第7話

アンデッド達が湧き出た地面からは追加が現れない様なので、背後を気にしつつ、アンデッド達と距離を置きながらついて行く。


ふとスマホが震えた。確認すると協会からの連絡だった。


――――――――――――――――――――――

探索者協会の和田です。

緊急通報と動画内容を確認しました。

ただ現時点では、協会側で状況を把握できておりません。

つきましては、可能であれば現状を配信して共有してください。


飯田さんのアカウントには、これより一時的に"協会公認臨時バッジ"を付与します。

これにより、当ダンジョン内の探索者及びこれから侵入する方々へ向けた注意喚起および警告表示を同時に行います。


そして、現時点で即座に行動できる上位探索者の緊急派遣に向けた準備を進めています。


状況が危険と判断される場合、速やかに撤退行動へ移行してください。

くれぐれも無理はなさらないようお願いいたします。――――――――――――――――――――――


「配信、ね……」


やる予定なんて全く考えてなかったが、要請なら仕方ない。探索者協会アプリから初めて配信画面を立ち上げる。


初期設定として、題名は【第五階層での異常事態中継】とわかりやすく。コメント音声は無し。ただし配信するのだから収益は欲しいので、スパチャは有り。


投げてくれるか解らないけどね。


切り抜きは禁止。協会公認バッジよりも拡散力を期待できないから。


後は……偏向報道大好きなメディアに、勝手に使われるのも癪に障るので転載も禁止。報道なんかに無許可で使われでもしたら協会から訴えてやる。


そんなこんな。諸々準備を済ませまして早速配信開始をタップ。


本当に即座に"協会公認臨時バッジ"が付与されたことにより、視聴者がチラホラ現れる。


一応、挨拶しとくかぁ…


「えー初めまして。協会からの依頼により緊急で動画を回してる"なななん"です。第五階層で発生している異常事態を中継配信する事になりました。よろしくお願いします」


まぁこんなもんで良いでしょ。


因みに"なななん"とは私がゲームキャラクターに付けてる名前です。本名を名乗るのが憚られる状況なので、丁度良い偽名として利用しました。


勿論顔出しなんてしません。


コメント

:よろしく〜

:女だ!女の探索者だ!囲めっ!!

:可愛らしい声ですね。一緒にお茶とかどうですか?

:↑んな事言うから女性探索者が消えるんだよ。理解しろハゲ。

:まぁた髪の話を……


:【探索者協会公式】現在、第五階層にて異常事態発生中。付近の皆様は注意しつつその場を離れてください。


:第五の異常ってどんな感じなの?


「変なコメントは協会にブロックしてもらいますよー……第五階層はこんな状況です」


地面を映していたメインカメラを前に向ける。近くを行進するアンデッド達が映し出される。


:は?どういう状況???

:なんで襲われないので?そういうスキル持ち?


「解らない。彼らは私を無視して同じ方向を目指してます。それと、これからはコメントの反応できませんので、あしからずー」


手に持つと戦闘の邪魔になるので、懐中時計がある胸ポケットとは反対の場所にスマホを収納。ちょっとズラして画面を見れば問題なく配信が続いている。


:ふむ……アイレベル的に胸ポケットか?

:若干上を向いている。この子、何がとは言わないが……ちゃんとあるぞ。

:カメラ反転を猛烈に希望します。

:つまり画面に顔を押し付ければ感触が解ったり!?

:そんな事はないぞ。試したが固くて冷たかった……

:試したんかいw

:身長158cmと見たり。

:ワンチャン匂いは感じられそう。


うわキッショ……なんで身長解るんだよ。


当たりだよ。


「協会さん。コイツら全員ブロックで」


:わー!ウソウソ!ごめんって!!!

:お御足舐めますから許して!!

:対象"シロシロ"のアカウントは探索者協会によりブロックされました。

:対象"ちぇるしぃ"のアカウントは探索者協会によりブロックされました。

:対象"komazonesu"のアカウントは探索者協会によりブロックされました。

:対象"イッチゴ_momo_3kn"のアカウントは探索者協会によりブロックされました。

:進行を邪魔したら襲われるんか?

