第3話 かわいいじゃないです、って何回言わせるんですか
昼前。
今日も送った。動画+手描き地図+「巡回90分」。森岡の「既読」は相変わらず早い。
すぐ返事が来た。
森岡:
今朝の動画、拝見しました。
画角の左奥に小さい個体が写っていましたが、これは親子でしょうか?🧸
「ほら〜〜〜〜!やっぱ可愛いで見てる〜〜!」
志乃が机をドンドンする。
「小さいの見えちゃうと“親子でかわいい”脳になるんだよな……」
俺はフレームを拡大した。
確かに、母グマの後ろに、黒い塊がちょろっと見えてる。
でもそこ、民家の縁側のほんと真横だ。かわいいで済ませたら怒られるやつ。
すぐ返信する。
湊:
親子です。
=親が「ここは安全」と学習するので、今後も同じ時間・同じ場所に来ます。
=今回はより危険寄りです。
※かわいいかどうかは住民が決めます。こちらでは決めません。
既読。
森岡から「なるほど…」だけ戻る。絵文字はもうない。
そこへ、役場の固定電話が鳴った。マコが取る。
「はい、こちら××町です……あ、はい、いつものおばあちゃん……」
スピーカにした。
「マコちゃん!?今日もクマ出たのかい!?新聞に送ってくれたかい!?」
「あ、今日は新聞じゃなくて“クマを殺すなって言うところ”に送りました〜」
「そうかい!ならいいや!ちゃんと“家のすぐそばです”って書いといてね!!」
「書きました。“家のすぐそばで親子”って」
「親子!?そりゃだめだよ!?親が来たらまた来るよ!?」
――住民のほうが話が早い。
電話を切ると、今度は森岡から長めの文章。
森岡:
こちらのセンターでは、親子の場合は特に「駆除ではなく共生」を強く勧めてきました。
ただ、今いただいている動画のような “人家直近での親子” は想定していませんでした。
こうしたケースについては内部でもう一度議論します。
「よし、1ミリ動いた」
俺が言うと、柚葉が手描きマップを持ってきた。
通学路に赤、クマが来たとこにクマの顔。かわいい。
「この“通学路ここ”も送っていいですか。
“かわいい親子”って見る前に“ここ子ども歩きます”って見てほしいんで」
「送る」
俺はマップの写真を撮って、そのまま森岡に貼った。
湊:
この赤い線、人間の子どもが歩きます。
親子で歩いてもいい道ではありません。
これを見ても「共生で」と言う場合、理由を教えてください。
今回は3分もかかった。
出てきたのは、かなり人間っぽい文面だった。
森岡:
……ここを子どもが歩くのですね。
すみません、私は今まで「森の奥で撮られたクマ」のイメージでしか話していませんでした。
この距離であれば、まず人を優先でよいと思います。
(担当内でも共有します)
「お、言わせた」
マコがにやっとした。
「“森の奥で撮られたクマ”って自分で言いましたね。
もうあっちの脳内カレンダー壊れましたよ」
志乃も笑う。
「じゃあ次から“森の奥じゃないクマです”ってテンプレに書いとこ」
「書いとけ」
俺は送信テンプレを開いて、一行足した。
・これは森の中で撮ったクマではなく、人家の真横で撮ったクマです。
これで、毎回かわいいで来られても、最初に落とせる。
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