第22話 ハートキャッチ❤ガンギマリ布教!
「ぼ、坊ちゃまが死ぬことをって……それ、『ペヨルマ坊ちゃま』のこと? 雷に打たれる前のペヨルマ……? 今坊ちゃまの俺じゃない……よね?」
「そうです、雷に打たれる前ですっ! 毎日頑張って呪ってましたっ! 『死んでください、ペヨルマ坊ちゃまぁっ! 全力で惨たらしくっ!』ってっ★」
せーええええええええええええええええええええええええええええええふッ!
俺じゃない! 呪われてたのペヨルマ!
でも、すっごい強い気持ちで死を願われてる……ッ!
他人事ながら泣きそう。
「わたしの真剣な呪いが叶って、坊ちゃまに雷が落ちたっ! 死んだっ! やったぁっ★」
キラキラおめめで呪いの話をするチュチュ君が、ヒートアップしだす。
「でもでも! なぜか、生き返ったっ!? 心臓は止まってたのに! なんでっ!?」
「そ、それは、俺が聞きたいよ……」
「わたしの願いが死の呪いとなって叶ったはずなのに、なぜか生き返った!? そしてさらになぜかっ! 『雷に打たれて死ぬ前と生き返った後で別人みたいに性格が違う』っ!」
ああッ、やはり! 別人みたいだと思われてたんだ!
ど、どうしよう……!?
俺がペヨルマじゃないってバレる展開になっちゃったら……ッ!
「もしかしたら……」
「も、もしかしたら……?」
今のうちに逃げる準備をしておいたほうがいいか……?
「邪神様は、『前の坊ちゃまを殺して、今の坊ちゃまとして生き返らせた』のかもしれないっ! いや、状況から言って、そうとしか思えないっ!」
名探偵と化したチュチュ君が迷推理をぶちかます!
「そ、そうなんだ……すげー……」
――事の真相はわからない。
だが、とりあえずは俺に都合がいいから、ここはツッコミはせずに見に徹する。
「つまり……!」
ガッ! 鷲掴まれた! 両の肩を!
「今坊ちゃまは、『邪神様に選ばれし者』ぬぅわんだぁーっ★」
作戦ミス! ツッコめばよかったァッ!
「い、今坊ちゃまって、誰!?」
「今というか、新坊ちゃま!」
「し、新坊ちゃまって、誰!?」
「あなたですよ! 邪神様に選ばれた! 新★坊ちゃまっ!」
すごい情熱! ほとばしる狂気! そして、変な名前で呼ばれてる俺!
「おめめがガンギマリやないっスか……ッ!」
「だから、邪神様をぅ! 崇拝ぃ! しようっ★」
かわいいけど、こわいが上回る!
「いやっ! いやっ!」
「なんでですかぁーっ!?」
い、いつもチュチュ君と違う……こわい!
「ぽ、ぽれは……なるべく静かに、穏やかに、嫌なこととか、辛いこととか、厄介なこととか、怖いことから離れて、平和に暮らしたいの! だたそれだけなのッ!」
ただただ、質素で素朴な願いだった。
「日々のありふれた小さな幸せを抱きしめたいだけ……それが、俺の願いだから」
願うことが憚られるような――異世界でやりたい放題するだの、ゲーム知識を利用してヒロインたちを攻略だ――みたいな欲望から端を発する邪な願いじゃない。
「だって、身の丈を越えた欲望だの願望は、破滅に繋がるだけだもの」
というか!
俺はまず、定められている可能性が高いゲームのストーリー通りの破滅を回避したいんだ! 他のことはそれからでい!
「だから、邪神なんて崇拝しないし! 変な宗教とかやらないッ!」
「……くせぇ」
え?
「く、くさい……? なにが……?」
「しゃらくせぇつってんですよっ!」
はうあ!
