式の確認など...あれこれしているちにもう入学式の前日に...

今日は陽香の家で食事会だ。準備も終わりかけた、そんな時に陽香が

「部屋に来て...」と言うので準備を済ませて陽香と一緒に部屋へ...

しかし、いつ来てもきちんと片付けられている、優しい花の香りが広がる部屋に百香の机と陽香の机が窓際に並ぶように置かれている姉妹一緒の部屋。普段は陽香が僕の部屋に来ているから、陽香の家での食事会の時ぐらいしかこの部屋に来ることはない。

やっぱり女の子の部屋はいつ来ても少しの緊張でドキドキする...

だって大好きな女の子の部屋だ。ドキドキしない訳が無い。

このドキドキは陽香にバレないようにするため、つい冗舌になってしまう...

「明日は入学式だな?いよいよ高校生かぁ」

「うん!一緒の入学式ね!」

「小中高とずっと一緒だな?」

「そうね、入学式は一緒に行こうね!」

「うん!時間間違えるなよぉー」

「ショウじゃないもん!間違えないって!」

「中学の入学式の時、いつも学校に行く時間に迎えに来たじゃん!入学式は午前10時からだったのに午前7時半ぐらいに来たもんなぁ」

「えっ!そうだっけ?」

目線は泳ぎながらも僕の『どうだ』という視線を躱し『覚えてませーん』とでも言うようなセリフを口にした。

「そうそう!そんなことより高校に通うんだから間違って中学校に行かないでよ」

先程の会話から話を変えようとした陽香だが無理があるぞ。まあいいけど...

「それは流石にない!だって高校の制服着てるんだから...」

「それならいいけど...あっ!明日からも今まで通り迎えに行くからね!」

「おう!よろしくな!」

「お寝坊さんだもんね...毎日迎えに行くの面倒だからこの家に住んじゃおうかなぁー?」

「えっ!へっ部屋空いているとこあったっけ?...」

「ショウの部屋に決まってるじゃん!」

「おいおいおいおいおおいっ!」

「だって婚約者だもんね!」

そう言うと陽香は頬を少し赤らめて照れたような顔をしていた。

僕はと言うとその言葉を聞いて......

「...............」

いつもの赤面状態だった......

「あっ!」

陽香は突然何かを思い出したかのように声を上げた。

「どうした?」

「今思い出した!明後日は誕生日よね?二人の....」

「おお!そうだった!忙しくて忘れてた!」

「やっぱり?そうだと思って今日言っとこって思っていたの。誕生日が一緒で良かったでしょ?忘れん坊さん!」

「忘れん坊って、何でも忘れるわけじゃないからな!」

「そうだっけ?...まあいいか!」

「明後日は学校から帰ったらショウちゃん家でバースデーパーティーするもんね?」

「忘れるなよ!」

「忘れないもーん!」

「明日から高校生か...」

「学校も一緒、誕生日も一緒って嬉しいよねぇ...幸せだなぁ......」

「楽しいことは多い方がいいよな?こうやって毎日陽香と一緒にいるのがもう、う......」

「ん?...今何か言いかけたなぁ?......もっと恋愛に強くなれー!」

言いながら陽香は僕に抱きついてきた......

「わわわわわっ!」

「いいでしょ?......もう婚約したんだもん......」

うっとりとした表情で優しく包み込むように抱きついてきた陽香を見ているとなぜか緊張が消えて......

僕も自然に陽香の身体を抱きしめていた......

僕よりは少し低かった身長差が抱きしめたことにより、さらに差は縮まって僕と彼女の顔を近づけていた......そして二人の視線が合い、何も言わずに見つめ合ったままだった......

そして彼女は目を閉じ...

「ガチャ!」「陽香ー!翔太郎ー!食事の用意できたよー!」

ドアを開けながら百香さんが部屋に入ってきた。

二人はドアの音にビクッとして咄嗟に離れようとしたが逆に腕に力が入ってしまった二人は離すどころかそのまま強く抱き合ったまま固まってしまった......

「あらあー!、いいとこだったみたいね?気にしないで続けてても良かったのにぃー!」

「兄ちゃん!チューしないの?」百香さんと妹の彩香はちょっと顔を赤らめながらも何かを期待している笑った目が、僕と陽香にとってとんでもなく恥ずかしく、顔から火が出るくらいに真っ赤になっていた......それも抱き合ったままになっているのを忘れて......

「ああっ!何だかお邪魔だったみたいね?では姉ちゃんは退散しましょ!」

「妹ちゃんも退散しましょ!バイバーイ!」

「ではごゆっくりと続きをお楽しみくださーい!」

「楽しみー!」

二人はニヤリとしながら静かにドアを締めていった。

ドアの閉まった部屋に静けさが戻り、二人はまだ抱き合っていることにハッとして赤面したまま少し俯きながら抱きしめていた手をゆっくりと離して数秒間そのままでいた......

「......もう!......姉さんったら!......」

「彩香もいきなりだもんな......」

「......そうよ......」

何だかバツの悪そうな顔をした二人は目線を合わせるとなぜか一緒に笑いだした。

「あははははははは!」

「あははははははは!」

二人とも同じような笑い方で...

