第2話 2人の皇子


「…は?」


(戻れないって、どういう事?)


戸惑う莉緒に、追い討ちをかけるように

皇帝が話を続けた。


「戻る方法はない…

と、言うより…戻った所でだ。」


「どういう事?」


いらだちが募ってしまい、

答えを催促をしてしまう。


「おい、お前!失礼だぞ!」


皇帝の従者だろうか。

襟を正し、半歩ほど私に近づく男を

皇帝は片手で制し、はなしを続けた。


「いきなりの事で、戸惑うのも無理はない。

だが、この儀式は

《死を目前にした者》を、召喚する習わしがある。

仮に戻れたとて、

すぐに死ぬ運命だったのなら、この国で役目を果たした方が有意義だろう?


まあ今の所、

元居た場所に戻った聖女がいた。

とは、聞かないがな。」


「なに…それ……」


全身の血の気が引き、力が抜けてしまった。


絶望…というのはこうゆう事か。


(戻っても死ぬなら、

ここで…死ぬまで働けって事?)


莉緒は、ここに来る前の記憶を思い出していた。


下校中。

道端で美緒と、よくある口喧嘩をしていた。

耳を突き刺すようなクラクションの音がして、

目を瞑ったのは一瞬、また目を開くとこの世界に来ていた。


悪寒がした。

ますます気力が無くなっていくのが分かった。


(もし戻れても…そのまま……)


ここに来ているのは1人ではない。

美緒の方に目をやると、

長い前髪の隙間からは、喜んでいる様子が伺える。


(…楽しそうにしてる?)


どこまでいっても双子だ。

鏡を見るように、自分の存在を確認し

安心しようと思っても、片割れは真逆の事を考えているのだろう。


(なんで?)


莉緒が複数の混乱を抱えながらも、

皇帝の言葉は続いた。


「納得したか?

では、続けさせてもらおう。

本来なら、聖女召喚は1世代に1人。

今回はなんの間違いか、2人召喚されたらしいな。」


莉緒と美緒は顔を見合わせた。


(私と美緒の、どちらかが聖女?)


片割れも同じ事を思ったのであろう。

こちらが声を発する前に、

勢いよく立ち、手を挙げながら


「はいっ、皇帝さんっ!

私が聖女ですっ!」


(この女…ここでも-…)


私は呆れてしまった。

身内ながら、失礼だが…この女、

美緒はいつも、自分が世界の中心でなければいけないのだ。


元の世界でもそうだった。

両親、近隣の人、学校の友達までも…


妹は、常に

「あんたは私の控え」

「醜いんだから、整形したら?」

「誰もあんたなんか好きじゃない」

───暴言は、日常だった。


私たちは一卵性双生児


綺麗な顔で怒られても、怒りは湧かない。

問題があるとすれば、私は生まれたて…


「申請はありがたいが、詳しい調査はこれから行う。」


皇帝の一言に、私は驚いた。


今までは、美緒が言葉を発せば、

同意の意見が多かったのだ。


(公平に見ようとしてくれてる…?)


信用をしても良いか、まだ分からない。

けれど、過去の私が少し、救われた気がした。


安堵感から、無くなっていた気力が

少し戻ってきた感覚がする。


「調査のやり方は、後に。

今は、この2人を仮の聖女とし

皇子の側仕えと任命する。2人、前へ。」


皇帝の一声で、玉座のそばから人影が

ゆっくりと近づいてくるのが分かった。


私は、美緒と並ぶように立ち上がり、

顔を伏せ、近づいた2人分の足元を見ていた。


髪のせいで、前はよく見えてないが

横から、嬉しそうな空気感が伝わってくる。


(イケメンなんだろうなぁ…)


「アレクシオン・グランヴァルド。

この国の第一皇子だ。

いきなり召喚されて、驚いただろう。

しかし、この国の繁栄のため

側仕えとして、力になって欲しい。

よろしく頼む。」


爽やかで、活発な好青年の声だ。

元の世界の人気アイドルは、大体こんな声してたような…


そんな事をかんがえていると、

もう片方からも声がした。


「…ルミアン・グランヴァルド。

第二皇子…です。よろしく。」


心臓が跳ねるのを感じた。


深く、耳馴染みが良い…

ずっと聴いていたいような音。


考えるよりも早く、指の先々から熱くなる。


隣で肩を落とす雰囲気を感じた。

いや、いつも自分に向けられている雰囲気というか…


(顔がそんなに…なのかな?)


1人目と2人目で、美緒の

あからさまな態度の違いに、

笑みが、こぼれそうなのを抑え

2人の顔を確認しようとする。


(…っ!)


2人の顔を見て、驚く。


(顔が……ない?)


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