4-4 ゼパルは後に語る。「愛の力で呪いを解く展開の方が彼女は喜ぶと思った」と。

「アンドラス、どうして助けに来てくれたの……?」

「当たり前だろ、婚約者を助けに来るのは」

「けど……」

「とにかく、話は出てからだ」


そういうと、王子は私に手を貸してくれた。



「う、うん……」


旧に立ち上がることでふらりと脳震盪が起きた。

そんな私のことを王子は支えてくれた。


「大丈夫か、ミーナ? 変なことはされなかったか?」」

「うん……アンドラスこそ……」


そういいながら、私は馬車から外に出た。




ーーーーーーーー


「うまくいったね、ランド君」

「私の作戦通りでしょ?」


外に出ると、村娘と若者……に扮したテレーズとゼパル君がいた。



「あれ、ひょっとしてさっきのは……」

「うん、兵士たちをひきつけるために私たちがやった芝居だったんだ」

「痴話げんかの後にさ。ああいうきわどい発言をした後に草むらに入ったら……それは覗くよね。そしてその隙に……」

「私が睡眠魔法を使って、眠らせたんだ」


そうアンドラスたちは得意げに笑みを浮かべた。



「そうだったんだ……」

「安心してほしい。兵士たちは眠っているだけで、すぐに目が覚めるはずだ。暴力は嫌いなんだろう、ミーナは」

「うん……ごめんなさい、みんな……」


アンドラス達は私のことを思って、この作戦を立ててくれたのだろう。

そう思うと、私は思わず目頭が熱くなった。

……だが、もうこれ以上アンドラスを欺くのはやめよう。それがせめてものお礼だ。


「アンドラス……。本当に辛いけど……やっぱり、もうハッキリ言わないとダメだから、いうね?」

「どうした、ミーナ?」

「実はね? あなたが私を好きなのは、私がかけた……」

「待ちなさい、ランド……ううん、アンドラス!」



だが、その言葉を口にする前に草むらからそんな声が聞こえた。

……サロメだ。眠気がまだ残るのかふらふらした様子で姿を現した。



「サロメ!」

「アンドラス……。今使った魔法は……」

「あなたが以前教えてくれた範囲魔法だ。……効かなかったのか?」

「ええ……。この程度の魔法なら、抵抗は可能だから……」

「流石ね……」

「まさか、こんな古典的な手に引っかかるなんて、私も堕ちたものね……けど、これさえあれば……私の価値は揺るがない……!」


そういいながらサロメは催眠アプリを取り出した。


「あれは……!」


まずい、あれを使われたら終わりだ。

私はそう思って駆け出そうとするが、一瞬早く彼女はアンドラスに催眠アプリを見せて叫ぶ。



『アンドラス! ……今すぐ、その女……ミーナを斬り殺しなさい!』


……終わった。

私はそう思い、一瞬で呆然とした。


「分かりました、サロメ様……」


そういうと、アンドラスは剣を抜いて私にゆっくりと近づいてきた。

ギラリと光る白刃がゆっくりと私に近づいてくる。


(そっか、私……ここで死ぬんだな……)


だけどどこか、気持ちは落ち着いていた。

今までさんざん利用して搾取してきたアンドラスに殺されるなら、寧ろ本望だ。

それに、彼は催眠で操られている。私を殺した罪悪感に苦しむこともないのだ。



「アンドラス……。いいよ、あなたになら殺されてもいいから……」

「…………」

「ありがと、今まで。……大好き」


そうつぶやいて目を閉じた。

……だが、次の瞬間。



「……え?」


私の口に暖かいものが触れるのを感じた。

ゆっくり目を開けると……


(ど、どうして……?)


アンドラスは剣を捨て、私の唇にキスをしていたのだ。



「な、なんで効かないの、催眠が!」


その展開に一番驚いたのはサロメだった。

彼女は焦った様子でアンドラスに催眠アプリを向ける。



『聞こえなかったの!? 早く、その娘を殺せって言ってるの!』

「……断る!」


だがアンドラスは私のことをぎゅっといつくしむように抱きしめ、離れない。

そして横から、ゼパル君が勝ち誇ったような笑みを向けて答える。


「無駄だよ、サロメさん」

「え?」

「催眠はね……強い意志を持つ人間には効かないんだ!」


そして、それに呼応するようにテレーズも大声で叫ぶ。


「ランドさんはね……。催眠下に居た時も、ずっと……本気で愛していたのよ、ミーナのことをね!」

「そんな、まさか……!」

「そんな彼は、今催眠の力に打ち勝った! 愛の力なんだ、これが! ……君の作戦は失敗したんだよ!」


……え?

私は一瞬、言葉を失った。

アンドラスが、私を本気で愛してくれていた……そんなことがあるの?


「そんな……ありえない! 愛なんて所詮錯覚でしょ? そんなものが役に立つなんてことはないですわ! そうだ、ひょっとしてこのアプリがおかしいんじゃ……」


サロメはそう言いながら催眠アプリを見つめた。

だが、その隙をついてゼパル君たちは彼女に詰め寄る。


「愛の力を舐めるな! そんな力の前には……君の薄汚い催眠の力なんて……無意味なんだ!」

「キャア!」


そう叫ぶとともに、ゼパル君はサロメの懐に飛び込んで催眠アプリを奪い返す。



「こんなものは、もういらない!」


そして彼はそれを地面にたたきつけて完全に破壊した。

……それを見た瞬間、私は思わずびくりと身体を震わせた。

ゼパル君とテレーズは、私たちの方を向いて大声で叫ぶ。


「さあ、催眠が切れたはずだ! ランド君、今の君が一番愛しているのは誰だい?」

「今ここで、勇気を持って言ってみて!」


そう叫んだゼパル君とテレーズ。

それを聞いたアンドラスは私をさらに強く抱きしめて叫んだ。



「それは決まっているだろう! ……私は……私が一番愛しているのは……」


私は、この瞬間を永遠に忘れない。

そう思う言葉だった。



「ミーナ! あなただ! あなたを世界で一番愛している!」

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