昭和ラブコメにおけるあれこれ

『うつくしいもの、こぼれることば』という長編を連載している。昭和初期の日本が舞台の、新婚夫婦の日常をテーマにしたラブコメ。

 この長編を書くにあたって、色々な漫画、ドラマ、映画を参考にしてきた。『波うららかに、めおと日和』『軍人婿さんと大根嫁さん』『煙と蜜』『わたしの幸せな結婚』『大正學生愛妻家』……。


 情報が発達し、平和ボケしている現代の私たちの目には、当時の奥ゆかしい夫婦の形や、忍び寄る戦争の影はドラマティックに映る。だからこういった時代のラブコメものが流行っているのだろうし、私もその波に呑まれた一人だ。



 昭和(大正)のラブコメにはだいたいのパターンがあると思う。奥様ポジは健気で純情可憐、旦那様ポジは一見クールな硬派キャラ。こういったキャラ付けがなされているものが圧倒的に多い。これは当時の男性像と女性像、女は男の三歩後ろを歩くというような当時の価値観が反映されているのだと思う。

 かくいう私の作品でも、奥様は旦那様Loveの頑張り屋さん、旦那様は物静かな朴念仁、というふうな具合だ。この定番とも呼べるキャラ付けにどうオリジナリティを見出すか、ウンウン唸りながらなんとか連載を続けている。


 それと、昭和ラブコメに出てくる旦那様ポジの職業は、圧倒的に軍人さんが多い。必然的に奥さんとは遠距離恋愛のような関係になるし、常に命と隣合わせというのが、たとえ物語の二人がどんなに幸せそうでも、どうしてもつきまとう暗い影となる。

 そういった悲劇的な要素が、私が昭和ラブコメにハマった要因のひとつでもあるのだけど、それとは裏腹に、ただただ幸せに暮らす昭和の夫婦を見てみたいと言う思いもあった。いつか到来する絶望の数年を知る由もなく、愛し合う二人を。そんな想いから、うつくしいもの~は生まれた。


 同小説の旦那様ポジである安藤肇は、軍人ではない。これは最初から決めていたことだった。

 元々は新聞記者にする予定だったのだけど、当時の社会情勢が色濃く反映されそうだと感じた結果、細工職人に変更した。

 美しいものを創るのに夢中になるあまり恋を知らずにいた男が、妻が一心に向けてくれる愛情によって心を動かされていく。この辺りのコンセプトは、唯一無二になっていたらいいなと思う。



 どうかどうか私の推し夫婦たちが幸せに添い遂げることが出来ますようにと日々願いながら、私も私の小さな世界の人たちを、昭和の時代に生かしている。


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