「夢も希望も枯れ果てたジジイかっ! 少年なら大志を抱いてくださいっ!」
「いやっ! 小さな幸せを抱きしめて生きていくんだい!」
ただでさえ、ゲームの世界にいるとかいう意味わからん状況、そのうえで数か月後には破滅イベントが待ち構えているという、空前絶後の厄介な状態なのに!
そこにさらに、得体の知れんカルト宗教……いや、邪教がインカミング!
正直、無理! しんどすぎる! キャパオーバー!
「俺は記憶が曖昧だし、人生も曖昧なの! 明日に怯えて、いつも不安なの! だから、怪しい邪神になんて絶対に関わりたくない! 悪い予想以外がつかなすぎるからッ!」
「そんな坊ちゃんに、うってつけですねぇっ! 邪神様はっ★」
俺の必死の訴えを聞いたチュチュ君が、謎におめめをキラキラさせる。
「邪神様は、わたしたち迷える弱き者を心から気遣ってくださり、愛に基づく導きを通して人が益を得ることを望んでおられますからぁ。邪神様を正しい方法で崇拝するのなら、わたしたちは瞬く間に幸福になり、人生の問題を悉く解決して、不安な未来の悪いことを避けることができますっ! だって、邪神様を崇拝すれば、邪神様の慈悲による祝福と助力を得ることができちゃいますからねぇっ★ あっ、全然疑わしくないですよ? むしろ、正しい。だって、わたしが証明ですからっ!」
すっごい早口、すっごいこわい!
呪いの成功体験があるがゆえの押しの強さは、マジ狂気!
「いやっ! いやっ! 邪神様なんて崇拝しないッ!」
「しゃらくせぇ! つべこべ言わずに、邪神を信仰しろぉぉぉーっ!」
「ひい!」
チュチュ君が、クソデカ感情をスラムダンクしてきた!
「こわいチュチュ君、きらいっ! こわいから!」
「あーん、怖がらないでぇ~。大きい声出しちゃってごめんなさぁ~いっ★」
チュチュ君は、怯える俺を優しく柔らかく大きな胸で抱きしめてくれた……。
「やさしいチュチュ君、すき。やさしいから……❤」
「坊ちゃま、聞いてください……邪神様を崇拝したとき、残酷な世界に翻弄されるだけだった弱く不幸で惨めなわたしに奇跡が起こりました……わたしに苦痛と屈辱の隷属を強いていた醜く汚い豚が、邪神の雷で殺されたのですっ!」
はうあ! ハメられた!
抱きしめてくれたのは、優しさからじゃない……。
至近距離で布教するためだァッ!
「わたしは苦痛と呪縛から解き放たれた! 邪神様が信仰に応えて、願いを叶えてくれたから! すべての希望が失われた先にあるもの、それが自由と平和だった……死によって生まれ変わった不信心者よ、邪神様への信仰と喜びに我を忘れようじゃないくぅわっ★」
急に何!? 教義!? 勧誘!? 洗脳!? こわい!
「カルト信者のチュチュ君、きらい! こわいから!」
「こわくなどありません、恐怖などありません……邪神様の民はお互いに、純粋な無私の愛を示すからです。邪神様が教えておられる魂の教えは、人種や社会や国家の壁を克服する真の愛という決して断ち切れない絆で人々を結び付けるのです!」
「ええい! 離せぇい! 優しい抱擁で騙して、怪しい言葉を吹き込むなッ!」
俺はチュチュ君を突き飛ばして、呪縛から逃れた。
やはり、いざというときは実力行使……いや、『暴力』しかない!
「太陽は暗くなり、月は光を放たず、星は空から落ち、大地は揺り動かされる――」
突き飛ばされたチュチュ君が、神妙な面持ちでなにごとかを唱え出しちゃった!
「邪悪なる神よ、我が信仰と崇拝の呼び声に応えたまえ……」
ま、まさか……。
こやつ、邪神を召喚するつもりかもしれん!
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