第28話 禁断の交わり
「……この俺がお前の知らぬ快楽という名の真理を、その身に直接教えてやろう」
俺がウェリネの戸惑う唇を塞ぐと、彼女はビクリと身体を震わせた。
だが、拒絶はない。
それどころか、好奇心に満ちた緑色の瞳が俺の顔を間近で見つめ返してくる。
アザゼルのような熟練の誘惑とも、ベリアスのような一途な情熱とも違う。
初めてのキスに戸惑いながらも、その未知の感覚を全身で味わおうとしているかのような、純粋な探求心。
ウェリネら探り探り舌を絡ませる。
俺は彼女の細い腰を引き寄せ、衝動のままに寝台へと向かおうとして、ふと寝台の奥で穏やかな寝息を立てているアザゼルとベリアスの姿が目に入り動きを止めた。
(……さすがにここで始めるのはマズいか)
いくら俺が魔王で彼女たちが俺のハーレムメンバーとはいえ、この状況は少し気まずい。
何よりウェリネが気後れするだろう。
俺がわずかに躊躇ったのを敏感に感じ取ったのか、ウェリネが俺の手を引いた。
「ヴァエル様……こちらへ」
「ウェリネ?」
彼女は悪戯っぽく微笑むと、俺を客室からそっと連れ出し、音もなく樹上の回廊を駆け抜けていく。
エルフならではの身軽さで木々の間を飛び移り、俺たちはやがて月明かりに照らされた美しい湖畔の草原へとたどり着いた。
月明かりを反射する静かな湖面、柔らかな草が茂る岸辺、満天の星空。
昼間とは違う夜の森の神秘的な雰囲気が俺の心を昂らせた。
(……外、か。悪くない)
むしろ、誰かが来るのではないかというスリルと背徳的で興奮する。
俺はウェリネの正面に立ち、今度こそ迷いなく彼女を抱きしめた。
彼女が身に着けていた簡素な衣服の紐を解くと、月光の下に息を呑むほど美しい肢体が現れた。
これがあのエルフという種族か――と、俺は息を呑んだ。
人間とは異なる次元の美しさ。それは、ただ整った容姿というだけではない。
透き通るような白い肌は月光を浴びて淡く輝き、星屑を溶かし込んだかのような銀緑の髪が風に揺れる。
長い睫毛に縁どられた翡翠の瞳は、夜の湖面のように神秘的な光をたたえている。
しなやかで無駄のない肢体は自然が生み出した芸術品のようであり、それでいて触れれば壊れてしまいそうな繊細さも併せ持っていた。
豊かな胸の膨らみが、芸術品のような美しさの中に強烈な情欲を誘う。
(……なるほどな。これほどの美しさならば他種族の欲望の的となり、森に閉じこもらざるを得なかったというのも頷ける)
その神聖さすら感じる美しさを、俺が独占している。
その事実に魔王としての支配欲が満たされていくのを感じた。
「あっ……!」
俺の指が、彼女の尖った耳朶に触れると、ウェリネは甘い声を漏らした。
そこがエルフの弱点であることは周知の事実だ。
「ここが……感じるのか?」
「ひゃぅ……! ヴァエル、さま……! そこは……!」
口では嫌がる素振りをしながら彼女は俺の手を掴んで耳から離そうとしない。
未知の快感に戸惑い、欲しがるようにその緑色の瞳をとろりと潤ませている。
俺はその敏感な耳を指でなぞりながら囁きかける。
「お前は変化を求めた。ならば自分の身体の中に訪れている変化についても、もっと知るべきだろう?」
俺の言葉が、彼女の中に残っていた最後の種族としての矜持を溶かしていく。
俺が固い森の掟を解きほぐしたかのように、ウェリネもまた目の前の未知への好奇心をありのまま受け入れる。
「……はいっ。教えて、ください……。ヴァエル様の、この熱の正体を……!」
俺は彼女の懇願に応え、その清らかな身体に俺の魔王としての力を注ぎ込んでいく。
月下の草原、満天の星空の下で、俺たちは一つになった。
「――ッ!」
初めての痛みに彼女の身体がこわばる。
だがそれも一瞬。俺の魔力が彼女の中に流れ込み未知の熱を生み出していくと、そのこわばりは甘い痺れへと変わっていった。
「あ……! ああっ……! なに、これ……! 熱い……! 感じたことのない……感覚……!」
ウェリネはまるで初めて森の外の風に吹かれた若木のように、新鮮な驚きと喜びに打ち震えている。
その初々しい反応が、俺の庇護欲と支配欲をさらに強く刺激した。
「もっとだ、ウェリネ。お前の知らない世界を見せてやろう」
俺が魔力を一点に集めると、彼女の身体は敏感に反応してより甘い声を上げる。
まるで森の精霊と戯れるかのような、穏やかで、どこまでも深い快楽の波が月明かりの下の二人を包み込んだ。
「ああああっ……! ヴァエル、さま……! 私……! 何かが……!」
やがて彼女は両手両足をきつく絡ませ、俺の胸の中で熱く震えた。
湖畔の草が揺れ、夜風が祝福するように俺たちの汗ばんだ肌を撫でていく。
一つになったまま、俺たちは荒い息を繰り返す。
俺の腕の中で、彼女はまだ夢見心地といった表情で、潤んだ瞳を俺に向けていた。
「……これが、ヴァエル様が教えてくれた新しい世界……」
俺は彼女の汗ばんだ額にかかる銀緑の髪を優しく払いながら微笑む。
これで三人目のヒロインも、心身ともに完全に俺のものとなったのだった。
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