第二章:自分だけのヒーロー(my only hero)

第23話 僕の名は

 あらゆる産業が機械による無人化が押し進められた時代。

 農業はおろか戦争ですら、人の代わりとして機械が置き換えられた時代。

 発展の象徴とした時代。

 偽りの大地を宇宙に築いた時代。

 宇宙で働くことこそ、時代の花形とされた時代。

 月までタイムラグなしのテレビ通話。

 端末を手に持つことなく情報取得。

 自動車は浮いて走る。

 宇宙警察と宇宙海賊の捕り物ショー。

 週末は家族で木星旅行。

 水星まで転送装置で日帰り出張。

 軌道エレベーターにより、地表と宇宙の行き来は楽々。

 戦争が起ころうと機械が代わりに行ってくれる。

 誰もが悲しまず、誰の命も失われない。

「人類滅亡の分水嶺となる、この戦争は起こるべくして起こったと記されています」

 起こるべくして起こった機械と人の戦争。

 暴走した機械が、人類を一方的に蹂躙する。

 問題を深刻にさせるのは、AIが敵兵を殺すには敵兵となる人間を殺すことだと、効率的に突き詰めた結果ではない。

 ましてや、機械は人間が生み出したからこそ、機械を生み出す人間をなくせば平和になると過剰思考に陥ったわけでもない。

「暴走原因は、オートメーションマシンAIのエラー、バグであったとされています」

 後世では、戦火の火種とされていた。

 ただ、どの惑星で、どの機械から、と発端は戦乱にて消失、現在では憶測だけが一人歩きしていた。

 確かなのは一つ――人が感染症にかかるように、バグはウイルスとしてネットワークを介しあらゆる機械に伝播、修正パッチは間に合わず、暴走した機械は人類を無差別に襲いだしたこと。

「特に開戦初期は凄惨を極めたそうです」

 バグだからか、機械は人間を殺し、加工し、人型兵器として運用する。

 有機と無機の融合兵器、いわゆるサイボーグだ。

 人間をバグにより材料と誤認したのが原因だと語る歴史家は多い。

 また男、それも父親の使用率が高かったとの証言もあった。

 多くの赤子、新生児が忽然と消えた、女性をさらうのは機械を生ませるためだとデマが走った。

『人間を、兵器に、赤子まで』

 通信機が各所からおぞましき声を拾う。

 兵器の部品に意志などいらない、必要ない。

 ただ歯車のように消費され、使い潰される。

「人類は団結しては戦いました」

 家族を、我が子を、恋人を、友を守るため、武器を手に機械と戦った。

 それでも狂った機械に苦戦を強いられる。

 機械にメンテナンスは必要だが、休息、休眠は必要ない。

 何より、生き残った数少ない記録ではエネルギー切れを起こすことなく一〇〇年以上、稼働し続けた機械すらあった。

 守るべき命が一人、また一人奪われていく。

 対して倒すべき機械は、一どころか、一〇〇と製造する。

 月をはじめとした衛星や、火星や水星など宇宙に築かれた生活圏は壊滅。

 残る人類の生活圏は青き惑星、地球のみとなる。

 人類滅亡が迫る中、一人の科学者の奮闘により人類は勝利する。

 そう勝利は、した。

「この戦争にて総人口の七割が失われました。地球以外の生活圏は壊滅となりました。数多の未来、数多の可能性が潰えました。生き残った人類は、涙を拭き、歯を食いしばり、前を向いて復興を進めました」

 戦争の爪痕は深かった。

 人々は疲弊していた。

 だが、足を止めていては何一つ変わらない。

 変えられない。

 亡くなった人たちは帰らない。

 まず生き残った者たちが行ったのは戦争原因からの決別だった。

「教科書では、戦火の拡大原因となったあらゆる機械兵器を全廃棄したと記されています。ですけど考古学に詳しい友人が言っていました。破棄されたのならば、廃棄に必要な施設や、廃棄した後の残骸や記録が残っているはずが、何一つ残っていないと」

『まさか、廃棄した先は……』

 ミカから息を呑む音が漏れる。

「確かに全ての機械を捨てることはできません。実際、四〇〇年後の時代でも機械はあります。自動車とか飛行機とか惑星ガデンより劣りますけど。ただ全ての兵器を、戦争を捨てることはできます。当時の状況から見るに、廃棄施設を新設どころか再建する余力なんてあるはずがない。ならどこに廃棄すべきか、考えられるのは――」

『……宇宙』

 無限に等しき広大な空間に大量廃棄した。

 そして繋がるのは、かつて惑星ガデンで起こった一つの事変<大衝突>。

「地球と惑星ガデンが、どれほどの距離か分かりません。何故、四〇〇年前の機械が二〇〇年後に落ちてきたのもまた。機械遺構に地球の言語が使用されていることから、廃棄された機械で間違いないはずです」

 人類滅亡へと追いつめた戦争の全てが宇宙に投棄された。

 あらゆる兵器を捨て、戦争と決別する。

 確かに機械を使っていたのは人。

 兵器とは機械を介して人が人の命を奪う道具。

 人がいる限り戦争はなくならないだろう。

 だが、この戦争は機械により引き起こされた。

 よって戦争原因を宇宙に追放するのは至極当然であった。

 ただ芽生えるは一つの疑問――

『でも、なんで宇宙に? 墜落原因はともかく、太陽に遺棄した方が効率的のはずよ?』

「今となっては分からない、としか」

 地球圏以外に知的生命体はいない、と仮に結論づけられた。

 だとしても下手をすれば、別惑星にて火種となりかねない。

 実際、惑星ガデンでは機械遺構の所有権を巡る衝突がある。

 一方で、機械遺構より得た技術がなければVギアは開発されず、虹死病イリーテムにて当の昔に滅んでいたはずだ。

「結論から言えば、四〇〇年前、人と機械の戦争<キ人戦エキ>があった。戦争をたった一人で終結させ、人類を存続させた英雄がいた」

 戦災の名は虫食いであろうと、英雄の名は残った。

 地球では知らぬ者はいない。

 戦争集結に尽力を果たし終局間際、命を落とした英雄の名は……。

「英雄の名は、アドル・トオミネ。彼は最強の兵士でもなければ、あなたたちのように医療に携わる者でもありませんでした」

 奇跡的に残された記録によれば、よくいる科学者の一人であった。

 凡庸だが、愛妻家で子煩悩だとされているが詳細は不明だ。

「彼の開発したロボット停止プログラム。このプログラムを彼が開発できなければ、地球から人類は滅亡していました」

 今では教科書に載るほど知らぬ者はいない。

 また、英雄の血統は今なお絶えず、子孫たちも優秀な科学者として地球の戦後復興と発展に貢献した。

「僕の両親も例に漏れず、揃って科学者で、生きているうちに軌道エレベーターの基礎理論を構築して先祖みたいに名を残すぞ、と揃って語っていました」

『軌道エレベーター、宇宙と地上を繋ぐ大規模長距離エレベーターね。構造は単純だけど、地表と宇宙を安定して繋ぐこと、倒壊に備えた事故防止策、工期が長いと問題が多いけど、実りも多いって、かつてこっちでも研究――え? 先祖みたいに?』

 ミカの声が我に返り、驚に突かれる。

 驚かれているのはホムラ当人慣れている。

 模型制作技術は非凡だが、学業は凡庸な子供の先祖が英雄であるならなおのこと。

「僕の名前は、ホムラ・トオミネ。かの英雄、アドル・トオミネの子孫の一人です」

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