第九話:魔王の嫁入り? 梅干しと政略の味

 魔王城の晩餐から数日後、王都は同盟の祝賀ムードに包まれていた。

 日本食亭は支店を出店し、魔王領への調味料ルートが開通。転送能力で醤油の樽を魔族の村にポンポン送り、納豆の糸引きが魔王軍の訓練場で「新しい呪術」として流行り始めていた。フィードバックの声は、異世界のSNSみたいに賑やかだ。  『魔王城のカレー、魔族の子供がハマってるってよ。次は天丼転送で竜の背中を揚げようぜ』

 『王女の侍女から聞いたけど、女神のわさび天ぷらで頭痛治ったらしい。神界メニュー開発中?』  俺は王宮の厨房で、王女の特別オーダーに対応中。梅干し入りおにぎりのバリエーションだ。美香が横でメモを取りながら、深刻な顔。「佐藤さん、大問題よ。女神の呟き、耳に入ったわ。『魔王の嫁問題』だって」  「嫁? 魔王が結婚? 納豆の呪いが効きすぎたか?」

 美香がため息。「同盟の象徴で、王女と魔王の政略結婚。両軍の結束を固めるためだって。でも、王女は『カレーの辛さみたいに熱い恋が欲しい』って拒否気味。魔王も『納豆の粘りより、もっと刺激的な味を』とぼやいてるわ」  政略結婚で異世界平和? ネット小説のベタ展開だが、調味料チートで味付けできるかも。俺は即座に能力を回す。『転送:梅干し一瓶、対象:王女と魔王の寝室。ラブレター付き』  光の粒子が舞い、王宮の空気が少し酸っぱくなる。  翌朝、緊急の謁見室呼び出し。玉座間に、王女、魔王、女神エルフィリアが並ぶ。俺と健太、翔が厨房組として同席。空気はピリピリ、魔王の角がピクピク動く。  女神が咳払い。「同盟の基盤として、魔王ヴォルドガンと王女リリアの結婚を神界が承認するわ。異世界の均衡のためよ。転生者たちの食が繋いだ絆、永遠に……」  王女が頰を赤らめ、魔王が鼻を鳴らす。「この結婚、味気ねえ。納豆の粘りより、もっと酸味の効いた刺激が欲しい」

 王女も頷く。「ええ、カレーのように熱く、わさびのように衝撃的な……何か、ないの?」  俺は手を挙げる。「お待ちを。政略じゃなく、味で恋を転送しますよ」

 能力フル稼働。『転送:梅干しラブポーション、対象:二人。酸っぱさで心を刺激、隠し味はみりんの甘さ』  二人の手に、梅干し入りの特別ドリンクがポンッと出現。ピンクの液体に、梅の赤が浮かぶ。女神が怪訝な顔。「またこの能力……?」  王女が恐る恐る一口。「酸味が……心に染みる! 魔王陛下、この刺激、感じますか?」

 魔王が飲み干す。「ぐむっ……この酸っぱさ、朕の征服心を溶かす! リリアよ、一緒にこの味を極めよう。カレーより、梅干しの辛辣な恋だ」  二人の目が合い、頰が赤くなる。女神が慌てる。「え、ちょっと! 神界の予定が……」

 だが、遅い。魔王が王女の手を取り、「結婚の条件は、毎日この梅干しを転送せよ。佐藤、任せたぞ!」  謁見室が拍手に包まれる。日本人ネットワークが大爆発。

 『梅干しでカップル成立! 政略結婚がラブコメに! 太郎兄貴の徳、高すぎる』

 『女神、味見せよ。次は神界に納豆支店だぜ』  女神が悔しげに呟く。「この能力、ジョークじゃなかったなんて……続きは、神界の食糧危機よ」

 俺は笑う。「女神さんも、梅干しで嫁問題解決? 転送しますよ」  王都の鐘が鳴る。同盟の花嫁行列が、梅干しの香りを纏って始まる。食の革命は、恋の味まで変えちまった。  ――だが、神界の玉座で、女神の渇望が芽生えていた。「あの酸味、試してみたいかも……」 (つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る