第6話 ムースたちとの会話とエリザベス

翌日。私は美琴とムースと携帯で会話をすることにした。


彼女たちにはできるかぎり平穏な生活をおくってもらいたいので本部への召集は最低限度に留めたいと考えている。

ヨハネスの報告や敵の詳細も含めて報告すると美琴は嬉しそうに言った。


『怪盗カメレオンは実在したんですね』

『君は彼を知っているのかね』

『はい。子供の頃に絵本や小説でよく読みましたから。図書室で大人気だったんです。怪盗カメレオンのお話』

『そうか』


どうやら今の世界でも物語という形で影響を与えている。

当時の怪盗の人気は凄まじく現在まで受け継がれているのだろう。


あとで図書館に赴いて確認しなければならぬ。


音量を大きくしているので会話を聞いていたムースも口を挟んできた。


『怪盗カメレオン様がどのような方かは知りませんが、どんな相手でもカイザー様と美琴様なら大丈夫ですわ』

『ありがとう』


彼女の私たちに対する信頼と明るさが今はとにかく頼もしい。



通話を終えた私はスター流の医務室へと向かう。

扉をくぐると巨大な水槽が出迎えた。中は泡立った緑色の液体で満たされている。

負傷したメンバーを回復させる肉体治癒装置だ。


「カイザー。来ていたのですね」

「久しぶりだ。エリザベス」


瞳よりも大きな丸眼鏡をかけ長い茶髪の少女はエリザベス=フォン=タルトレット。


名門貴族の出身でスター流の医務を一手に引き受ける縁の下の力持ちだ。


触れるだけでどんな傷でも瞬時に回復できる能力を獲得した彼女は大変ありがたい。

長期戦や総力戦において彼女が要と言っても過言ではないだろう。


「カイザー、会えてうれしいです!」


彼女は私を見るなり眼鏡を輝かせて椅子から立ち上がると手を差し出して猛烈に握手をしてきた。部屋の壁には大量のスター流の写真や新聞や雑誌の記事の切り抜きが貼られている。


彼女はいわゆるヒーローオタクと呼ばれる存在らしく、私たちの活動を心から応援してくれている。それだけに暴走しがちなメンバーに意見できる珍しいタイプだ。特に事件が起きた時誰よりも速く駆けつけ単身で突撃するロディが苦言されている。


「体調はどうだろうか」

「今はバッチリです。ここで話すのもアレですし、外に出ませんか」

「私は構わないが……」

「決まりですね」


ニコッと笑ってエリザベスは髪を揺らしながら部屋の外に出た。

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