悪役令息の叔父に転生しました

秋作

第1話 過労の果て

『佳村君、これお願いできる?』

『佳村、俺、子供の誕生日でさ。急ぎで帰りたいんだ』

『佳村君、この企画のことなんだけどさ……』

『佳村、すまないが、これも頼めるか?』

『佳村君……』

『佳村君……』


 俺は頼まれると断れない性分だった。

 昔からそうだ。

 困っている人を放っておけなかったし、誰かの助けになるのであれば……と思っていた。

 だけど、そんな俺の性分は、職場にとっては都合の良い人間だったらしい。


『ああ、その仕事なら佳村に頼めばいいじゃん』

『ええ? 佳村君に悪いよー』

『あいつチョロいからさ。君が少し困った風に頼めば引き受けてくれるって。だから一緒に食事に行こう?』

『あはははは、絵野先輩、そんなこと言ったら佳村君に悪いって』


 入社した時、絵野は一番最初に気さくに声をかけてくれた奴だった。

 一緒にいて楽しい奴だったし、彼に頼られるのは嬉しかった。

 給湯室のドア越しに、今の会話を聞くまでは。

 俺に仕事を頼んできた先輩や上司も、絵野と同じように、俺のことを都合の良い奴だと思っていたのだろうか?


 ………………なんだか、どっと疲れてきた。


 最近は寝ずに企画書を作っていたし、入社してからまともに寝たことなんてなかった。

 俺はふらふらした足取りでオフィスに戻り、自分の席に着いた。

 デスクの上には山積みの書類やファイル。

 今日も残業か……ちょっとコーヒーでも飲んで気分を変えるか。

 次からはあまり安請け合いしないようにしよう。そうしないと、仕事がたまる一方だから。

 給湯室から戻ってきたのだろう。

 さっき絵野と話していた後輩の女性社員が、目を潤ませて俺の方を見ていた。


「先輩、あの……今日、急用で早く帰らないといけなくなって。この書類の処理を代わりにお願いでき」


 ドサッ!!


 後輩の言葉は、大きな音で遮られた。

 その音が、俺が倒れる音だと気づいたのは少ししてからだった。

 急激に意識が遠のく中、騒がしい声がオフィスに響いた。


「きゃぁぁぁぁぁ! 佳村先輩がっ」

「お、おい……こんなところで倒れるなよ!」

「君、救急車だ。救急車!!」

「う、嘘……佳村君……ちょっと、やめてよ。今、倒れたら困るの! お願い!」

「俺、明日プレゼンなんだよ……お前がいないとどうすればいいのか分からねぇよっっ」

「さっきから何なんだね、君たちは。佳村君の身体の心配じゃなく、自分たちの心配ばかりじゃないか!!」

「係長こそ、佳村にばっかり頼っていたじゃないですか!」


 何か、喧嘩しているな。

 仲の良い職場だと思っていたけど、違っていたのかな?

 俺がいないと困る?

 もしかして、俺、この人たちに依存されていたのかな?

 何か間が抜けているな……倒れてからそんなことに気づくなんて。

 困っている人間を放っておけないっていうのは性分だからしょうがないけど、

 この職場では俺の性分が利用されてしまったってことなんだろうな。

 次に目が覚めた時には、ちゃんと仕事、断らないとな。

 これを機に、ゆっくり寝させてもらおう。

 ゆっくり寝……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……レドーク様。

 ……レドーク様。

 ……起きてくださいませ、レドーク様。






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