第23話 踊ってよ、ダンシング★ 邪神様音頭!

「よよい!」

  

 !?


「よいよいのよい!」


 はうあ!?


「あっ、それ! あっ、それ!」


 なにごとっ!?


「えんやこら、えんやこら! 邪神様だよ、ぽぽいのぽいっ★」


 うあああーっ! 邪神の舞らしきなにかを踊りだしちゃったよォーッ!


「さあ! 坊ちゃまも、ご一緒にぃ~っ!」


 やだっ! 素敵なダンスのお誘い!?


「邪神様の舞は、とっても簡単! とっても楽しい! とっても邪悪っ★」

「本日のチュチュ君、おかしいぞッ!」


 いつもおかしいと言えばおかしいが、今日は特に様子がおかしい!


「……じゃあ、もう帰るから。チュチュ君は、気が済むまで舞ってていいよ」


 あんま関わり合いたくなかったので、「おっ、いいダンシングじゃんw 俺抜きで自由に楽しんじゃってよw」つって、ダンスフロアの主的なスタンス見せてさりげなく去ることにした。


「待てぃ! こんのバカチンがぁぁぁっ!」


 が、秒で捕まってビンタされた! 尻尾で!

 ふわふわなのに、しっかり重量感!?


「当事者意識を持てよぉっ! 邪神様の信者だろうがぁーっ!」

「ち、違う……信者、違う……ッ!」


「愉快で楽しい邪神様音頭を踊れぃ! 邪神様に選ばれし者だろうがぁーっ!」

「違うし、痛いッ! 尻尾ビンタ、やめてぇ! ふわふわでも痛いのっ!」


 さ、最悪だ……!

 いつもほんわかしたチュチュ君が、カルト特有の危険な狂気に染まっている!


「えんやこら、えんやこら! 邪神様だよ、ぽぽいのぽいっ★」

「ひ、ひいい……ッ!」


 おどろおどろしくも妖しく光る眼光は、凶暴な魔獣のごとしッ!


「えんやこら、えんやこら! 邪神様だよ、ぽぽいのぽいっ★」

「た、たすけ……たすけて……」


 チュチュ君の変貌に恐怖した俺は、思わず助けを求めてしまった。



「たすけて、邪神様ぁぁぁーっ!」


 邪神様に――。



「えんやこら、えんやこら! 邪神様だよ、ぽぽいのぽいっ★」

「ひいい! ぽぽいのぽいが、とまんなぁいぃぃぃッ!」


 だが、現実は残酷。


 邪神様が助けてくれることはなかった……。


 グロテスクかつエロティックな像は、哀れな俺をただ冷たく見下ろすだけだ。


「なにが邪神様じゃ、ボケ! 助けを目の前で求めても、なんもせんやんけッ!」

「坊ちゃまぁ~……邪神様を愚弄しましたかぁぁぁ~……?」


 はうあ! 狂気に殺気が増し増しでプラスされた!?


 ぶっ殺され……いや、予想もつかない酷いことをされる前に、話を逸らさねばッ!


「と、ところで……チュチュ君が着けてる『おしゃれな首輪』ってなんなの? 邪神様の信者特有のファンシー❤アクセサリー的ななにか?」


 話題逸らしが功を奏したのか、チュチュ君が怒りの形相から一転、にこりと笑顔になった。


「いい質問ですねぇっ★ これは『隷属の首輪』ですっ★」


 よし! 邪神様の話題を絡めて正解だ!


「隷属ってのは、あれかい? 邪神様に隷属しているみたいなことかい?」


 このまま邪神様を話題にしつつ、話を逸らしていくぞ!


「はあ? 『ご自分で、わたしに無理矢理着けた』のをお忘れですかぁ~?」

「えっ、俺!?」


 聞いてないよ!

 どういうことやねん!?


