第8話 パンツください

「た、倒した、の……?」

 ミカは悲しい目で呟くしかない。

 巨人はまっぷたつとなり、砂煙を巻き上げながら仰向けに倒れていく。

 幾人もの仲間が、自分を守るため、殺人機械の盾となり犠牲となった。

 組織として恨まれるのも疎まれるのも、そして殺されるのも理解している。

 不条理に命奪われる怒りと悲しみも理解している。

 正しいと行動しているからこそ、起こる事態だと把握している。

 それでも歩みは止められない。

 止めれば世界の延命はできないのだから。

「代表、どうしますか?」

 ただ一人生き残った護衛の男性は、ミカに指示をとう。

 ノールックで手持ち火器の動作確認を行っていた。

 白亜の柱より現れ、怪物に変身した謎の男、ストームジェイスイサン。

 圧倒的な戦闘力と比例して口調は柔らかい。

 レベル四の危険度からして味方と安堵できない。

 人の意志を持つレベル四ならば、テロ組織<バイデント>の仲間、と疑心が生まれるのは必然だった。

『代表、ご無事ですか!』

 拡声器を介した声が響く。

 無数の駆動音が荒野に響けば、キャラバンで待機していた仲間たちが装甲車で駆けつけてきた。

 一〇人全員、武装した状態であり、車から飛び降りれば、ミカを守る壁として青き怪物の前に立つ。

 視線とアサルトライフルの銃口は青き怪物に向けられていた。

 青き怪物は状況を把握しているのか、倒れた巨人の前から動かずにいる。

 グリップから赤き刃を消し、困った空気を醸し出して両手を上げていた。

「すいません。遅くなりました!」

「お怪我は!」

「銃を降ろして」

「で、ですがあいつからはレベル四反応があります!」

 銃口突きつける仲間に、ミカは疑心を振り払う。

 疑心はあろう。

 あろうと、人の意識があり、言葉が通じるならば、確かねばならないことがある。

(リリと言った。もしかしたら……)

 助けられた行動を鑑みて、可能性に賭けた。

「降ろしなさい!」

 強めの語気で仲間たちは、ようやく銃口を降ろしてくれた。

 ただ、人差し指は引き金に添えられたまま撃てる体勢を崩さない。

 ゆっくりとミカは青き怪物に近づいていく。

 両手を上げたままからと、警戒を崩す愚か者はいない。

 誰もが一斉に銃口を向ける。

「状況がまったく掴めないのですが」

 青き怪物はゆったりとした口調で揺るぎがない。

 強さ故、余裕ある証明か、誰もが緊張を走らせる。

 誰の目が強く語る。

 代表に手を出せばどうなるのかと。

「銃を降ろしなさいと言ったはずです!」

 ミカは落雷のような強い語気を放つ。

 誰もが従わない。

 従えない。

 命を守る者の命を守る。

 それが彼らの使命だからだ。

 もし青き怪物が敵対行動をとれば、全員が全員、身を挺してミカを守り通すだろう。

「確認するわ。言葉は通じるわよね?」

「通じてますけど?」

 青き怪物から敵意と悪意は感じられない。

 仲間に警護される形だが、ミカはどうにか意志疎通を図ろうとする。

「とりあえず、早速で悪いですけど、お礼の一つぐらい、いいですかね?」

 ミカは目尻に警戒色を込める。

 金か、身体か、周囲の誰もが緊張を走らせる。

 緊張を高めるのは、青き怪物が腹部のバックルに左手を添えたことだ。

 ガチャリと上部にスライドする形でバックルは外される。

 青白い光りに全身が包まれるなり、青き怪物はベルトを巻いただけの全裸男になっていた。

 下腹部を見ようと悲鳴上げるミカではない。

 医療に身を置く者として、様々な人のモノを見てきた故、羞恥心で縮こまる器量は持たなかった。

「嘘、だろ、れ、レベル四からレベル0への低下を確認」

 仲間の一人が震え声で驚愕する。

 驚異度が下がろうと警戒と銃口は下がらない。

「そう、ですね……」

 全裸のベルト男が口を開く。

 何が飛び出るのか、内容次第では銃弾が先に飛び出す緊迫した空気の中、男は言った。

「パンツください」

 緊張した空気は一瞬で崩壊する。

 全裸故にパンツを求めるのは当然の合理性だ。

 笑ってはダメだと誰もが銃火器構える中、銃口を震えさせている。

『そうだよな、いつまでもフ○チンじゃカッコつかねえもんな』

 ふと場を壊すような子供の声が全裸男の手からする。

 男も声に気づいたのか、音源に視線を移す。

 誰もが視線を向ける中、男が握る物体。

 つい先ほどまでバックルに装着していた物体だ。

 物体は男の手から離れ、風船のように浮き上がっている。

「だ、代表、この物体、確か、先日回収した」

 誰もが困惑と驚きを隠せない。

 白亜の柱に眠っていた全裸男としゃべり出した謎の物体。

「なんだ、きみは?」

 使用した全裸男が眉根と声を尖らせている。

『失敬な、ボクにはダブル(W)って立派な名前があるっての。ご立派なモン持ってるそっちこそなんだよ?』

 全裸男は謎の物体ダブルの反論に黙る。

 目線を女性に向ければ、質問をぶつけていた。

「僕は、ホムラ、のはずだが?」

 小首を傾げている男だが、真っ直ぐな瞳に嘘の色彩は感じられない。

 曖昧さがあろうと、ミカは一つの仮説に行き着いた。

(もしかしたら、柱から解放した影響で記憶障害が出たのかもしれない)

 ならば責任の一端は自分たちにある。

 加えて状況がわからぬ中、命を救ってくれた。

 パンツ一枚のお礼では足りなさすぎる。

「彼を、彼らを保護します」

 ミカの鶴の一声に誰一人反対しなかった。

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