金曜日「奇跡」

金曜日の空は、やけに青かった。

一週間の終わり。

でも、私の胸のざわめきは、

むしろ強くなっていた。


昨日の放課後、

蒼真くんが話していたあの子――

実は、彼の幼なじみだった。


「ちがうよ。あいつ、受験の相談してただけ」

そう、笑って説明してくれたのは、

放課後の廊下。

夕日が差し込んで、

彼の横顔が少し眩しかった。


「あ、そっか……」

安堵の息がもれた瞬間、

心臓が勝手に速くなる。


「なあ、白石」

呼ばれて、顔を上げる。

真っ直ぐな視線に、思わず息をのんだ。


「この前の雨の日、

一緒に帰れて楽しかった。ずっと言いたくて」


「ううん、全然……私こそ、助かったし」


沈黙。

だけど、不思議と怖くなかった。

風がカーテンを揺らし、

放課後の光が二人を包んでいた。


「なあ」

彼が小さく息を吸う。

「……俺、お前のこと、好きだ。」


世界が止まった。

チョークの粉も、夕焼けも、

全部が遠くに霞んでいく。


「えっ……」

声が震える。

でも、気づいた。

私も、ずっと言いたかったんだ。


「私も、蒼真くんが好き。」


彼が驚いたように目を見開いて、

少しだけ笑った。

それは、今まででいちばん優しい笑顔。


メモ帳を開くまでもなく、

心の中でそっと書き留める。


『金曜日。奇跡が起きた。

この一週間で一番幸せだった。でもこれからの方がもっと幸せになれる』


外では、夕暮れの風が吹いていた。

一週間分の想いが、

その風に乗って、静かに溶けていく。

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告白カレンダー 夏宵 澪   @luminous_light

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