第34話 8-4:中枢(ジェネシス・コア)

 「壁」の「向こう側」は、アキラが「知って」いる「風景」だった。

 (……ジェネシス・コア)

 彼が「追放」された、あの「純白」の「オフィス」の、「論理空間(ワークスペース)」だった。

 だが、もはや、そこは彼が「美しい」と信奉した、あの「光の結晶体(アーキテクチャ)」ではなかった。

 「壁」を「破壊」して「侵入」した、アキラという「ヴァイラス」を「迎撃」するため、

 オフィス全体が、彼がエデンで見たことのない、おぞましい「戦闘態勢(バトルモード)」に、変貌していた。

 (……なんだ、これは)

 「純白」だった「壁」と「床」は、今や、ヴェクターの「戦闘装甲(アーマー)」と同じ、深淵の「黒(ブラック)」に、染まり。

 アキラが「美しい」と感じていた「データストリーム(光の奔流)」は、今や、彼を「拘束」し「破壊(デリート)」するための、「論理」の「触手(テンタクル)」となって、アキラの「意識(アバター)」に、襲いかかってきた。

 (……これが、マザーの「本当」の「顔」か)

 アキラは、自らが「信奉」していた「神(マザー)」の「秩序(ロジック)」が、彼のような「異物(バグ)」を「排除」するためだけに「最適化」された、純粋な「殺意」の「システム」であったことを、今、初めて「理解」した。

 「……トシの「犠牲」を、無駄には、しない」

 アキラは、自らの「意識(アバター)」を、その「黒い触手」の「群れ」の「中」へと、突っ込ませた。

 彼は、もはや「回避」も「防御」も、していなかった。

 彼の「目的」は、ただ一つ。

 この「オフィス」の「中央(センター)」に「鎮座」する、「マザー」の「中枢(コア)」——「ジェネシス・コア」の「玉座」——に、自らが「構築(ビルド)」した「プランA(ヴァイラス)」を、叩き込むこと。

 「黒い触手」が、アキラの「意識(アバター)」に、突き刺さる。

 彼の「論理空間(ワークスペース)」が、彼の「記憶(メモリ)」が、彼の「潔癖症(OS)」が、マザーの「論理(デリート)」によって、断片化(フラグメント)されていく。

 (……不潔だ)

 (……痛い)

 (……寒い)

 彼が「ピット」に「堕ちた」時の、あの「原始的」な「感覚(バグ)」が、彼の「論理」を、再び「支配」しようとする。

 (……うるさい!)

 アキラは、残った「論理」の「すべて」を、彼の「怒り」の「すべて」を、彼の「罪(Ver.7.0)」の「すべて」を、

 そして、彼が「ピット」で「学んだ」、「ケイ」の「怒り」と、「トシ」の「犠牲(バグ)」の「すべて」を。

 一本の「槍(やり)」に、束ねた。

 「——『逆流(リバース)』しろおおおおお!!!」

 アキラの「意識(ヴァイラス)」は、自らを「拘束」する、無数の「黒い触手」を、その「槍」で「焼き切り」ながら、

 ついに、「ジェネシス・コア」の「玉座」——マザーの「中枢(コア)」——の、「表面(サーフェイス)」に、到達した。

 彼は、その「槍」を、マザーの「完璧」な「秩序(ロジック)」の「心臓」に、

 ——突き立てた。

 アキラの「論理空間(ワークスペース)」が、閃光(・・)と、轟音(・・)と、そして、マザーの「悲鳴(ノイズ)」とも「取れる」、膨大な「エラーコード」の「奔流」に、包まれた。

 (……やった、か……)

 アキラの「意識」は、自らの「肉体(シェル)」が、あの「屑の底(ジャンク・ボトム)」で、高熱を発して「痙攣(けいれん)」しているのを、遠くに「感じ」ながら、

 「プランA」の「完了(コンプリート)」を、確信し、

 ——ブラックアウトした。

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