2話 やりなおしの街。

 ”まるでゲームの世界に来たみたいだ。”

 それがこの街「フェーナ」の第一印象だった。


 レンガや木造の家やお店が並んでいて、果物や武器や防具などが露店で売っている。

 そこを子供がはしゃいで走っていて、冒険者のような人たちが歩いている。

 まさに、よくあるRPGゲームのスタート地点”旅立ちの街”のような場所だ。


 俺はキョロキョロしながら歩いていると、何回かコーギーを踏みそうになった。


「お前、初めて街に来た田舎者みたいだな。」

 コーギーはニヤニヤしながら俺に言った。


「なぁ、この街はなんで”やりなおしの街”って言われてんの?」

 俺はずっと気になっていた事をきいた。


「あぁ、それか。」

 コーギーはそう言うと商店街の方をアゴで指した。


「この商店街は品ぞろえが良くて、大抵なんでも揃うんだ。そしたら旅に出るヤツや商売始めるヤツが仕入れで集まるようになって、”人生やり直すならフェーナに行け”って言われるようになったんだよ。」


 そう言われて商店街の方を見ると、確かに店の数も、冒険者みたいな姿のヤツもたくさんいる事に気がついた。


「ワシはこの街が好きなんだよ。いろんな物があるのもそうだけど、いろんな出会いがあるこの街がな。」

 そういうコーギーはちょっと大人に見えた。


「それに、ほら。」

 コーギーは空を見上げた。


 !!

 ホウキにまたがって人が飛んでる!


「この街で魔法を手に入れてあんな風に空飛べたりできるんだ。魔法使いや剣士になって魔物狩りしたり、鍛冶屋になって道具作ったりしてるヤツもいるな。」


「魔法?俺も使えるのか?」

「使いたいのか?」

「かっこいいじゃん。使えたら。」


「……。ここに来たお前の願いはなんだ?」

 コーギーは小さな石橋の途中で歩くのをやめ、立ち止まり僕の方を向いてそう言った。


 ……。

 少しの間俺とコーギーの間に沈黙が流れた。

 ただ、その沈黙も橋の下の川のせせらぎが聞こえてきて、苦しい時間ではなかった。


 俺の願い。

 すっと浮かんだ願い、それは……。


 ”あの場面に戻ってやり直したい”


 確かに俺はそう強く願った。覚えている。

 でも、あの時のことを言葉にしたくなかったし思い出したくもないから、そういうことを訊かれるとつい怪訝な表情になってしまう。


「もしお前の願いや望みを叶えるために魔法が必要なら使えるようになるさ。ここはそういう街だ。」

 俺の表情をみて、やさしくコーギーは言った。


 ここはなぜか居心地がいい。

 石橋からみえる景色はやっぱりどこか懐かしい。


「例えばだけど、人生のやり直しって出来たり……する?」

 ふと俺の口からこぼれた言葉。

 なぜかわからないけどこいつには話してもいいような気がした。


「どれ。お前さんの話、きかせてくれないか?」

 コーギーは石橋の手すりに乗っかり座った。俺も歩き続けていたので手すりに腰掛けた。


 ……。

 最初はサラッと話すつもりだった。

 不思議と次から次に言葉が溢れ出てきた。

 

 試合のこと、仲間との関係、母親のこと、俺が思っていたこと、全部話していた。


 自分の気持ちをこんなに話したのはいつぶりだろう?

 引きこもっていたから、なんか話すことが嬉しくて、思い出してやっぱり辛くて、気がついたら目から涙が落ちそうになっていた。


 誤魔化すように鼻をすすってちらりとコーギーを見たら、号泣していた。


「そうか、そうか……。コースケ、頑張ってたんだな。」


「ちょ、泣きすぎでちょっと引く。」


 ふと思ったけど、なんで俺の名前知ってる?

 ……あぁ、たぶんさっき話の中で自分で言ったのだろう。


 右手?右前足?で涙と鼻水をすすったコーギーは手すりから飛び降りた。


「コースケ、気に入ったぞ。ワシはナギだ。なんでも言ってくれ。」


 見た目はコーギーなんだけど、不思議と安心感があって俺も笑っていた。


「ありがとう、ナギ。」

 ”ありがとう”を久しぶりに言った。

 ずっと一人の世界でいた俺を認めてくれたようで、本当に嬉しかった。


 ナギは前足を差し出して来た。握手かな?と思いながらナギの手を握った。


「おいおい、ここはハイタッチだろ。いやー、人間に”お手”されたの初めてだわ。」

 ナギはさっきまで号泣してたのが嘘のように馬鹿笑いしている。


 くそっ!

 足短いからハイタッチとは思わねーじゃん。

 悔しさと恥ずかしさだけじゃなく、ちょっとした安心感で俺も一緒に笑った。


「ちょっとまてコースケ、そういえば時間を戻す方法はあったような気がする。」


 !!

 なんだって!


「マジで?でもそれって夢世界だけの話じゃないの?」


「いや、たぶん大丈夫だったような気がする。とりあえずコースケ、ついて来い!」」


 さっきより早足でナギは走っていった。俺も負けずに追いかけていった。


「ワシの部屋に、その『時間を戻す方法』が書いてある本があったはず!」


「マジで!ここ本当に夢の世界で、本当にやりなおしの街なんだな。」

 あの時間をやり直せたなら、きっとみんなが笑える未来に変わる。俺もやり直せる!


「まだ戻せると決まったわけじゃないけどな!」

 ナギは笑いながら言った。


 絶対叶わないと思ってた事が叶うかもしれない。

 この数%の可能性みたいなものがあるだけで、嘘みたいに体が軽い。

 ずっと忘れていた”ドキドキワクワク”みたいな感情が心地よかった。



「着いたぞ!」

 ナギが立ち止まった小さな木造の一軒家の前。

 少し古びて小さいけど平屋建てで小さい庭もありしっかりした建物。

 ここにナギが一匹で住んでいるなら豪邸だと思った。


 ナギがドアノブにぶら下がりドアを開けた。

 そこには三匹の変な生き物が家の中を荒らしていた。


「遅かったな」


 小さい奴が甲高く耳障りな声で言った、

 こいつら、ゲームでみたことあるモンスター”ゴブリン”だと思う。


 太っちょで腰回りに大きな布袋ぶら下げたデブゴブリン。

 棍棒を持ってヘラヘラ笑って小さくうるさそうなチビゴブリン。

 長い杖のようなものを持って見下すような目をした背だけが大きいノッポゴブリン。

 ……正直仲良くはできなさそうな雰囲気だ。


「俺の家でお前ら何してんだ!!」

 ナギが低い体勢で唸り始めた。


 俺は何が起きているのかわからず、つい俺より小さいコーギーの後ろに回ってしまった。


 さっきまでのドキドキワクワクはどこへやら。

 ”前途多難”

 ふと頭に浮かんだ言葉はこれだった。

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