土曜のチョコレートパフェ

■土曜のチョコレートパフェ


 土曜日の昼下がり、俺はファミレスで小説を読んでいる。

 窓際のボックス席、読む手を止めて視線を外へ。

 九月の澄んだ青空が広がっていた。


 今日は秋桜さん遅いな。


 ちょうど、入店を知らせる音が遠くから聞こえてきた。

 俺は再び文字を追い始める。


「やほっ」


 秋桜さんが来た。


『秋桜さん』と勝手にそう呼んでいる……その彼女に俺は会釈だけを返す。


 秋桜さんは同じ学校の女の子だ。クラスは違う。

『秋桜』というのは俺が勝手に名付けた。

 去年、知り合ってから心の中でそう呼んでいる。

 その日、青空の下で揺れていたコスモスが彼女に重なったから。



 秋桜さんはボックス席の向かいに座る。

 慣れた手つきでタッチパネルから注文し、黒いリュックから勉強道具を取り出す。塾の課題か予習か、勉強を始める。


「今日はなに読んでんの?」


 秋桜さんが聞いてくる。


「『燃えよ剣』」


「へー強そ」


 興味なさそうに秋桜さんは答える。

 その視線は問題集に向いているだろう。


 俺は土曜日の昼はここで、昼食とドリンクバーを頼み、読書をするのが習慣だった。

 去年の秋、たまたま秋桜さんと居合わせて、そこから今日のように同じ席に座るようになった。


 俺は読書、秋桜さんは塾の勉強をする――この土曜日の時間は、そこから始まった。


「お待たせしました。チョコレートパフェです」


 店員が運んできた。

 秋桜さんはだいたいいつも、チョコレートパフェを食べる。


「あーうまくいかない」


 勉強道具をテーブルの端に寄せながら秋桜さんはこぼす。


「彼氏と別れそうなんだよね」


 かすかな金属音、秋桜さんがパフェを食べるためにスプーンを取った音が聞こえる。


「がんばれ」


 小説から目を離さずにエールを送る。


「そうする。あー面倒だな」


「別れたら?」


「それも面倒だし」


 いつもこんな感じで秋桜さんは愚痴ってくる。

 それを俺は適当に答える。

 いつものやり取り。


「俺がいるからいいじゃん」


 小説から目を離さないで言う。

 わずかに本を持つ手が震える。


「なにそれ?やだよ。友達でいてよ」


 秋桜さんはあっさりと答える。

 チョコレートパフェを食べ進める。


「この時間はなんか好きなんだよね」


「俺も」


 小説から目を離して、秋桜さんの方をみる。

 目が合って笑う。それだけ。

 仲のいい友達。



 青空の下、秋桜さんは笑う。



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