女傑異世界紀行

平井昂太

第1話「異世界へ」

 広大な屋敷の庭園。

 その上空を、いびつな形状をしたカラスのような生物が舞っている。

 獲物を探していると思われる不気味な生物を、長い黒髪の少年が矢で射ぬく。

 黒い羽根が散る空は歪んで見える。

「お見事でございます」

「いえ、ですがこのままではこの世の境界が……」

 従者と思しき老人からの称賛を受けつつ、少年は深刻そうに目を細めた。



 とある冬の日。

「ナツミはクリスマス予定とかあんのか?」

 登校の途中に嫌なことを聞かれた。

「タカオ、それケンカ売ってんの? あたしのクリスマスなんて毎年ゲームの特別ログインボーナスもらうだけの日よ!」

 ナツミこと夏見なつみ朱音あかねはいわゆる陽キャに含まれるような高校二年生の少女。

 だが、元気だけが取り柄で色気には乏しいということもあり、スクールカーストの上位にいるなどということはない。恋人と過ごすクリスマスは未経験だ。

 クリスマスを一緒に過ごす恋人が欲しくないといったらウソになる。だが、それがすべてではない。もっと大事な夢もある。

「そうか。空いてるか」

 ホッとしたように小さく息を吐くタカオこと高尾たかお健人けんとは朱音の幼馴染だ。

 下の名前にも聞こえる苗字というつながりで、友達からセットで扱われることも多い。

「なによ。あたしにクリスマスの予定がないとなんかうれしいの?」

 互いに憎まれ口を叩き合うこともある間柄だが、モテないことについて嫌みなど言わなくてもいいではないか。

「いや、空いてるんなら――ああ、別に……」

 健人は言い淀む。

「ってか、タカオはなんでモテんのよ。しかも、わりとかわいい子振ってるし」

 昔から無鉄砲な朱音はしっかり者の健人の世話になってきた。朱音のフォローをしているのを見て、自分の世話も焼いてほしいと思う女子がいるらしい。

 顔とスタイルがそこそこいいのは認めないでもない。

「俺も恋人とかはいないぞ?」

「でも、あんたはいいわよね、男子同士でパーティーとかやってんでしょ? あたしの友達なんて『クリスマスは彼氏と過ごす』とか言って薄情なもんよ」

 そんな愚痴をこぼしながら横断歩道を渡った。

 渡り終える少し前から信号が点滅を始めていたのでタイミングはよかった。

 そこまではいいのだが、朱音たちの横を幼い男の子が走っていった。

 その先は信号で、もう赤になっている。

 けたたましいクラクションの音が鳴る。もうそこまでトラックが来ていた。

「危ない!」

 朱音はとっさに振り返って男の子の手を引っ張る。

 その拍子に後方へ倒れたが、どうにか難は逃れた。

「いっ……」

 少し脚をすりむいている。

 男の子の方は抱きかかえるようにしていたので無事のはずだ。

「お姉ちゃん、ケガ……」

「ああ、こんなのかすり傷。それより、信号はちゃんと見ないとダメだよ?」

「はーい」

 男の子は信号が青になってから、ゆっくり歩いて横断歩道を渡っていった。

 危ない目には遭ったが、人を助けられたと思うと朱音の気持ちは軽かった。

「そうやって人助けすんのが悪いとはいわねーけど、早死にしそうな気がするぞ」

 そばで見ていた健人はあきれたように言う。

「死んだら二階級特進でしょ?」

 まだまだ死ぬ気はないが、ちょっと憧れる言葉だ。

