第四章:人として、人だから。
第49話 医者が死んだら、誰も救えないのよ!
ヒギエアと合流を果たしたホムラたち。
一団は、黒煙立ち昇る大穴の近くにベースキャンプを設営していた。
大穴は、秘密基地から一〇〇キロ先にあった。
相応の距離がある中、ヒギエア陣営が迅速に行動できたのは、ミカからの位置情報を知らせるメールが全スタッフに一斉送信されたからだ。
しかし端末が不所持の中、誰が送信したのか謎が残った。
ともあれ無事の確認と情報交換を行えば、次いで大穴の調査に移る。
大規模爆発の影響で、活火山並の熱量を放出している。
迂闊には近づけず、現状、観測機器による定点観測が限界であった。
『しっかし背中の傷が消えつつあるとか、相棒、どんな身体してんのよ?』
トレイラー内にある一室。
ホムラは新しい制服に袖を通しながらダブルの疑問に耳だけは傾ける。
「さてね。お陰ですぐ動ける」
イルクスの攻撃を身に受けながらも、レベル0を維持しており、健康体との診断出る。
傷の治りが早すぎると驚かれるも、身体の造りが良いからと片づけた。
『なんかあっけない終わりだったね』
「悪党の結末なんて存外そんなもんだよ」
愛を探求するAI<QC>。
地球に舞い戻ることで実験再開を望んでいた結末は、我が子の裏切りとは皮肉だった。
いや、もしかしたら先に裏切ったからこその応報かもしれない。
「あの規模の爆発だ。QCのコアどころかリリの身体も残ってないだろう」
『せめて亡骸を弔いたかったけど』
無機物らしくない発言である。
だが、弔いは死者への哀悼と敬意をもって行われるが故に。
「ただね、謎は残ったかな」
『ボクたちのこと? 詳細データならトオミネ博士から受け取ってるけど? 見る?
「いや、それは後でいいよ。謎ってのは時折聞こえていた声のことだよ」
『そういやリリと声帯の波長が似てたね』
「やっぱり、そう思う?」
謎が矛盾になる。
目の前に現れたリリ本人と、今まで導いてきた謎の声。
同じリリならば、どちらが本物か、謎が沸く。
『今ある問題は一年後に起こるこの星の大爆発を、どう防ぐかだよ?』
「イルクスが一定の数に達すれば惑星の核が爆発するとあるから、イルクスを減らすのが堅実だけど」
問題はイルクスの正確な数だ。
移動都市の外には野生化したイルクスがいる。
海が干上がった広大な地故、正確な個体数把握は困難に近い。
仮にEシステムを使って、レベル四からレベル0にし続けても惑星爆発が先に起こるだろう。
「あっ?」
ふと窓から外を覗けば、ミカがこの車両に近づいている。
車内からの視線に気づいたのか、手を振ってきた。
『思った以上に、元気そうだけど、大丈夫かな?』
一言多いはずのダブルが、気を使うなど成長しているようだ。
「そうだね、気晴らしに今の地球ついて話してみるのもいいかもしれない」
さて、どこから話すべきか、ホムラは思考を巡らせる。
『お? 衛星軌道上から通信感知』
ミカが扉を開いたのと、オープンチャンネルで通信が強制的に開かれたのは同時だった。
<発進のご案内をします。ただいまより二四時間後、外宇宙航行艦アークは地球に向けて発進します。繰り返します。ただいまより二四時間後、外宇宙航行艦アークは地球に向けて発進します。この艦は地球に
女性的な電子音声がメッセージを繰り返す。
端末が開いてもいないのに勝手に起動する。
見れば宇宙空間とおぼしき映像が映し出され、巨大な宇宙戦艦が偉容さを露わとしていた。
『あのクソAI! 自分がくたばった時の保険を用意していたのかよ!』
ダブルより苛立ちが走る。
無人航行できるようプログラミングされているはずだ。
地球到着までどのくらいかわからない。
地球に
航行中、エンジントラブルやデブリ衝突を期待するのは浅はかだろう。
