第2話
……俺の家は、別に裕福ってわけじゃない。
その晩の食卓。父と母の顔に笑いはなく、いつもになく硬い空気が張りつめていた。
「清司……もし家にもう一人、誰かが増ったらどう思う ?」
母が口を開いた時、俺はご飯を噴き出しそうになった。咄嗙に飲み込んで、態勢を整える。
「え ? ? ? 子供、産むの ?」
「清司は……嫌かな ?」
「別に嫌っていうわけじゃないけど……俺、明後日から高校生だよ ?」
「実は……その子も清司と同じくらいでね」
「どれくらいいるつもりなんだ ?」
「これからはずっと……ここで」
脳に一気に血が上る。親の言葉を必死で咀嚼しようとする。
「冗談でしょ ! ? !」
二人の顔には一片の笑みもなく、全然冗談を言っているようには見えなかった。
里子 ? 孤児院 ? いや、違うだろ。孤児院からなら小さい子を引き取るはずだ。
「冗談じゃないのよ……」
母は言いづらいそうに、少しばかり気まずそうに口を開いた。
四つの目が俺をしっかりと見つめ、俺の表情の変化を観察している。
「なっ…… !」
俺は両手で食卓を押し、椅子がキィッと鋭い音を立てて跳び上がった。
「どういうことですか、それ ! ?」
別に怒っているわけじゃない。ただ、今の状況にただただ面食らっているだけだ。
誰が聞いても意味不明だろう、こんな話。
「理由は……今はまだ言えない」
「今はただ、清司の意見を聞きたいだけなんだ」
父母の息の合った掛け合い。言葉が次から次へと続く。
「……わかった」
俺は再び食卓の席に腰を下ろした。
「そこまで言うなら、何か事情があるんだろうな」
普段の両親は、こんなに堅苦しくない。俺にこんな態度を取ることもない。
口にできない理由があるなら、きっと言いにくい事情があるに違いない。
「いつ来るんだよ、その人」
「明日」
「明日…… ! ! ! ! ?」
心理的な準備をする時間を、一切くれない。
「はははは……わかった、わかった、わかっ……」
「じゃあ、明日迎えに行くから、清司も来なさい~」
母はやっと笑顔を見せた。
「はい……」
父がスマホを取り出し、俺に差し出した。
「その子の写真だ」
写真を見た瞬間、俺の表情は固まり、口をぽかんと開けて、あごが外れそうになった。
「ちょっとととと……女の子だなんて、一言も聞いてないんだけど ! ! !」
「ええ、清司も聞かなかったじゃないよ~」
まあ、確かにその通りだが。
(あああああああ !! なんだこれ ! ! !)
写真の中の女の子は、漆黒の長い髪、暗紅色の双瞳。ベッドに座り、楽しそうに笑いながら、おもちゃの熊を抱きしめていた。
見た目は、俺の家に居候しなければならないほど困っているようには全然見えなかった。
俺は父にスマホを返した。父は俺を見つめ、感想を求めているようだった。
「はあ……」
俺は両手で顔を覆った。
「……もう、いいよ」
どうせもう決まっていることなのに、なんで俺の意見を聞くんだ。
仮に俺が嫌だと言ったとしても、彼女を家に迎え入れていただろう。
「それと、もう一つ言っておくことが……あなたたち、同じ学校で、同じクラスなの。先生にもお願いしておいたわ」
俺は一瞬、何を言えばいいのかわからなくなった。これ、完全に最初から決められてるじゃないか !
「は、はあ……よく決まってるな……」
俺は気まずそうに笑った。
「清司、彼女のことをよろしく頼む。お願いね~」
母の口調には頼み込むような感じさえあった。
しかし、俺には少し理解できなかった。同じ高校生だろう、自立する能力がないわけないだろうに、なんで俺が面倒を見なきゃいけないんだ?
(とんでもない !俺だって自分の面倒すらまともに見れないんだぞ !)
「……オーケー」
そう言って俺は自室に戻った。
頭の中で、さっきまでの会話を整理する。
「新しい家族、か……」
天井を見つめながら、思考はどこか遠くに飛んでいく。
ただ一つわかっていた――これは俺にとって、別に悪いことばかりじゃない、ってこと。
いつの間にか、俺は眠りに落ちていた。
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