クソザコ悪役貴族に転生したので運命に逆らい最強になって破滅フラグを回避してたら、クセつよヒロインたちに溺愛されてしまったのだが?~とかやってたら、無自覚に本編ぶっ壊して最凶なストーリーが始まったッ!?
第18話 ある日♪森のなか♪くまさんが殺しにかかってきたァッ!
第18話 ある日♪森のなか♪くまさんが殺しにかかってきたァッ!
気が付けば、季節が変わった。
この世界に来たのは、すべてが新鮮な春だった。
夏は、眩しい日差しと汗と血が弾ける地獄の訓練の日々。
そして、秋――。
涼しい風が吹く、澄み切った秋の青空の下。
今日も今日とて俺は、野山を走り回り、剣を振り回し、スライムやら人喰い猪などの小型の魔物を退治して、チュチュ君にビシバシ鍛えられていた――。
「今の俺、ヤバい! 当然のように、フルマラソンぐらいの距離を走って、当然のようにモンスターを退治できるようになってるッ!」
日に日に身体能力と戦闘技術が向上していくのを実感する――。
たとえ、無茶苦茶なことであったとしても結果に繋がる努力をしていれば、人間はちゃんと成長するみたいだ。
「ゲームじゃ、道端の泉なんて見もしなかったけど……今は、マジで存在がありがたい!」
泉の水面には、俺が転生している醜きデブのペヨルマは映っていない。
水面に映っているのは……肉体派のナイスガイだ。
「だいぶ、見た目が良くなったなぁ~。男はとりあえず筋トレしておけば顔が良くなる――ってネットの与太話じゃなかったんだな!」
短期間での見た目の変化は、ダイエットに成功したのが理由ではない。
食事制限で痩せただけではこうはならない……。
筋トレで鍛えた見せ筋だけでもこうはならない……。
「パワーッ!」
実戦で使える筋肉を増やしたからだッ!
「坊ちゃま、坊ちゃま、見てくださいっ! 『ナッシー』ですよっ★」
今日も今日とて、愛くるしいチュチュ君が尻尾を振ってやってくる。
「なっし~? なぁに? 手に持ってる謎の実のこと?」
チュチュ君は手に持っていた洋梨みたいな果物を、ニッコニコで見せてくる。
「おやつに食べましょうっ! 採りたてで鮮度がいいから、大丈夫ですっ!」
また鮮度……嫌な予感しかしない。
「つか、大丈夫ってなに……? 大丈夫じゃないパターンがある……ってこと!?」
「わたし、ナッシーが好きなんですよぉ~っ★ だって、おいしいからぁ~っ★」
「ねぇ。俺の質問に答えてよ! そのノリのとき、大体ろくでもないことしでかすよねっ!?」
「はい、あ~ん❤」
「また無理矢――んぐッ!?」
マッず! くっそマズい!
「んじゃこりゃあ!? ヴォエえええええええええええええええええええええッ!」
血と泥と錆とゲロと練乳とシロップと生乾きのおっさんが、全力で殴り合いッ!
「ああッ! ぐあッ……マズいというか、臭いし痛いッ!」
「またまたぁ~。気のせいじゃないですかぁ~?」
「気のせいじゃない……紛れもなく確かな苦みと甘みと酸味とうま味と生乾きのおっさんが、口の中で大喧嘩をしているッ!」
口から全部吐いても、クッソマズい最悪の後味が口の中でゾンビのように這いずり回ってるッ!
「んもう! 悪く言い過ぎで……って、あぁーっ!」
「な、なに……?」
急に何かに気付いた様子のチュチュ君が、にっこりと笑った。
かわいいで誤魔化すときの顔だ。嫌な予感しかしねぇ……。
「うっかりです~っ! 熟してないナッシーは、人間には毒でしたぁっ★」
「ど……どどど……『毒』ぅぅぅ~ッ!? 今、毒つったッ!?」
戦慄する俺を尻目にチュチュ君は、毒果実ナッシーをおいしそうに頬張る。
「毒とはいえ、適切に使用すると『健康増進・肉体機能向上・精神安定・疲労回復』の効果が出るんですよぉ~★ 毒と薬は表裏一体みたいな感じですですぅ★」
「そ、そのナッシーとかいう毒果実……もしや、『いつものクッキー』の原料じゃあないだろうね……?」
恐る恐る尋ねると、チュチュ君がにっこりと笑った。
「そうですよっ! よくわかりましたねぇっ★」
「しれっと毒を食わすな! わしゃ、お前のご主人様だぞッ! あと、ナッシーもぐもぐやめろ、そんな得体の知れんもんを食うな!」
ちきしょう! 今日は、いつにも増してやりたい放題じゃねぇか……!