 気を取り直し学校の方へ歩き出した朱音を健人が呼び止める。

「ちょっと待て。消毒だけでもしとけ」

 なにかと危ないことをやらかす朱音のために、健人は消毒薬を携帯しているのだ。

 健人は、カバンから取り出したガーゼに液を染み込ませて朱音の脚に当てる。

「いたっ……」

「ガマンしろ、かすり傷なんだろ」


 こんなことをやっていたので学校には遅刻ギリギリになった。

「そこの赤毛、早く教室に行ってカバンを置いてこい。朝礼に遅刻するぞ」

 校門をくぐった辺りで風紀委員に呼びかけられた。一つ失礼な言葉が含まれていた。

「誰が赤毛よ。どう見ても茶髪でしょ、あたし」

 親指で自分の頭を示す。

 そんな朱音に対して健人がつっこむ。

「何度も言ってるが現実の赤毛はアニメみたいに真っ赤な髪のことじゃないぞ。おまえは赤毛だよ」

 実際のところ、朱音の髪は赤みがかった茶色で、現実の赤毛はこのくらいだ。健人の言っていることは正しい。

 ちなみに染めているのではなく地毛。

 なんでも少し外国人の血が混ざっているらしいが、詳しいことは聞いていない。そもそも国籍などというものには興味がない。どこの国で生まれようが、人間は人間だ。

 朝礼後、二年生の教室。

「なんで赤毛って言われるの嫌なの? レッドって特撮ヒーローのリーダーっぽいじゃん」

 隣の席の友達に尋ねられる。

 彼女の発言から分かるように、朱音の夢というのはヒーローになることだ。

 その夢を持つに至った経緯は色々あるのだが、多くを語ってはいない。

「あたしはもっと大人向けのヒーローになりたいの」

「大人向けって具体的にはどんなんだよ」

 近くの席に座っている健人も会話に参加してきた。

 幼稚だと思われたくなくてこんな風に言っているが、それ以上の答えとなると少し困る。

「なんていうかこう……単純な善悪で語れない問題に踏み込む……みたいな?」

 なんとなくそれらしい表現で取り繕う。

「ヒーローとか言ってること自体、なんか子供っぽいだろ。大人向けとか、おまえにそんな頭あるか?」

 学校の成績に関しては、中くらい。科目によっては平均点以下。賢いとはいいがたい。

「頭はこれから良くなってくのよ!」

「あー、はいはい。将来性に期待ね」

 いつも試験で上位に入っている健人からはバカにされてしまっている。

「あんただってアメリカンヒーローみたいな名前してるクセに」

「普通に日本人の名前だろが」

 あきれた様子の健人が一つ文句を言ってきた。

「ってか、おまえ。メッセージの返信もっと早くならないのかよ?」

「は? 普通でしょ」

 ゲームをやっていると手が放せないこともある。丸一日放置したりはしていないのだからいいのではないか。

「待ってるこっちの身にもなれっての……」

 健人はなにやらブツブツ言っている。

「なに? あたしからの返信そんな心待ちにしてんの?」

「そんなんじゃねーよ!」

 ほんの冗談で言ったつもりだったが、思ったより強気で返された。

「とにかくおまえは赤毛だ」

 話が元に戻った。

「タカオこそ、髪染めてて不良じゃん。あたしのは地毛だからね」

 健人の髪は薄い茶色だ。

 ちなみにここの校則では染髪が禁止されていない。自由な校風なのだ。

「誰が不良だ! 黒髪以外の気分を味わってみてるだけだろが」