「食事の用意できたみたいだから行きましょ!」

「うん!行こう!」

二人は今まで以上に仲良くなったことを感じながら部屋を出ていった。



陽香に「結婚しよう!」と言った後のことだった。

両親から

「陽香ちゃんとの約束は必ず守れよ」

「もう言ったんだから覚悟しなさいよ」

「いいか翔太郎。結婚してくださいと言って相手が頷いてくれた時から結婚するまでは婚約になったということだだからな」

父さんから言われた後に母さんから

「陽香ちゃんに婚約指環を渡すのよ」

「指環は翔太郎が絵rべ、指環代は気にするな。ちゃんと選んで陽香ちゃんに渡すんだぞ」

「翔太郎、明日母さんと一緒に行きましょ」

母さんと一緒に指環選びに行くことになった......

次の日、宝石店で悩むこと2時間、悩みに悩んだ末決めたのはシンプルなデザインで小さなダイヤが一つ入ったものにした。

サイズ合わせ(サイズは事前に母が確認していた)の為出来上がったのは陽香の家での食事会の日で、朝一番に取りに行き午後からの買い出し〜食事会までの午前中に指環の渡し方について教わることになった。

「婚約はね、本当は伝統的な結納式があるのだけれど今日は食事会で親戚全員集まるから略式結納をするわよ...いい?」

「...うん、わかった...」

たしか母さんの妹の有香さんも一生(かずき)さんとの結納を見ていたけど食事会の前にしていたよな。「翔太郎...緊張するだろうけど、頑張りなさいよ。仲人は有香と一生さんに頼んであるから」

仲人は母さんの妹夫婦だ。

「なっ仲人って?」

「仲人って言ったら両家の仲を取り持ってくれて、わかりやすくいえば『サポート役』って言ったらわかるかしら?」

「サポートかぁ、うん!わかる!」

「今日は結納の司会進行をするの。そして結婚式も結婚後も相談に乗ってもらえるから」

「そっかぁ」

「今日は有香ったらお腹大きいのに絶対やるって聞かないのよこの数日で生まれるみたいなのに...翔太郎、きちんとお礼言っとくのよ」

「生まれそうなのに?結納式の時に生まれたりするの?」

「それはないと思うわ予定日は確か五日後って聞いてるから」

「そうなんだ。もし生まれたらってちょっと焦った...」

「それよりも、翔太郎、あなたは渡すときのセリフを覚えなさい!いい?渡すのが遅れてすいません。これを受け取ってください。婚約指環です。って言ったら指環を渡すのそして翔太郎、あなたが陽香ちゃんの左手の薬指にはめてあげてね」

「うっ...うん......」

「ええっと...なんて言うんだっけ?」

「もう...じゃあ書いておくから覚えなさい!いい?」

「うん...わかったよ......」

僕は母さんに書いてもらったセリフなどを覚えた...でも緊張したら言えるのか?と思いながらも......できる限りきちんと言えるように何度も何度も繰り返していた。

あっという間に時間は過ぎ、陽香の家に行く時間になった。

「しっかりね!」と背中をポンと軽く押すような感じで母さんが言った言葉には、これから先に待っているいる結婚に対して自覚を持っていくようにという思いもあるように伝わった...

僕の母の三姉妹は結婚が早い。母の家系は昔からそうだったらしい。

母の妹の有香さんも高一で婚約していたもんな...

その時に陽香もいたし...陽香は目を輝かせて結納を見ていたのを覚えている...

結婚の早い家系らしく陽香も百香さんも小さい頃から、遅くても高校卒業までに婚約して結婚しなさいって言われていたらしい...

中一の頃に陽香と百香さんが食事会の時に百香さんは大学に行きたいと言って美香さんの言葉を無視しているようだったが...

陽香は結婚する気満々だった。気が付けばいつの間にか陽香は僕にベッタリでいつも一緒にいることに気付いた美香さんと母さんは「陽香はどう?」「陽香ちゃんと結婚しなさい!」と言われ出したよな...確か小1ぐらいだったかなぁ...最近まで言われてたから分からないけど......

その時に一緒にいた陽香は「ねっ!ねっ!ねっ!結婚しよ!」って皆の前では笑顔で言っていたような気がする...そのあたりで結婚の約束させられたんだろうな......今ではほとんど覚えていない.....あのキーワードの言葉ぐらいしか...

その頃から今までは冗談なのか本気なのかわからなかったけど......

今となっては本気だったのだと思わざるを得ない...

だって今から『結納式』が始まるのだから...



部屋から出て二人で食事の用意されている部屋に入った。

「陽香ちゃん!翔太郎!二人はこっちに座って!」母さんの指差す方に向かい座った二人はそこからの景色に驚いた......

僕達の座っている位置から皆の机は縦になって座っていた。

「今日はいつもとは違う特別な食事会よ!」

美香さんが皆に聞こえるようにいつもよりはっきりとした声で、『特別』な食事会(結納式)が始まる...

















































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る