:対象"ゲジロンpprニセ錠剤"のアカウントは…………………

:対象"布団がフッ化した"の…………………

:対象"………………


協会さんがちゃんとブロックしてくれて良き。これを気にキモいコメントを流れなくなる事を切に願うよ。


さて。このままアンデッド達について行く。


先のコメントからアンデッド達の邪魔をしたら襲われるのかどうか気になったので、スケルトンに近づいて腕を掴んで進行を妨害してみた。


ポロッと腕が取れた。


「えぇ………???」


取ってしまったスケルトンは、気にした様子も無く歩みを進める。


なんで取れるの?戦闘中は取れないのに……戦闘外だと取れる判定なの?


思わぬ事態に困惑。どうすれば良いかわからず、取り敢えずスマホカメラの前でぷらぷらさせてみる。


よく見ると腱も無い完全な中空なのに、どうして骨と骨が離れずその場を維持しているのか検討もつかない。これが新手のクーロン力か。


持ってても意味ないし捨てる。


よし、アンデッド達に続きましょう。


因みに、腕が取れたシーンからの、一連のコメントの反応はというと……


:草

:草

:草

:困惑かわいい。

:草

:草


という感じに大草原が発生していた。




****




暫く進むと丘の頂上に到達。


見下ろして絶句した。


恐らく数千。下手したら万単位に届くであろう、見渡す限りアンデッド達で犇めき埋め尽くされた墓地。


ミニガンの敵では無いけれど、その数だけは洒落にならない。


そして中心部では、彼ら一体一体が一塊となって巨大な球形を形成しており、後続の者たちが球の一部に成る可く、次々と引っ付いて行く異様な習性。


「キショいなぁ……」


ゴメンだけど排水溝に湧いた蛆虫塊にしか見えない。


集合体恐怖症なら絶叫からの失神不可避な光景である。


しかし、なんでこんな事になっているのか。アンデッド達が纏まる行動原理が解らない。そもそも脳が腐ってたり無かったりする死体が秩序だった行動をしてる時点で意味不明。理解できないのだが…………んん?


観察していると、巨球の骨と腐肉の隙間から黒い光が見えた、気がした。


ふと最悪なイメージが頭を過ぎる。


彼らは本当に1つに成る可く、融合している途中なのでは?―――と。この数が融合した場合、第五階層に不釣り合いな途方もない戦力を誇る何かが出現する可能性がある。


それは不味い。


まだ可能性の段階だが、もしそうなった場合、彼のCランク探索者ですら手に負えない事も考えられる。


そんなのが第五階層に居座るだけなら、刺激しないように迂回して第四と第六階層を行き来すれば良いだけ。


しかし、奴が動いて第五階層全域を支配したら?

コレまで確認された事例はないが、階層を移動したら?

地下へなら兎も角、地上に出てきてしまったら?


私の家はダンジョンから程近い場所にある。避難区域指定だけならまだしも、戦闘に巻き込まれて全壊とか嫌過ぎる。


それは非常に不味いぞ。少しでも養分?を削らなければ!


直ぐ様ミニガンを取り出し、巨球目掛けて引き金を引いた。


砲身回転数が最大に達した瞬間、音が爆ぜる。赤い光の礫が嵐となってアンデッド達に襲いかかる。弾丸が薄暗い靄を裂き、火花と共に着弾するたび、アンデッドの群れが面白い様に吹き飛んだ。


