名前も知らない恩返し②
町中には普段では絶対に見ることのできないはずの亡くなった人の姿がチラホラと確認できる。 生きていた場所へ向かっているのか、それともただ一人過ごしているのか、様々である。
そして彼らを判別する方法はハッキリしていて薄っすらと透けて見えるのだ。 これを気味悪がってこの日には絶対に外を出歩かない人がいることも知っている。
ただやはり折角の日をそのように過ごすのはどこか寂しいと感じてしまう。
―――見つけ出す前に実家にもちゃんと顔を出さないとね。
―――午前中はちょっともどかしいけどそれでも大切だから。
人探しを優先したいところではあるが貴重な一日全てをそれに使うわけにはいかない。 ご先祖様へ会いに行くのも大事なことなのだ。
―――実家まで少しかかるから頻繁には帰れないんだよねぇ。
実家へ着き中へ入ろうとすると近くからドアの開く音が聞こえた。
「あ、ミシェル!」
隣の家から一人の男性が見え声を上げた。 同い年で家が隣ということもあり親同士も仲がよく幼馴染の関係である。
「・・・ん? おぉ、レアか」
いつものように楽し気にミシェルはニヤリと笑った。
「普段は帰ってこないのにこの日はちゃんと帰ってくるんだな?」
「あ、当たり前でしょ! ミシェルには連絡していないだけで帰ったりはしているし」
「連絡をくれてもよかったのに」
「連絡しても返信が遅いんだもん」
「忙しいんだ。 久々に声を聞いたから一瞬誰だか分からなかったよ」
「会うのが一年ぶりなだけでしょ? 声なんてそう変わるわけがないよ」
「久しぶり過ぎてレアの声を忘れかけていた」
「酷い! 去年と似たような格好だから私だとすぐに分かるでしょ!」
「去年の服装なんて憶えているわけがないだろ。 俺自身、去年どんな服を着ていたかなんて全く憶えていないんだから。 で、今日も挨拶に来たのか?」
「そりゃあ、おばあちゃんとおじいちゃんに会いたいからね。 ミシェルはまだ実家暮らし?」
「じいちゃんたちの世話で大変だからな。 それで? この後はいつもみたいに出かけんの?」
「そう。 まだ見つかっていないんだ」
そう言うと鼻で笑われる。
「見つかるわけがないだろ。 こんな広い世界、しかも名前も顔も分からないのにどうやって探すのさ?」
「奇跡の日なんだから望んでいたらいつか見つかるかもしれないじゃない!」
「はいはい。 折角ゲットした旦那さんを呆れさせんなよ」
その言葉は思ったよりもレアの心に突き刺さっていた。 レアは軽く頬を膨らませる。
「本当に私に突っかかってくるわね。 意地悪」
「本当のことを言っただけだろ?」
「亡くなった人を酷い扱いしないで!」
「一年にたった一日だけの特別な日とはいえ亡くなった人が生きている人よりも優先されるなんてあってはならないんだよ」
「それは分かってる!!」
「本当か? 実際に旦那さんを悲しませてんじゃねぇの?」
心の奥底で本当の気持ちはたった一日だからこそ、できることをしたいという気持ちが勝っていた。 一年に一度だけなんだから毎日一緒にいるジェレミーには理解してもらいたい。
願わくば、彼にも一年でたった一日しかないこの日を特別に過ごしてほしい。
「・・・見つけ出してこの感謝を伝えれば、私も心から満足できると思うから」
「無駄な時間だ」
「本当にどうしてそんなに酷いことを言うの!?」
「無駄なものは無駄だからだ」
「~ッ!! 相変わらず意地悪ね!!」
「・・・別に意地悪でも構わない」
「本当に性格変わってない! 小学生の時も黙って勝手にいなくなるしさ!!」
「だからそれは親父の仕事の事情なんだから仕方がなかったって言っているだろ。 数年後ちゃんと戻ってきたじゃないか」
「そういう問題じゃない! 私には何も言わずに去ったのが嫌だったの!!」
「言ったらお前が泣き喚くと思ったから言わなかったんだよ。 じゃあな」
ミシェルはこの場から離れていこうとしたが思い出したかのように足を止めた。
「あ、そうだ。 俺の家にも顔を出していけよ?」
「・・・言われなくても」
「ばあちゃんが会いたがっていたからさ」
今度こそミシェルは背中を向け去っていった。
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