勇者の脅迫:血統と地位を人質に
譲歩案の提示
シオンの激しい宣言に対し、大臣や貴族たちは恐れながらも、勇者の力を手放すわけにはいかないという現実的な判断を下した。彼らは、シオンを完全に敵に回すことを避けつつ、魔王リリスを排除するための譲歩案を提示した。
大臣の一人が、震える声でその条件を読み上げた。
「勇者シオン殿、我々も貴殿の功績を無視するわけにはいかない。ゆえに、この案で手を打ちたい」
1.魔王リリスの処遇: 権力を剥奪し、王国から永久に追放すること。
2. 勇者シオンの処遇: 王国に留まり、聖女フィオナと正式に婚約を結ぶこと。
3. 接触の禁止: 今後一切、魔王リリスとの私的な接触を避けること。
「これで、魔王の脅威は去り、勇者殿は聖女という清らかな存在を得て、王国に残る。これ以上の問題は起きないでしょう」
勇者の拒否と究極の脅迫
シオンは、その条件を聞き終わるなり、鼻で笑った。「その条件は呑めねぇって言ったよな? 良いのか?」
シオンは、大臣たちを見下ろした。その視線は、かつて数多の敵を滅した、冷徹な殺意を帯びていた。
「アンタたちがこの先、新たな勇者を見つけたくなっても、そう簡単にはいかない」
シオンは、自分の出自に言及した。
「俺の父上や母上の直系の子供は、俺しかいねぇ。俺の血筋を辿れば、確かに親戚の末席に手を出すなら、いくらでもいるかもしれないがな……そいつらが勇者になるかどうかは、俺の気分次第だ」
シオンは、ゆっくりと、しかし確信をもって断言した。
「分かるか? このことがよ」
彼は、自身の血統と、その血統が持つ「勇者」という地位の重みを、彼らに突きつけた。勇者とは、単なる肩書きではない。それは、この国を戦乱から守るための唯一の希望であり、神託に近い存在だった。
「俺の口添え一つで、『勇者の資格』なんてものは、簡単にひっくり返るぞ。俺が『そいつは臆病者で資格なし』とでも言えば、お前らが生み出す新たな勇者の権威は、地に落ちる」
そして、シオンは究極の脅迫を口にした。それは、彼自身の「ふざけた返し」の根底にあった、仲間のためなら自分さえ犠牲にするという歪んだ優しさと、冷徹な決意の表れだった。
「いいか、よく聞け。俺の『シオンの血』を、この国で未来永劫絶やしたくなかったら、リリスの席を開けろ。追放なんかじゃなく、俺の隣の席をな」
シオンは、自分の命さえも取引材料にした。
「さもなくば……俺は、一族全員皆殺しにする。もちろん、俺も含めて粛清対象だ。俺が、『勇者の血』の終焉として、一族のすべてを道連れに、この国から消えてやる」
大臣や貴族たちは、シオンの常軌を逸した脅迫に顔面蒼白となった。彼らは、シオンがこの言葉を本気で実行に移す男であることを、戦場で見て知っている。彼は、仲間が危険に晒されるならば、どんな非道な手段も選ぶ。そして今、リリスという「設計者」こそが、シオンにとって最も守るべき「仲間」となっていたのだ。
「勇者殿! それはあまりに!」
「うるせえ。答えは一つだ。リリスを解放し、俺の妻と認めろ。さもなければ、この国は、永遠に勇者を失うことになる。よく考えろ、お前らの愚かな政治と、未来のどちらが大事か」
シオンの「自己破壊を伴う脅迫」は、王国の中枢に深々と突き刺さった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます