第32話 ヒッサーツ、超縛殺真滅渦龍連波

「何者だ?」

 対峙するホムラは獅子の怪物に誰何する。

「お仲間だが? そっちこそ、なんでエセ感染者守ってんだ? 俺たちを迫害するような奴、守ってぬぁんの得になんだよ?」

 会話は通じるようだが、話は通じなさそうだ。

 なにより感染者と口にする口の悪さは、ダブルより酷い。

 ダブルとてそこまで言わない。

「子供を守って何が悪い?」

 嫌悪を隠さず言い返そうと、相手の返答は腹をかかえた大笑いだった。

 相手を見下しコケにする悪ガキのような笑いが、どこか癪に障る。

「あーひゃっひゃ、守るだあ? どうせバケモノになるってのに守る意味ないだろう? どうせ行き着くんだ。ならちぃと早くバケモノになったほうが楽だっての。これから起こるパーティーを楽しもうぜ」

「ふざ――けるな!」

 気づけばホムラは獅子の怪物の間合いに踏み込んでいた。

 プラズマによる瞬発的な加速。

 相手も一瞬で間合いを詰められるのを予測していなかったのか、笑っていた顔が凍り付く。

(何だ、あのバックルは!)

 間合いに踏み込んだ時、獅子の腹部に鉱石とは異なる機械的なバックルが目に付いた。

 Aのアルファベット文字を右斜めに傾けたようなバックル。

 ただの装飾品には見えない。

 その正体をダブルが看破する。

『バックルから七晶石ゲミンニュウム反応だ! なんでだ! レベル四は身体そのものが鉱石だから外部からエネルギーなんて得る必要ないのに!』

「誰が教えるかってんだ!」

「そうか、なら拳で聞くまでだ!」

 ホムラは青き拳を打ち込まんとする。

 その腹部に拳が触れる寸前、ダブルが叫んだ。

『反応追加! 右! 左!』

 どっち、と口走るホムラだが、正誤は、左右から走る衝撃で判明する。

「ぐああああっ!」

 左右から身体を貫く衝撃に、ホムラの身体は真上へと叩き上げられた。

『右腕及び左腕アーマー損傷! 防御力低下だけど稼働に問題なし! なんだこいつら、並のイルクスじゃ傷つられないアーマーだってのに!』

 上がったのなら落ちるのが常。

 重力に引かれて都市部に青き身体が落ち掛けた時、七色の翼がホムラの瞳に映る。

「はいやあああっ!」

 鷲の顔を持つ怪物が、その鋭利な鉤爪つきの脚でホムラを蹴り落とした。

 胸部に凄まじい熱が走り、ホムラを呻かせる。

「がっ!」

 蹴撃を受けたホムラの身体は道路に激突する。

 アスファルトは落下衝撃で砕かれた。

 陥没した穴の中で、痛みにあえぎながらもホムラは立ち上がらんとする。

「しゃあああああっ!」

 道路に一つの刃が走る。

 アスファルトを削りて迫るのは、パニック映画で見るヒレだ。

 道路は砕け、ホムラの目に巨大な顎が大写しとなる。

「ぐうううううっ!」

 左右の鋭利な歯がホムラに喰らいつき、下半身を噛みつかれた。

 正体は鮫の頭を持つ怪物。

 凄まじい咬力で喰らいつき、道路を窪地状に削りながら、咬みちぎらんとしている。

『腰部アーマー耐久値低下中! このままだと三分後に下半身がおさらばだ!』

「んなくそっ!」

 ホムラは噛み砕きから逃れんと、ビームセイバーを抜き取った。

 噛みつかれ、飲み込まれかけた経験はゼロではない。

 ただし、あくまでバトルホビーでの話。

 現実ではゼロだ。

 下手に突き刺しても効果がないことを知っているからこそ、光刃の先端を、鮫の怪物のこめかみに突き刺した。

 だがビームの先端は、はじけるように霧散、傷一つつけられない。

「なんだと!」

『解析完了! この魚、いや、この三人、全身にエネルギー皮膜が形成されてやがる! ナノどころかフェムトすっ飛んで、ゼプト単位の複層皮膜だと! これじゃ攻撃は通じない! こっちの電磁場が複層皮膜と緩衝して、粒子ごと霧散されちゃう! 殴っても同じだ!』

 鮫の顎はホムラを喰らいついて離さない。

「お~い、シク、ほどほどにしとけよ」

「そうだぞ、オイラたちが遊べないだろう」

 獅子と鷲の怪物は、介入せず、笑いながらことの成り行きを眺めている。

「はがはがふがしゃ!」

 鮫の怪物が仲間に返答したようだが、口にを入れているため、聞き取れない。

「くっ、そっ!」

 ふたつの意味で腹にきているホムラは、脱出方を模索せんとする。

 鮫の怪物は、下半身に喰らいついたまま、右に左にとホムラの身体を振り回し、脱出を許さない。

 青き上半身が何度も家の壁や路面に叩きつけられる。

 咬力と違ってダメージは微々たるものだろうと、その都度、伝わる衝動が離脱の阻害となっていた。

『あああ、もうバリア張っても、張った側から霧散される!』

 どうする、どうするとホムラは、身体蝕む恐怖と激痛の中、どうにか思考を奮い立たせる。

 己の力量だけで勝てるほど戦いの世界は甘くはない。

「天の時、地の利、人の運、そうだ!」

 ホムラは太古の言葉を思い出す。

 好機に恵まれても、地の利を活かした戦略にはかなわない。

 地の利も人の団結力にはかなわない。

『相棒、もうやべーよ! 限界だあああああっ!』

 ダブルは手足があるようにバックル部から叫ぶ、

 ホムラは諦めない。

 怪物たちが笑っているが、笑うなら笑うが良い。

 掴み取るのは窮地からの脱出ではない。勝利だ!

「掴んだ!」

 コンクリートの壁面に激突した瞬間、壁は崩落。

 瓦礫の中、手を伸ばしたホムラは勝利を掴み取る。

「データを流用しているなら基本建築は同じか!」

「ふがしゃ?」

 青き手が握るのは、補強素材として用いられる鉄棒であった。

 青きプラズマが迸り、鉄は赤熱化する。

「ばっかでえ、今更そんな棒きれ突き刺しても無駄だってのに」

 獅子の怪物から哄笑がしようと関係ない。

 笑いたいなら、そのまま大口を開けておいてくれ、手間が省ける。

「外は頑丈だろうと、中はどうかな!」

 ホムラは、腕を鮫の口内に突き入れる。

 腕をレール代わりに鉄の棒を電磁場で加速させ、鮫の口内に打ち込んだ。

「ふんしゃあああああああっ!」

 口内で爆発が起こり、衝撃はホムラを強制的に解放する。

『さすが相棒、外がダメなら中からは定番だよな!』

 解放されたホムラは、バックステップで距離をとる。

 ついで視線をパン屋へと向けた。

 鮫のお陰で距離ができたのは怪我の功名。

 戦闘に巻き込まれる可能性は低いだろう。

「(ミチカさんの症状は気になるが今は)ダブル、ダメージチェック!」

『下腹部の装甲値が四割低下だ。デカいの受ければ半身欠損を覚悟してくれ!』

 ホムラが下腹部を見れば、咬み続けられた影響で無数の亀裂が走っている。

 ミーローをモデルとしている身体だが、まだまだ謎は多い。

 アーマー部位だけ砕けるのか、それとも下半身が逝くのか、実証はしたくない。

「キック技は、無理、だな」

 反動で砕け散るリスクもあれば、パンチを放とうとすれば、下半身で踏ん張るため、こちらも反動が来る。

「へっへっへ、良いこと聞いたぜ~」

「なら、集中攻撃だ!」

「しゃーしゃしゃ!」

 まるで相手の落ち度を見つけたように、三人のイルクスは笑う。

 その癪に障る笑い方は、学校に三人ぐらいいる悪ガキのようだ。

「お前たち、何者だ!」

 ホムラが誰何するのは、思索の時間稼ぎだ。

 微々たる間だろうと、それが隙となり、現状を打破する瞬間となればいい。

「あぁ? 俺、<バイデント>のラオ、こいつルイで、これシク」

 伸びる爪を指先代わりにして、獅子の怪物は、手短な紹介を終えた。

(獅子がラオ、鷲がルイ、鮫がシクか)

 ご丁寧に名乗る頭はないらしい。

 一方で、いたぶる気は満々ときた。

「さっさとこんなのぶっ壊して、この都市でもパーティーだ!」

「おうよ!」

「しゃー!」

 三人にとってホムラは、目的を妨げる邪魔者の認識でしかないようだ。

 来る、と思考をホムラが走らせた時には、取り囲む形で疾走していた。

 ただ疾走しているだけだが、生じる風圧が渦を描き、四方からホムラの身体を押さえつけてくる。

『なんちゅうエネルギーの気圧だ! 身体そのものが鉱石だから、取り囲んでからの高速移動で獲物を逃がさない! このままだとボクたちは絶体絶命を浴びせられる!』

 状況を正確に分析しながらも声を震わせるダブル。

 対して、身構えていようと、ホムラは声どころか身一つすら震わせていなかった。

「へっん、恐ろしさのあまり棒立ちだな!」

「きりきりざんである!」

「しゃーしゃしゃー!」

 高速で渦巻くエネルギーの奔流により、誰が発言しているのか、突き止められない。

 ホムラは頭上を見上げる。

 取り囲まれたのならば、頭上からの脱出が定番だが、この三人が見逃すはずがない。

 何より、迸るエネルギーの渦がホムラの身体を抑えに来ていることで真上への脱出すら容易ではない。

「「「「ヒッサーツ、超縛殺真滅渦龍連波あああああああっ!」」」

 三人が一斉に飛びかかる。

 渦で対象を拘束し、頭上から三人同時に飛びかかる。

 一人を避けようと、残る二人の攻撃は避けられない。

 獅子の牙が、鷲の爪が、鮫のヒレが、ホムラへと一斉に殺到する。

『ガキのネームセンスだな!』

 笑えないと吠えるダブル。

 一方でホムラは青き手をダブルに添える。

『ちょおお、相棒、見えねえええよ!』

 視界塞がれたダブルは抗議する。

「パン屋の清掃後」

 ホムラの呟きにダブルは黙る。

 ない口の端を弓なりに歪めて笑う。

 三方からの同時攻撃が逃げ場のないホムラを貫いた。

 ――はずであった。

「「「へぇ?」」」

 三人は真っ正面から身体を衝突させていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る