第25話 崩壊の予感。事故で濡れた優のスカート。「よかったら着て……?」

 ボウリングデートにて、かっこよく、男らしい姿を和奏にたっぷりと見せた僕。


 フェリーに乗るため、埠頭へと移動した。

 ふたり分のチケットを購入し、戻ってくる。

 壁に寄りかかり、所在なげな和奏。


「──お待たせ」


 和奏の肩の横、壁に向けてドンッ! と手をつく。

 いわゆる壁ドンってやつだ。

 これでときめかない女子はいないと聞く(当社比)。


 そんな僕に、はぁ……、と溜息をつく和奏。


「なんだか今日の優、ヘンよ……あなたらしくないわ……」


 彼女が歩き出す。


(はっ……? 僕らしくないって……?

 一体なんなんだよ……?)


 イケメンデート計画が順調に運んでいた僕。

 和奏の漏らした発言に、腑に落ちない思いを抱える。

 和奏の元へ向かおうと俯きながら歩き出す。


 ──バシャッッ!!


 走り出した瞬間。なにかが僕の体に掛かる。

 真横には、慌てた顔のおじさん。右手には空のバケツ。スカートを見おろすと、裾のあたりから上が大きく濡れている。


「……お嬢さん、すみませんっ!」


 おじさんが駆け寄ってくる。


「だっ、大丈夫ですか……? ほ、ホントにすみませんっ」 

「気にしないでください……」


 濡れたまま、とぼとぼと歩き出す。


◆◆◆◆


 和奏の元へとたどり着く。

 僕のスカートを見てびっくりした。


「優っ、そのスカート……!」


 黙って俯いたままの僕。

 彼女が手に下げていた袋からなにかを取り出す。


「これ、待ち合わせ前に買ってたの……よかったら着て……?」


 ダークピンク、ボタニカル柄のミニスカートだった。


◆◆◆◆


 運よく見つけた多目的トイレに入り、濡れたスカートを履き替える。

 濡れたのは表面だけで、ショーツは無事だった。


 フェリー乗り場からフェリーに乗船する。

 これに乗ると、和奏のマンションから10分くらいの場所まで行ける。


「…………」

「…………」


 和奏とふたり、並んで座るも終始無言。

 永遠に時間が続くかと思われたが、やがて、和奏のマンション近くの埠頭に到着してしまう。


◆◆◆◆


 和奏の部屋。

 彼女がベッドに腰掛けて俯いている。

 その前に立ち尽くす僕。


「今日のあなた、なんだったの……? なんであんなこと……」


 カチンときた。


「僕のなにが悪かったって言うんだよ……?」

「急に、かっこつけみたいなのしちゃって……、」

「……和奏、いつも僕のこと、男として見てないでしょ?」

「…………ッ!」


 少し強い口調で言う僕に、和奏が肩をびくりと震わせた。


「……そ、そんなこと、ないわ……」


 口籠る彼女に、堰を切ったように黒い気持ちが溢れ出してしまう。


「──そんなこと、ある!

 男として見てるなら、なんで、僕が和奏のハダカ見ちゃった時も、まるで女友達みたいに見られたくらいに、平然としてたのさっ!?」

「……そ、それは……っ!」


 くしゃり。

 和奏の顔が、今にも泣き出しそうに歪む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る