QCはそれすら予測して、保険の保険、裏の裏を仕込んでいる可能性があった。
『むっん! 宇宙船の大きさを仮計算! 仮計算完了! だいたい全長五〇キロメートル! 重さ不明! 出力不明! あ、ホムラ、先に言っておくけど、変身しても宇宙空間までジュワーンと跳んで行けないからね』
釘を差したつもりのダブルだがホムラの表情は苦いときた。
頭では理解できていても理性では納得していない顔だ。
「なら、どうやって止める! どうやって宇宙に行く!」
時間もあまり残されていない。
苛立ちは焦燥となりホムラの胸を焦がす。
「でも対処は出来るわ」
思い出すようにミカは言った。
その目は決意に染まり、ホムラを見る。
「ホムラさん、あなたと初めて会った遺跡は覚えているわよね?」
「あ、うん、僕が眠っていた石棺があった場所だね」
「義姉様が残した資料によると、あの遺跡、いえ宇宙船には大陸間弾道ミサイルが搭載されているみたいなの。機械に追われてロクに調査できなかったから、手つかずのままのはずよ。宇宙に行けなくとも、そのミサイルでアークを攻撃できるかもしれない」
『あ~それ無理だね』
ミカの提案を否定するのはダブルだ。
証明するようにアークの全容を壁面に投影する。
『アーク全体にデブリ除けの皮膜式バリアが覆われているよ。ミサイルで攻撃しても無駄になるのが目に見えている』
「そ、そんな……っ!」
可能性を潰され絶句するミカ。
ホムラは腕を組んでは口をへの字にして黙したままだ。
『ただ、そのミサイルを上手く使えれば、アークを中から破壊できる可能性はある』
ダブルの目線は、むっつり顔のホムラに向けられている。
相棒の提案を察したホムラはため息混じりで頭皮をかく。
「つまりはミサイルをロケット代わりして僕たちを衛星軌道上まで撃ち出させる。そしてアークを内部から破壊して航行不能にする、か」
「そ、そんな危険すぎる! 仮に成功してもどうやって地上に帰るの!」
リスクは承知だが、他の提案が浮かばないのは事実だ。
「まあミサイルもロケット技術の応用だしな」
人を乗せて飛ばすか、爆発物を乗せて飛ばすかの些細な差。
安全性は、変身状態なら問題なく耐えきれるはずだ。
「そうと決まれば、すぐ出発だ」
「あなたはそれでいいの!」
ホムラの決意を遮るようにミカは叫ぶ。
必死の形相で叫び、その手を強く掴んでいた。
「死ぬかもしれないのよ! 戻ってこれないかもしれないのよ! チーキューの危機かもしれないけど、今ここにいるのがあなたの世界なのよ!」
「かもしれない。けど、僕には地球を救う理由がある。地球の危機であり、この惑星の危機でもある」
「どうしてそこまでするの!」
きれいな顔が涙で歪む。
ホムラはミカと向かい合えば己の胸を叩いた。
「僕が皆を救うヒーローだから」
誰かを救う。
助けを求める者を救う姿こそホムラの描いたヒーロー像だ。
ただ目の前で泣きじゃくる女の涙を止められない姿に胸が痛む。
「なら、約束、してよ。絶対に帰ってくるって、戻ってくるって、あ、あなたがいないと、患者を救えないのよ。医者が死んだら、誰も救えないのよ!」
顔をうつむかせて嗚咽にあえぐミカの頭をホムラは優しくなでる。
『ひゅーひゅー』
ダブルは二人から視線を外して、吹けていない口笛を吹いていた。
当人(?)からして空気を呼んだつもりだが、口笛が台無しとなっている。
「すぐ皆に説明するわ。遺跡まで少し遠いけど、飛ばせば一〇時間でたどり着けるはずよ」
涙を拭ったミカの目は決意に染まっていた。
ならばこそ、決意に応えるためにもホムラは帰還せねばならない。
惑星ガデンに戻らねばならない。
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