20秒程の掃射。だけで数百、千体以上は弾け飛んだだろう。


<レベルアップしました>

<レベルアップしました>

<レベルアップしました>

………


現在レベルは39と、殲滅は順調。


………かの様に思えただけで、一足遅かった。




―――ドクン。


低く濁った心臓を彷彿とさせる異音が、薄暗い第五階層に響き渡る。同時に巨球から溢れ出した黒の光が、数多のアンデッド達を飲み込んだ。


光は渦巻き、収縮。膨張。


変身シーンを律儀に待つのはアニメだけって事で、融合中にも吸収される前の周囲のアンデッドを掃射したのだが……結果は変わらなかった。


音もなく消える黒い光。現れるは巨大な腐肉の塊。


骨が折れ、軋み、肉が千切れる様なSAN値を削る音と共に、巨大な肉塊は形を変え、やがて生命への冒涜を示唆するような、異型へと姿を変えた。


全長、目測50mほど。


骨の割れ目から腐肉が垂れる巨大な頭蓋骨。双眸は腐り落ち、左目は虚構を見つめる空洞で、右目は変色し黒ずんだ体液を垂らし続ける。


滴り落ちる液には腐食効果のある劇毒の様で、墜ちるたびに毒々しい煙を上げて地面を溶かした。


頭部の下は、折り重なるように広がった剥き出しのあばら骨。内蔵は無い。代わりに、黒い光を放つコアと思しき魔石が、まるで心臓の様に、しかし不規則に脈動している。


そして、最も異様に映ったのは、肋より下の構造体。


蜘蛛の様に。いや、それ以上に無秩序な形状の多数の足が生えている。


長い足、短い足、折れ曲がった足、関節が逆に折れた足。骨だけの足。腐った足。膝より先がない足……それらが地を刺し、アンバランスな上部を支える構造をしている。


不意にソレが口を開く。口内には無数の顔。


どの顔も押し潰し合い、無理やり一つの肉塊へと纏められたような集合体であり、世界を呪うような悲痛な表情で、私に視線を突き刺す。


そして、


「「「「ギギギギギィィィィィイイッ―――!!!!!!」」」」


呪詛を撒き散らすような咆哮を上げた。




*****




「はぁ、マジかよ……」


レイドボス……の様な存在の出現に、予想した通りの事態に頭を抱えたくなる。見た目は巨大な骸骨なので、一先ず餓者髑髏がしゃどくろと呼称しよう。


菜々は横に飛んだ。


瞬間、ズドンッと周辺の土を巻き上げながら突き刺さる巨大な骨の槍。


喰らえば確実に大ダメージ不可避。菜々の耐物耐魔値でも耐えられるか解らない。避けるに越したことはないだろう。


次々に飛んでくるので避ける。避ける。避ける。


ボスと離れている為、低い敏捷値でも余裕を持って回避出来るのは僥倖。回避の合間に反撃としてミニガンを撃ち込むが、膜の様な物の出現で防がれてしまう。


苛立たしい事に"一匹の雑魚"が歯向かうのを面白がる様な嘲笑を浮かべている。


「防御障壁持ち……厄介な」


しかし突破口が無い訳では無いらしい。


目を凝らすと、障壁には罅が確認できる。ミニガンをずっと当て続ければ何れ突破出来る程度の防御力と判明した。


このまま押し通せば行ける。


不意に餓者髑髏が笑った気がした。


次の瞬間。


「―――ッ!?」


視界が凍りついた。呼吸が止まる。体は小刻みに震え、心臓が直接掴まれた様な根源的な恐怖に支配される。


怖い。


怖い…怖いっ。怖いッ―――コワイコワイコワイコワイッ!!


魂を冷たい刃で撫でられるような感覚。脳髄を掴まれ、掻き回され、思考を奪われるような圧迫感。意識が朦朧としてくる。逃げろと魂が警鐘を鳴らす。


逃げたい。


逃げたいのに……身体は動かない。


ヒュッと空気を裂く飛翔音。


骨槍が迫るが、菜々は動けなかった。


「かはッ―――!?」


腹部に骨槍が突き刺った。







――――――――――――――――――――――

星や♡にレビュー。

そしてサポーターの皆様。

応援ありがとうございます!m( _ _ )m


今回ちょっと短めですが、纏まりが良かったので、こうなりました。

6話の最後の方にちょっとだけ修正が入りましたので、ご報告いたします。


次回もよろしくお願いいたします。


20251123:修正

今後は【探索者協会ホームページ(HP)】を【探索者協会アプリ】とします。

ちょっと文字数が少ないと感じたので、加筆修正を行いました。

20251127:修正

ボスの名称を餓者髑髏に変更しました。

細々とした加筆修正を行いました。

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