「それはそれとしてぇ~。すぐに吐いてよかったですよぉ。もし飲み込んでたら、死んじゃってたかもしれませんからねぇ~っ★ あはは~★」
「なに笑っとんじゃ、先に言えッ! ポーション、どこ!? 解毒しないと死んじゃう! すごい勢いで舌が腐り始めてるッ!」
「んもう、大げさですねぇ~。泉の水でお口をゆすぐだけで、大丈夫ですよぉ~」
こ、こやつ……激マズ毒果物ナッシーを美味そうにもぐもぐ頬張っているが、なんともないのか……?
やっぱり、ケモ耳少女……つまり、『獣の亜人』だから、食えるのか?
「チュチュ君……君は、人非ざる恐ろしい何かなのかい……?」
人間には毒――なんて言葉は、『自分が人間ではない立場』じゃないと出てこないもん。
センシティブな種族の違いを、こんなバカなやり取りで実感させられるとは思ってもみなかった。
これから、俺はチュチュ君との『違い』に翻弄され、時には涙するのだろう……。
「違います」
「えっ? 違うの?」
「はい。わたしは、とってもかわいくて清楚な完璧メイドですっ★ しゃきん★」
かわいけりゃ、なんでもいいやっ! かわいいは、正義だよなァッ!?
「それより、坊ちゃま! 今日は、熊殺しをいたしますよぉーっ! いえーい★」
出たァッ! これ! これだよ! 油断も暇もねぇッ!
気まぐれに始まるチュチュ君の無茶振りハードコアトレーニングッ!
俺の脂肪を喰らい尽くし一気に激痩させた、苛烈で強烈で激烈な荒行ッ!
「いやっ! いやっ! いやっ!」
「んもう。坊ちゃま、外見はかっこよくなられたのに、中身はへたれのままですねぇ。調子が狂っちゃいます」
などと言いながら、チュチュ君がおもむろに森の中に入る。
それから、しばらくすると――。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ★」
チュチュ君が、熊と一緒に戻ってきたァァァーッ!
「おーい、坊ちゃま~っ! 熊さんがそっちにいきましたよぉぉぉーっ★」
バカなの!? なにが、熊さんだよ! 可愛さゼロの猛熊やんけ!
「かわいらしく手をブンブン振って駆け寄ってこないでっ! 熊もついてきちゃうからッ!」
「突然ですが、発表でぇーすっ! 今日から、『人生特化型の完全実戦形式』の訓練開始ですよぉっ! 初戦は、うっかり山で遭遇した熊さんだぁぁぁーっ★」
「なに、人生特化型の実戦って!? つか、熊と戦うのは無理だってッ!」
「無理じゃないですっ! わたし、無理じゃないようにお鍛えしましたもんっ★」
ぷぅとほっぺた膨らませて、かわいい&たのもしい!
「だから、熊さん殺せますもんっ! 坊ちゃま、殺ってくださいっ!」
でも、物騒&無茶振り!
「無理! ちょっと気性の荒い草食動物とか、肉食でも小型のやつにしてよッ!」
「無理じゃない、可能です! 不意を突いて先手必勝を決めればいいんですっ★」
ちっくしょう! 無理でしかねぇッ!
「言い忘れてましたが、その熊さん。最近、街で話題の超迷惑で超有害な人喰い熊さんで~すっ! なんの気兼ねもなくやっつけてくださいましねぇーっ★」
「まーた、恐怖の人喰い生物だァーッ!」
ちきしょう! 破滅ルートから逃れるために色々苦心しているのに、無邪気なチュチュ君のせいで、人生がなにかと破滅スレスレになってしまうッ!
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