第13話「夏見隊結成」

 ある日、貴族たちの会議が開かれた。霊力を持つ貴族でなければ成しえない怪異の討伐に関する議題だ。

 朔夜と白夜はもちろん、その協力者となっている朱音と健人も参加することになった。

 十数人の貴族たちが朱音たちと同じ卓を囲んでいる。

「前任の隊長が復帰するまで、少なくとも数週間はかかる見立てです」

 この地域で活動していた怪異討伐部隊の隊長が負傷して療養中らしい。

 そのため、一時的に別の誰かが隊長を務めなければならない。それをこの場で決める。

「白夜様に隊を率いていただくことはできないでしょうか?」

 貴族の一人が問いを発する。

「断る。私に部下の助けなど必要ない。部下の面倒を見る気もない」

 白夜はすげない態度。確かに彼なら、一人で戦った方が強そうだ。

「それでは誰か立候補する者は」

 隊長という肩書きには朱音も興味がある。試しに立候補してみてもいいのだが、さすがに出しゃばりすぎだろうか。

 貴族の集まりでもなければ言うだけ言ってみるところではある。

 しかし、この場にいる彼らは血筋だけではなく実力で選ばれた精鋭だ。元は部外者だった朱音が気安く口を出すのは気が引ける。

 しばらく待ってみるが、立候補する者は現れない。

「他薦でもよろしければ……私は臨時の隊長として朱音様を推薦したいと思います」

 朔夜は、朱音がウズウズしているのを察してか、こんなことを言い出した。

「貴族でもない異邦人を、ですか?」

 貴族たちは目を丸くしている。

「朱音様には、刀で怪異の妖鱗を叩き割るだけの膂力と先陣を切るだけの胆力があります。先頭に立って自ら戦うというのは、この時代の隊長の在り方としてふさわしいのではないでしょうか」

 朔夜はおそらくここにいる貴族の中でもトップクラスの実力者。周りの者も簡単にその意見を切り捨てることはできないようだ。反感を持っているというより戸惑っている。

 続けて朔夜は隣に座っている朱音に目を向ける。

「いかがでしょう? あくまで臨時ですから、元の世界に帰る手段が見つかるまでで構いませんし、私は朱音様のお力を心から信頼しております」

「朔夜君……!」

 ヒーロー願望のある朱音にとってこれ以上ない賛辞だ。

 この世界なら自分はヒーローでいられる。帰りたいという気持ちはほとんどなくなっていた。

「やる! あたしやるよ!」

 意気込みを見せる朱音の横で健人が腕を組む。

「ナツミ一人で隊を取り仕切れるとも思えないな……。朔夜がいるっていっても、足りるかどうか……」

 考えた結果、健人が発言する。

「副隊長でもなんでもいいが、俺もナツミの隊に入るぞ。こいつのフォローは俺がするって昔から決まってるしな」

 それは好都合だ。

「そんじゃ、面倒な報告書の作成とかよろしく!」

「調子のいい奴」

 特に反対意見も出なかったので、無事朱音は隊長に任命された。

 会議用の部屋を出ると、一般の隊員たちが待機していた。

 朔夜が、一般の隊員たちに朱音を紹介する。

「今日からしばらくの間、この夏見朱音様があなたたちの隊長となりました。仲良くしてくださいね」

 隊員たちは反応に困っている様子。

「この人が……? 霊力を感じないのですが……」

 感じないのは当然だ。朱音は筋力に秀でているから重霊刀を操れるだけで、本人に霊力はない。それに対して隊員は末端の者であっても下級貴族だ。

「この中に、貴族じゃないあたしが隊長をやるのが気に入らない人はいる? あたしが弱いかどうか、勝負して確かめてもらってもいいけど」

 朱音がこう提案しても、隊員たちは余計困惑している。

「必要ない。既にこの女の腕は私が確かめた」

 白夜が通りがかりに告げて、そのまま去っていった。

 冷めてはいるが、今のは助け船を出してくれたのだろう。

「朔夜様に加えて白夜様までおっしゃるなら間違いはないな……」

「朔夜様、それから夏見隊長、失礼いたしました」

 白夜の一声で、隊員たちは納得した。

「隊長……夏見隊長かぁ……。いいね、その呼び方。タカオ、あんたもそう呼んでいいわよ」

「呼ばねーよ」

 健人も少し冷めている。もっとこちらのノリに合わせてくれてもいいのに。

 そこから、朱音は隊員たちと話すことにした。

「あんたたちも刀で邪気を斬れるのよね? あたしが最初に妖鱗ってのをぶち割るから、そのあとで続いてくれる?」

「は、はい。そちらの刀はもしかして、重霊鉄で打ったという……?」

「そう。あたしほどの力がなきゃ持てない刀。これがあれば、あたしもある程度邪気を斬れるって訳。だから安心してついてきなさい」

 刀を軽々と上に放り投げてキャッチしてみせる。

「おお……」

 ついさっきまで不安がっていた隊員も、朱音の力に感心している。

 そんなやり取りをする後ろでは、健人と朔夜が話していた。

「桂が死んだ時、俺はナツミになにもしてやれなかった。結局、あいつは自分で立ち直った。だから、今度こそ俺があいつを支えてやりたいんだ」

「そうですか……やはり健人様こそ朱音様の隊の副隊長にふさわしいのでしょうね」

 直接言われるにはこっ恥ずかしい内容だ。

 朔夜が相手だと素直に話せるのは朱音も健人も同じか。ひとえに朔夜の人徳故だ。

 こうして臨時に結成された夏見隊が活動を開始するのだった。

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