 足を踏みつけられた。

「なにすんのよ!」

 健人の表情を見る限り、本当に腹を立てているようだ。

 さっきからなぜそうムキになっているのか。

「なに怒ってんの?」

 頭に疑問符を浮かべていると、隣の友達はニヤニヤと笑っている。

「そりゃ、不良とヒーローじゃ釣り合わないもんねー」

「ん? だから?」

 なんの釣り合いだろうか。

 朱音の疑問符はますます増える。

 健人はというと、眉間にシワを寄せて腕組みしている。

「朱音ってなにかされても反撃ってしないよね」

 友達がこう言うのも当然だ。

「ヒーローは弱い者には暴力を振るわないのよ」

「誰が弱い者だ」

 今度は意外と本気で怒っていない。健人の怒りのポイントはどこにあるのか分からない。

「ってか、ヒーロー目指してるわりに武術とかは習ってないのよね。なんでだっけ?」

 この友達には話していなかったか。

「型を守ってどうこうみたいなのって性に合わなくて。その代わり筋トレは欠かしてないよ。腕立て、腹筋、スクワット、毎日百回ずつ!」

 とはいえ、まだまだ一般人の域を出ない。ヒーローならもっと常人離れした回数に挑まなければ。とりあえず一年以内に二倍を目指す。

 身体を鍛えることは苦にならないが、実際のところどうやったらヒーローになれるのかが問題だ。現代日本で戦う機会などあまりないし、ましてや怪人など出てこない。

 校内でいじめがないかは見て回っているのだが、結構平和な学校のようだ。

 いじめが一切ない学校はそうそうないと聞くので、見回りを強化するのが今できることか。

「朱音って悩みとかなさそうでいいよね。髪が赤いのが一番の悩みでしょ?」

「赤くもないから悩みなんてなにもないし!」

 くよくよと悩むのは勇猛さに欠ける。心構えだけは既に出来上がっているつもりだ。


 放課後。

「あれ? 雨降ってる。傘持ってきてないよ」

「今日の夕方は雨だって教えてやっただろ」

 朱音はスマートフォンのメッセンジャーアプリを立ち上げる。

「あ、ホントだ。タカオからメッセージ来てる」

「まったく。世話の焼ける奴だな」

 仕方ないので相合傘で帰ることに。

 健人と家が近いのはなにかと助かる。

「なんかこれ、子供の頃を思い出すね」

「子供の頃……ね」

 なんとなく不満そうだ。

 機嫌を取った方がいいだろうかと思案していると、天候が雪に変わった。

(雪かぁ……東京じゃなかなか――)

 余計なことに気を取られてしまった。地面が濡れていたせいか、突然足元が不安定になる。

 なぜか視界が歪んだ。

「わっ……!」

 つかまれる物もなく、朱音はそのままスッ転ぶ。

 下手をしたら後頭部を強打するのではないかと危惧したが、案外倒れたあとの感触はやわらかかった。

(これは……芝生……?)

 目を開けてみると、道路の上でもなければ雨も雪も降っていない。近くに健人の姿もない。

 起き上がってよく見てみると、日本庭園のような場所だ。

(おかしいな……)

 頭を打って救急車で運ばれたなら病院で目を覚ますはずだし、何事もなかったなら道路の上のはず。移動した先があまりに不自然だ。

 妙だと思いながら周囲を見回すと、人影があった。

(キレイな子……。一応男の子っぽいよね? あんなに髪長いのは珍しいな)

