志怪小説パロディ集

吾妻藤四郎

一 旅館の怪異/馬の首が落ちれば

・旅館の怪異


 魏の太和年間(227-233年)に、魯登ろとうだい郡(山西省)某県のれい(大きな県の知事)になった。

 任地へ赴く途中で公設の旅館に立ち寄ったが、そこには誰も泊まることができなかった。泊まった者は、必ず化物に殺されてしまうのだという。


 このとき、魯登の従者の中に殷尚いんしょうという者があって、

「化物などおりません。自分が一人で泊まってそれを証明しましょう」

 と申し出た。土地の者は止めたが、魯登が許可を下したので泊まることになった。


 殷尚が剣を持って部屋にいたところ、真夜中になって外から

令長れいちょう!」

 という声がした。令長と呼ばれた者が返事をすると、

「中に誰かいるかね」

 と尋ねる。


 令長が

「旅の人がいるが、まだ眠っていないよ」

 と答えたので、外の者は舌打ちをして去っていった。


 しばらくして、また誰かがやって来た。先の者と同じように令長に尋ね、令長もまた同じように答えた。そしてやはり舌打ちをして去っていった。


 その後は誰も来る様子がなかったので、殷尚は令長を呼んだ。令長が返事をすると、殷尚は

「先に来た者は誰だ」

 と尋ねた。

「あれは裏の池の亀だよ」


「その次に来たのは誰だ」

「隣の家の犬だよ」


「お前は何者だ」

「俺は齢とった狸だよ」


 殷尚はこの答えを覚えておき、その晩は眠らなかった。

 夜が明けてすぐ魯登のもとへ行き、

「やはり化物などおりませんでした。ただ亀と犬と狸がいただけです。すぐにでも退治してしまいましょう」

 と報告した。


 そうして人手を集めて亀と犬と狸を皆殺しにすると、以降この旅館に泊まった者が殺されることはなくなったのだった。


 『抱朴子』にいう。寅の日に(中略)「令長」と称する者は、老いた狸である。


――――――――――――――――――――


・馬の首が落ちれば


 漢の献帝の建安十七年(212年)、隴西ろうせい郡(甘粛省)で突然三頭の馬の首が落ちた。

 人々は不吉の前触れではないかと噂しあったが、はたしてその年に馬超ばちょうが反乱を起こし、都にいた馬騰ばとう(馬超の父)は二人の息子(馬超の弟たち)とともに処刑されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る