罵声の中の真意:シオンがリリスを必要とする理由


罵声と侮蔑の嵐

シオンの「愛なんて生易しい言葉は好きじゃねえ」という宣言と、「魔王を解放する」という行動は、王城に集まった大臣、貴族、そして各国の外交官たちにとって、愚行であり、裏切りであった。

独房の前での宣言後、シオンは即座に、彼を批判する人々に包囲された。


「現実から逃げた勇者が、今さら何を言うか!」


「国を捨てておいて、都合よく戻り、今さら英雄気取りか!」


「魔王に誑かされた不貞の夫め! その女と共に地獄へ落ちろ!」


「我々の腹が満たされた? それは魔王の罠だ! お前は人類の敵だ!」


罵声と侮蔑が、鋭い刃のようにシオンに浴びせられた。彼を尊敬していたはずの者たちからも、失望と怒りの視線が向けられる。


シオンの反論:過去と現実

シオンは、その罵声の嵐の中で、静かに、そしてゆっくりと周囲を見回した。いつものふざけた表情は、この時ばかりは完全に消え失せていた。


「ああ、その通りだ」シオンは、静かな声で言い放った。その声が響き渡ると、一瞬にして罵声が止んだ。


「俺は逃げた。戦争という地獄から、現実に吐き気を催して逃げ出した臆病者だ。そして今、英雄気取り? 笑わせんな。俺は英雄なんかじゃない。俺は、お前らが作り出した地獄の残骸だ」


シオンは、自身を罵倒した者たちに、過去の凄惨な記憶を突きつけた。


「俺は、お前らが『正義』と叫んで送り出した戦場で、お前らが守りたいと言った仲間が、目の前で化け物に変わり、死ぬ様を何度も見た。戦争の向こう側にあったのは、愛でも平和でもなく、お前らの醜い欲望と、その結果の血と泥だけだった」


彼は、独房のリリスに向かって一歩踏み出した。

リリスが必要な理由:設計図と実行力


「それでも、俺は今、この女(リリス)を必要とする。愛だの、優しさだの、そんな気休めの言葉のためじゃねえ」


シオンは、大臣や外交官たちを指さした。

「お前たちは、俺が命を懸けて戦っていた時でさえ、互いの私腹を肥やすことしか考えていなかった。この世界の構造は、お前らの愚かさでガチガチに固められてる。どれだけ聖女様が清らかな言葉を叫んでも、お前らのその分厚い欲望の壁は崩れない」


そして、彼は独房のリリスに向き直り、強い決意の籠もった目を向けた。


「だが、この女は違う。この女は、俺が探していた『戦争の向こう側』を、『共存』という実現可能な設計図として示し、実際に実行した。お前らの権力闘争の隙間を縫って、国民の腹を満たし、新たな仕事と平和な道を作り上げた!」


シオンは、改めて宣言した。


「俺は、この女の冷徹な知性と、圧倒的な実行力が必要なんだ。魔王という肩書きは、その知性と力の象徴だ。俺が欲しいのは、平和な世界の土台だ。その土台を作るのに、お前ら人間は無能すぎた」 


彼の言葉は、彼らを侮蔑し、リリスの力を肯定するものだった。


「覚えておけ。俺が結婚したのは、俺が逃げ出した現実を、未来永劫変えてくれる唯一の設計者だ。俺は、命を懸けて、この女の計画を、最後までやり遂げる。邪魔をする奴は、誰であろうと、容赦なく潰す。これこそが、俺の『戦争の向こう側』だ!」


シオンは、自らの過去を恥じることなく認め、その上でリリスを「世界を変えるための絶対的な存在」として定義した。彼の決意は、すべての罵声を打ち砕き、城内の空気を一変させた。

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