 朱音より少し年下らしきその少年の漆黒の後ろ髪は腰まである。中性的な顔立ちと華奢な体躯も相まって、よく見ないと少女と間違えるかもしれない。

 切袴の和服を着ているというのも珍しい。

 どこか浮世離れした感じだが、ここがどこかは彼に尋ねるしかない。

「おーい、君。ちょっといい?」

「私でしょうか?」

 口調も少し変わっている。この年頃の男子で一人称が『私』とは。

「そうそう。聞きたいことがあるんだけどさ」

「はい。私に分かることでしたら」

 少年は石榴色の穏やかな瞳でこちらを見据える。

 見た目の雰囲気に違わず、柔和で上品な態度だ。

 安心して状況を把握できそうだと思ったのも束の間。

「なんだ、あの女は! 朔夜さくや様を君呼ばわりだと!?」

 どこからか大人の男性が集まってくる。

「えっ……ちょっ……」

 彼らは全員和服を着ており、数人がかりで朱音を取り押さえた。

 一応手加減してくれているのか、痛いと感じるほどの力ではないが、さすがに人数の差で勝てない。

 そのまま強引に屋敷の外まで連れていかれ、また別の建物の敷地に入れられた。

 そこで朱音は縛り上げられる。

 外の景色も先ほどまでと一変していた。

「赤い髪をした不審な女を引っ捕らえました」

「赤くないし! 茶髪だし!」

 朱音の文句には誰も聞く耳を持たない。

 移動した先の屋敷内の高い位置に、いかにも偉そうな中年男性が座っている。

 朱音を捕らえた男たちが、偉そうな男に説明する。

「この女、いつの間にやら卯月うづき家に侵入し、朔夜様に襲いかかろうとしておりました」

「は!? 話しかけただけでしょ!?」

 訳が分からない。

「女、名はなんと申す?」

 偉そうな男はやけに物々しい口調で尋ねてくる。

「名前……? 夏見朱音だけど……」

 朱音が名乗ったのち、周りの男たちは勝手に話を進めていく。

「お奉行様、いかがいたしましょうか?」

「卯月家はこの国有数の貴族。その屋敷へ無断で立ち入ったとなれば、捨て置くことはできぬな……」

 奉行と呼ばれた男はしばし考え込む仕草をする。

「貴族の屋敷への不法侵入。朔夜様への狼藉。どちらも看過できぬ。その者を絞首刑に処す」

「早くない!?」

 即断即決という言葉があるが、こんな短時間で死刑を決められてはたまらない。

「黙れ小娘。今すぐ処刑してもよいのだぞ」

「ちょっ……まま、待って! あたしはなにも!」

 こんなところでいきなり殺される訳にはいかない。力ずくで逃げ出そうかと思ったが。

「少々よろしいでしょうか?」

 先ほどの少年がやってきた。

「これは朔夜様。ここには不審極まりない身なりの女がおります。危険でございます」

 男たちの中の一人が、朱音に対するのとは真逆の丁寧な口調で少年に応じる。

「同心の方々、お仕事お疲れ様です」

 同心――という言葉はゲームで聞いたことがある。昔の日本で警察としての役目を担っていた人たちだ。

 朔夜という少年は、彼らに敬意を払った上で、朱音についての意見を述べる。

「その方は本当にご自身の置かれた状況が分からずにいるようでした。詳しくお話を伺ってみるべきではないでしょうか?」

 朔夜は朱音に対しても礼儀正しい。

「そうなのよ! あたしもどうなってるのか分からないの! 急にさっきまでいたのとは別の場所にいて。あんな立派なお屋敷、近所にはなかったはずだし」

 今頼れるのは朔夜だけだ。

「卯月家をご存じでない……どこの地方の出身でしょうか?」

「あたしは東京生まれ東京育ち。こういう髪だけど普通に日本人だから」

 朔夜に答えたのだが、奉行から怒鳴りつけられる。

「また不審な発言を……そのような地名は聞いたこともないわ!」

「東京を知らない!? そっちこそおかしいじゃん!」

 互いに不信感を募らせる朱音と奉行。

 朔夜だけが冷静に状況を見極めているようだった。

「……あなたの認識だと、トウキョウという地名はまず間違いなく知っているものなのでしょうか?」

「も、もちろん」

 聞いたことがないなどという発言こそ聞いたことがない。

「日本人、とおっしゃいましたが、日本ではない国をご存じだということなのでしょうか?」

「そりゃ、行ったことはないけど、アメリカとか中国とかなんとなくは知ってるよ」

「その着物はどのようにして手に入れたものでしょうか? 私の知る限り、そのような意匠の服を作る職人はこの辺りにいらっしゃいません」

「普通に学校の制服だけど……」

 この場にいる朱音以外の者全員が和服だということは、朱音の服装の方がおかしいのか。

(まさか……タイムスリップ……!?)

