第7話 感謝します
予期せぬ形での外界への脱出。
ミカが安堵を抱くことはない。
荒野に立つのは頭部と胸部のない巨大人型機械。
全長五メートルある機械は、空洞の胸部に殺人機械の上半身を収納していた。
「あ、あれはデモリッションマギア!」
「あいつら建造物破壊用の機械まで持っているのかよ!」
本来なら邪魔な建造物を破壊するための大型重機。
人間に使うなど常軌を逸脱しすぎているが、相手が相手だからと納得できてしまう。
潰えていた機械の目に光りが灯る。
穿たれた穴より現れた青い怪物を捉えるなり、巨大な腕を振りかぶる。
「ふんっ!」
青い怪物は、こともあろうに抱えていたミカたちを宙で離していた。
突き放すことで生じた両者の間を巨大な腕が通過する。
生じた風圧が殺意を持ってミカの肌をかすめ、緊迫の微電流を流す。
「ほっ!」
弾むような青き怪物の声がした時、二人揃って襟首を掴まれる。
伸びきった巨大な腕の上をレールとして青き怪物が疾走する。
機械人形の目がその動きを捉えた時、頭部を足場にして跳躍の起爆剤としていた。
「ひ、ひえええええっ!」
地面との距離が開けていく光景に情けない男の悲鳴がする。
ミカとて悲鳴をあげずにはいられない。
なのに不思議と悲鳴一つ出なかった。
謎の安心感は着地にも証明される。
まるで鳥の羽が水面に落ちるが如く、青き怪物の着地は、高度を裏切る嘘のように静かな着地だった。
衝撃は一つもない。
あるのは荒野に刻まれた一対の足跡だけ。
休まる暇などない。
彼方より飛来する無数の銃撃音と荒野震わす足音が迫る。
機械の巨人は左右の五指より銃弾を放ちながら迫っている。
銃器など本来の機械にはない装備。
青き怪物は二人を守るように立てば、手足を振るう。
飛び交う銃弾を突き上げた肘で弾き、突き出した膝で銃弾を弾く。
中には銃弾をその手で掴めば、投げつけ衝突させる。
並の人間ならば瞬く間にミンチになっているはずが、その青き身体に一切の破損はない。
銃撃が止もうと巨人の進撃は止まらない。
三人を巨大な影が覆う。
正体は機械人形の足裏。
銃撃で縫いつけられている間に接近を許していた。
回避は間に合わない。
重質量が潰しにかかる。
「ぐううっ!」
ミカは今なお無事だった。
青き怪物が、両手両足を大きく広げて、巨人の足裏を真上から受け止めていた。
「そこの二人!」
歯を食いしばる苦い声が青き怪物からした。
「僕が抑えているうちにとっと逃げて!」
両腕は今にも折れそうに震えている。
足裏が荒野に食い込んでいく。
巨人は体重をかけて押し込んでくる。
「でも!」
この場から駆け出すのは容易い。
容易いが、同時に容易く命を奪われる。
現に巨人は五指の銃口を足下に向けて、逃げ出す瞬間を狙い定めている。
「僕がどうにかするから、あなたたちもどうにかして!」
青き怪物が腹より響く声を出した時、襟首辺りから赤き燐光が漏れ出した。
赤き燐光はマフラーのようにたなびき、凄まじき渦を巻いて女性たちをその場に縫いつける。
「はああああああああっ!」
裂帛の声が青き怪物から放たれる。
巨人の身体が後ろに傾く。
抑え込んでいた巨大な足裏が、ほんの少し浮き上がる。
青き怪物の足裏がなお深く荒野に食らいつく。
「嘘、だろ」
男は愕然と、巨人が仰向けに倒される光景を目の前で見つけられた。
質量差を物ともせず潰されることなく逆に押し返した。
砂埃と衝撃を荒野に走らせる巨人。
呆気にとられている間に青き怪物は、仰向けに倒れた巨人の上を駆ける。
コアであろう殺人機械に向けて拳の連打を浴びせていた。
硬き音が衝突する音が荒野に響く。
「くっ、硬い! 合体して強度も上がったか!」
打ち付けた拳に些かの損耗はなく、巨人もまた装甲に凹みすらない。
巨人の右手が動く。
飛び交う羽虫を払うように、青き怪物に振るう。
だが、空振りとなり、青き怪物は距離をとる形で荒野に着地していた。
破損部位を狙おうにもご丁寧にカバーで覆われている。
「なにか、なにかないか!」
青き怪物は周囲を見渡している。
状況を打破するため、使える物がないか探しているのだ。
ミカは何かできるかと端末を取り出した。
位置的に距離があろうとキャラバンがある。
なんらかの支援要請ができるはずだと可能性を信じた。
「え、なに、これ……?」
ミカは勝手に起動した端末に困惑する。
端末は個人生体認証により他者が易々と使用できるものではない。
意志を持つかのように起動、不明データをキャラバンに送信している。
(……大丈夫)
懐かしき声をミカは聞いた。
丘一つ超えた先から何かの発射音がした。
弧を描いて飛来するのは一つのトランクケース。
先に反応したのは巨人だ。
通じぬだろうと拳を打ち続ける青き怪物を無視して指先の銃口を向ける。
ただ飛来する物体を狙い打つなど、機械には容易いこと。
巨体に振動が走ったと同時、指先より銃弾が飛び出した。
銃弾はトランクケースから大きく逸れ、何処かへと飛んでいく。
機械の目が振動の原因を捉える。
発砲直前、青き怪物が右脚部に蹴りを入れて発射軸をズラしてきた。
巨人から応酬として拳の雨が降り注がれる。
トランクケースが荒野に埋もれる形で落ちる。
ミカが急いで駆け寄れば、トランクケースを開封する。
中には白いグリップが収納されていた。
グリップの正体がわからずとも、状況を打破するため賭けに出る。
「これを使って!」
ミカはグリップを掴めば、力の限り青き怪物に向けて投擲する。
巨人の拳が降り注ごうと、青き怪物は右に左にとステップを踏んでは避けていく。
その軌道を読むかのように、青き怪物は飛んできたグリップを掴み取っていた。
「感謝します!」
ただ短くも確かなお礼の言葉が青き怪物からした。
巨人の拳が青き怪物に迫る。
ブンと握るグリップに赤き燐光が灯される。
ザン、と風切り音がした時、一つの影が荒野を転がっていた。
それは振り下ろしたはずの巨人の拳。
巨人はカメラで右腕を映す。
手首から先がなく灼熱色に染まっている。
切り落とされた部位の表面温度が六〇〇〇℃を超えている。
太陽の表面温度と同じ。
たかだが一本の棒きれが原因だと疑うしかない。
青き影が棒きれより赤き刃を宿して肉薄する。
左手から銃弾を放とうと、振り回す赤き刃に全て射線を弾き逸らされる。
逸らされるのはライデンフロスト現象が起こっているからだ。
料理経験がある者、理科の授業で習った者なら、見聞きした記憶があるだろう。
熱したフライパンに水滴を垂らした時、フライパンに接触する部分が蒸発、薄い蒸気の層を作る。
この蒸気の層がフライパンと水滴の残りが直接接触するのを阻む。
液体の蒸発を阻む現象をライデンフロスト現象と呼ぶ。
金属で構成された銃弾を弾き逸らすまでの出力だろうと、射線を見切り、タイミングよく刃を接触させる技量は別もの。
接近を許した時、巨体はかしづくのを強制された。
エネルギー計測を最後に、巨人はコアごと頭頂部から股間にかけて両断されていた。
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