第3話
「うわっ。なんだこいつ」アイクが剣を構える。
「やめんか」ネクロムがあわててアイクと少年の間に割って入る。
「このお方は魔王様のご子息ルシウス様であるぞ。頭が高いわ」
「なんだ、こいつの子供か。父ちゃん死んじゃったな」
アイクが剣先で魔王をつつきながら言った。それを見て魔王の息子ルシウスは泣き出した。「ウェーン」
エレーナが小声でアイクに耳打ちする。「相変わらずデリカシーがないわね。ちょっとは気をつかいなさいよ」
「は? 気をつかうもなにも、俺たち魔王を倒しに来たんだぜ」
「それもそうか」
ルシウスの泣き声がさらに大きくなる。「ウェーン、ダディーー」
「ダディって……。これが魔王の息子とはなさけない」アイクがあきれて言った。
「だまらっしゃい。勇者ふぜいが。ルシウス様は立派な次期魔王になるべく大事に育てられたお方。不肖このネクロムも教育係として成長を見守ってきたのじゃ」
「いや、おまえの教育の仕方が悪かったんじゃないの? それより」アイクはルシウスに向かって言った。「おまえ、魔王を殺した犯人を見なかったか?」
「ウェーン、僕らが来たときには、もうダディは殺されていて、ここには誰もいなかったよ」ルシウスは泣きながら答えた。
「じゃあ、犯人に心当たりはないのか? 誰かに恨まれていたとか。まあ、突然聞かれても思いつかないか」
ネクロムとルシウスは顔を見合わせた。ネクロムが吹き出すと、たった今まで泣いていたルシウスもつられて吹き出した。
「おまえはなにを言っておる、たわけが。デアドロ様といえば、先代魔王を卑劣な手段で殺害して魔王の座についてから、はや十数年、人間たちへは暴力、デマの拡散、ロマンス詐欺など悪逆の限りを尽くし、西や北の魔王たちの領土にもちょっかいを出し、自分の城の配下たちにはパワハラ三昧、と誰からも嫌われる魔王の鏡であったわ」
ネクロスが胸を張って言った。
「自慢すること……なのかな。たしかに魔王らしいと言えばそうかもしれんが、それにしても……。つまり、動機のあるやつは山ほどいるってことか。待てよ、それならおまえだって魔王に恨みのひとつやふたつあるんじゃないか」
「な、なにを言うか、魔王四天王の長であるこのわしに。王子よ、よくお聞きなされ。魔王デアドロ様は、今もわしの中に生きておるのじゃ」
ルシウスは神妙な顔でうなずいた。
「なにをわけのわからんことを」アイクはあきれ顔で言った。
「ふん、そういうおまえらこそ怪しいんじゃないか? おまえらが騒ぎを起こしているあいだに、仲間が忍び込んで暗殺した、とか?」
「残念だが、今この国で魔王を倒せる魔力と剣の腕を持った勇者のパーティは俺たちだけだ」
「人間もだけど、魔王に匹敵する魔力や格闘術をそなえた魔族だって、そんなに大勢いるとは思えないわ」エレーナが言った。「いるとすれば、それこそ西や北の魔王とか、数名の大魔導師くらいだけど。でも、そんな奴らがいきなり暗殺しに来るとも思えないし」
その場の全員が黙り込んだ。そのとき、それまであまり口をきかず、存在を忘れ去られていたラースがぼそりと言った。「かわいい」
「え?」全員の目が一斉にラースに向いた。
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