 戦国時代なり江戸時代なりにでも来たというのか。

 だとしたら、ブレザーの制服やスカートという服装が珍しくてもうなずける。

 朱音からの回答を一通り聞いた朔夜は考え込む。

 しばらくして再び口を開いた朔夜だが、その言葉は朱音の予想に反していた。

「もしや、あなたは別の世界からいらっしゃったのではありませんか?」

「別の世界!?」

 タイムスリップではなく、異世界転移なのか。

「私はトウキョウという地名を聞いたことがありません。この世界は昔日本と呼ばれていたという記録がありますが、現在そのような呼称が使われることはあまりありません」

 奇妙な話になってきた。しかし、朔夜はなにかを理解したようだった。

「一説によれば、この世界ははるか昔に日本という国の一部が切り離されて生まれたとのことです。切り離される前は、他の国との交流があったとも聞きます。あなたは切り離されたもう一つの世界からやってきたのではないかと」

 そんなことがあるものなのか。

「互いに常識的な地名や家名を知らない……そうしたことからの推測ですが」

「いやー、でも異世界ねえ……。そんなものが実在するなんてちょっと信じられないっていうか……」

「こやつ、朔夜様を愚弄する気か!」

 あいまいな答えを返していると同心からも怒鳴りつけられた。

「わー! 違う違う!」

 朔夜のことは信頼できそうだと思う。オカルトじみた話をすぐに受け入れられないだけだ。

「私がこれまで行ってきた研究が正しければ、異世界というものは実在するはずです。それに、二つの世界の境が崩れかけているとも予想しておりました」

 いい加減な想像ではないらしい。それなら信じてみてもいいが。

「うーん。君が言うなら正しいような気がするけど……。そうだ! 異世界人なら魔法とか使えない? そういうの見せてもらえれば、こっちは一発で信用できるよ」

 朱音が提案すると、朔夜は小さく首をかしげた。

「マホウ……とはどのようなものでしょうか?」

 見たところ、西洋風の異世界ではない。だとしたら魔法とは呼ばれていないか。

「えーっと、説明が難しいけど……なにもないところから火を出したり、空を飛んだり……」

 そう都合よくはいかないかと思いきや。

「火……ですか。もしかすると、あなたのいた世界には、こうした術を使える人物が一切いなかったということでしょうか?」

 そう言って、朔夜は上に向けた掌に炎をまとわせた。

「……! それ! あたしの世界にそんなことできる人いないよ!」

 続けて、朔夜は軽く宙に浮いてみせる。

「自在に空を飛ぶとはいきませんし、わずかな時間ですが、この程度でしたら」

 口振りからすると、こうしたことができる者がこの世界には何人もいるようだ。

「そうそう! そういうの!」

 ようやく納得できた。

 朱音の世界でも手品で似たようなことをする人間はいるが、この状況で朔夜がそんなふざけたことをするとは考えられない。

「信じていただけましたか?」

「うん。そっかー、あたし異世界に来ちゃったのかー」

 納得はしても、心が追いついていないせいか、不思議と危機感はない。元の世界に帰れる保証もないというのに。

 それはいいとして、縛られているこの状態はどうなるのだろうか。

「そろそろ縄ほどいてくれない? あたし異世界から来ただけで怪しい人間じゃないでしょ?」

「異世界人が危険でないとは限らん。当面きさまの身柄は拘束する」

「ええっ!?」

 奉行とやらにこう判断されては話が振り出しに戻ってしまう。

「よろしければ、元の世界に帰れるようになるまで私の屋敷で暮らしてはいかがでしょう?」

「朔夜様!」

 朔夜の提案に対して、奉行・同心たちが声を上げる。

 朱音としては、このチャンスを逃す訳にいかない。

「そうさせて! 絶対変なことはしないから!」

 言ってから、なんとなくホテルにでも誘うようなセリフに思えて若干恥ずかしくなった。

 朔夜はなんら疑った様子もなく、奉行たちを説得してくれた。

「多少なりとも異世界について知識のある私は、今の彼女にとって有益な存在のはずです。手荒なことはなさらないかと」

「ですが……」

「卯月家の次男の申し出であっても聞き入れてはいただけませんか?」

「め、滅相もない。朔夜様のご意思でしたら、我々も尊重いたします」

 先ほどから聞いている限り、この朔夜という少年はこの世界で相当偉いらしい。

(そういえば、貴族の屋敷がどうとか言ってたっけ。そういうのがある世界なんだ)

 こうして、朱音は卯月家に引き取られることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る