閑話2 玲奈のブレンド・並んで歩く午後

誰かと並んで歩くことに、まだ少し慣れない。 それでも、玲奈は少しずつ変わっていた。 ひとりの午後、カフェ・デ・ソルテで過ごす静かな時間。 一杯のコーヒーが、彼女の“選んだ強さ”をそっと支えてくれる。




待ち合わせの時間まで、少しだけ余裕があった。


玲奈は、カフェ・デ・ソルテの前に立っていた。 誰かと会う前に、ひとりになりたくなることがある。 それは、昔の癖のようなものだった。


カラン、と鈴の音が鳴る。


マスターは、変わらずカウンターの奥に立っていた。


「おかえりなさい」


「……少しだけ、寄ってもいいですか?」


「もちろん。今日のあなたに合わせて、一杯お淹れします」


玲奈は、カウンター席に腰を下ろした。 誰かと並んで歩くことに、まだ少し慣れない。 でも、前よりは怖くなくなった。


マスターが選んだ豆は、中煎りのペルーと、柔らかな香りのニカラグア。 穏やかさと、少しの勇気をくれるブレンド。


豆を挽く音が、店内に響く。 玲奈は、その音に耳を傾けていた。


湯を注ぎ、香りが立ち上る。 それは、誰かと過ごす時間に寄り添うような香りだった。


「どうぞ」


玲奈はカップを受け取り、そっと口をつけた。


優しい酸味と、静かな甘さ。 誰かと並んで歩く午後に、ぴったりの味だった。


「……この味、落ち着きます」


マスターは微笑んだ。


「誰かと過ごす時間には、少しの余白が必要です。 その余白が、心を整えてくれます」


玲奈は、カップを見つめながら静かに頷いた。


「前は、誰かといると、自分が消えそうで怖かったです。 でも今は、並んで歩くことが、強さになる気がします」


「それは、あなたが自分を信じられるようになったからですね」


窓の外には、春の光が差し込んでいた。 店内には、ピアノの音が静かに流れている。


玲奈は、カップの底を見つめながら、ふと呟いた。


「……待ち合わせ、楽しみです。 誰かと過ごす時間も、悪くないですね」


マスターは頷いた。


「その気持ちが、あなたの強さを育ててくれます」


玲奈は店を出て、空を見上げた。 風が、少しだけ優しくなった気がした。


そして彼女は、歩き出した。 誰かと並んで歩く午後へ向かって——。

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