僕に言われても困ります

@kame104f

僕に言われても困ります

「■■に一刻も早く実家へ戻るよう、お伝えいただけませんか?」

 そう言って、前回と同様、目の前の着物姿の老人たちは僕に向かい深々と頭を下げた。


 ■■とは、今年の4月に入社してきた、大学を卒業したばかりの男性職員のことだ。僕がいる総務課ではなく、確か営業3課へ配属されたはずで、僕自身は彼と話したことがなかったりする。


 僕が無言でいると、老人たちは頭を上げて、次々に話し始める。毎回同じ内容で、


 ――■■は***様(上手く聞き取れない)に気に入られている。


 ――本来は一族の長男が***様のお世話を担当するが、***様は次男の■■を次の世話役に希望されている。


 ――だから■■はお世話について父親の〇〇から引き継がなくてはならない。


 ――今は〇〇がお世話をしているが、いつ自分たちの側にくるのか分からないのだから。


 とのこと。■■には自分たちの声は届かない。


 だからこそ、多少の霊感を持っている僕から■■へ実家へ戻るように伝えてもらうべく、夢の中に出てくるらしい。


 ……正直、僕に言われても困ってしまう。


 入社してから一度も話したことがない人へ、


「君のご先祖が僕の夢に出てきて、『地元に戻るように言ってくれ』とお願いしてくるんだよね」


 なんて絶対に言えない。確実にやばい人だと思われてしまう。社内でうわさが広がれば、退職するしかなくなってしまう。

 ……かと言って、何もしなければ、目の前の老人たちは今後も夢の中に出て来るだろうし。


 本当に困ってしまう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕に言われても困ります @kame104f

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