「呪術がかけられたこの首輪を嵌められたら最後、『首輪を嵌めた人の言うことを聞かないと呪いで死んじゃう』んですよぉ~……外そうとしても死んじゃうし、命令者の言うことを聞かなくても死んじゃう……とぉっても、こわいしつらいしひどいしにくいですよねぇ~?」


 ぺ、ペヨルマめェェェーッ! なんてことをしやがるんだッ!


「滅茶苦茶に痛めつけて苦しめて殺したいですよねぇ~?」

「そ、それは、やりすぎなんじゃないのかな……?」


 ものすごい恨み買っとるやないかいッ!

 ペヨルマめ! ざまぁ用の使い捨てザコキャラのくせに、この俺に迷惑をかけるんじゃねェッ!


「ひょっとしてぇ~……『雷に打たれて記憶がない』なんてのはぁ、『デタラメ』なんじゃないですかぁ~……?」

「デ、デタラメじゃないやい!」


「いいや、デタラメですねぇ~……だってぇ~、いかにもあの性悪エロデブクソ野郎が、ニタニタ顔でやりそうな嫌がらせですもんねぇ……っ!」


 俺の知らないゲーム外のストーリーのことで、俺を責めないでくれッ!


「やっぱり、心からの願いってのは神頼みじゃなくってぇ~、自分の力で実現するものですよねぇぇぇ~……っ!」


 マズい! すげー殺気だッ!

 マジで予想外の悪い流れになってきた!


「は……外そう」

「え?」


 チュチュ君が驚いたような戸惑ったような顔をする。


「今すぐ! その首輪を外そう! 外そう、首輪ッ!」


 こっからは、命がけの会話よ! 一言間違ったら、その時点で……。

 ゲームオーバーだろうからなァッ!


「首輪のやつは『昔坊ちゃまがやったこと』で、雷に打たれた後の『今坊ちゃまの俺がやったことじゃない』から! だから、外すよ! いや、外させてくれッ!」


 ただでさえ、様子のおかしいチュチュ君に怒りと殺意がトッピングされたら、普通に殺される可能性……しかねェッ!


 このままだと、ストーリー本編が始まる前に、わけわからん場所でわけわからん理由でわけわからん死を遂げてしまうッ!


「は、外してくれるのですか……?」

「ったりめぇよッ! 俺が外さないで、誰が外すんだよッ!」


 そんなの絶対にいやだ! 絶対に回避しなければならんッ!


「逆に問うわ。この『今坊ちゃま』の俺が、圧倒的仲良しのチュチュ君に無理矢理首輪を装着させるっていうのかよ?」

「したんですけど……?」


 冷静にさせたら、おしまいだ。

 考える暇を作らせないように、マシンガントークでまくしたてなければッ!


「いいや、しない! 絶対にしない! なぜならば、『記憶のない今坊ちゃまの俺』は『チュチュ君なしじゃなんもできねぇ』んだからヨ……?」


「決め顔で情けないこと言わないでくださいよっ!」


「こんの……強情ケモ耳メイドがぁーッ! 四の五の言うんじゃねぇッ!」


 俺が大声を出すなり、チュチュ君が尻尾を立てて驚いて一瞬黙る。


「俺は、お前のご主人様だぞ! 黙って言うことを聞けぃぃぃッ!」

「……くっ!」


 不意に、チュチュ君が苦悶の表情をした。


「それ、あれじゃないの!? その変な呪いの首輪のせいで、なんか痛かったり気持ち悪かったりしてるんでしょ! アルミホイルを銀歯で噛んだ時みたいなさ!」 

「い、意味がわからないこと言うのやめてください……っ!」


 なんか謎にチュチュ君がダメージ喰らってるみたいだけど……。


 ここまで来たら、勢いで乗り切るしかねぇってばよ!


「やめて欲しかったら、その首輪を外させろぉぉぉーッ!」

「ぐぅっ!」


 あっ……。

 いや、パッションで押し続けろッ!

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