よくある親睦スポーツ大会ですよ-4
親睦スポーツ大会は無事に終わり、制服に着替えて、ホームルームの後、放課後となった。球技参加組はわいわい言いながらまとまって教室から出ていく。それぞれ打ち上げなるものをやるようだ。
「……ねえ。ボクらもどこかで打ち上げしない?」
教室から出る前に八柱くんがオドオドとした様子で言った。
「おお、いいぜ。部活もないしな」
すぐに功刀が応え、美古都が続けて言う。
「お前がいるのが気に入らんが、ほかでもない、八柱くんのご要望だ。頑張っていたもんな。ウチも行くよ」
「じゃあわたしも行こうかしら」
「元山くんは?」
八柱くんが帰る準備をしていた元山くんに訊いた。
「……八柱くんは大丈夫なの?」
「自分で言い出しておいてあまり長い時間はいられないけど」
「じゃあ、時間がもったいない。早く行こう」
元山くんは椅子から立ち上がってわたしたちに視線を投げた。
「ああ」
功刀が頷き、私たちも立ち上がって教室を後にした。
どこに行こうか駅まで歩きながら話し合ったが、近隣のファストフードはみな、同じことを考えて打ち上げする生徒たちに占領されるだろうということで、ちょっと離れたショッピングモールのフードコートに立ち寄ることにした。
八柱くんは人目があるところなので変装をする。頭にはスカーフをかぶり、マスクをしたので、よほどじろじろ見なければ紫苑とわからないだろう、というくらいにはなった。
「心配だなあ」
元山くんはファストフードに着いて周りを見回してから言った。平日の昼間とはいっても確かに人は多かった。功刀は人の目を気にしていないようだ。
「何喰う? 俺、ハンバーガー」
「定番だねえ、マンガみたい。ボクもそうしよう」
八柱くんもハンバーガーにするようだ。
「ウチは女子っぽくクレープにするぜ」
「じゃあわたしもかな」
美古都は甘い系のクレープにしたが、わたしはお食事系のチキンエッグクレープにする。それを見た美古都に褒められた。
「おお、タンパク質リカバリー系。偉い!」
「えへへ。さすがにこのところ疲れたから。筋肉にやさしくしようと思って」
元山くんは我が道をいき、うどんをとってきた。
テーブルを2つ合わせて5人で集まる。
「マスクしていると食べられないなあ」
八柱くんはやはり不便そうだ。
「なにかいいアイデアないかなあ」
マスクを半分あげてハンバーガーを美味しそうに食べる八柱くんを見る。こんなにかわいいのだから女装すればいいと思う。しかしそれは今の関係性ではとても言えない。なので別のことを訊く。
「八柱くんはそういうの食べても大丈夫なの?」
「うん。今日はほら、5キロも走ったからね」
「300キロカロリーくらいしか使ってないぞ」
功刀に突っ込まれ、八柱くんは顔色を変える。
「じゃあ200キロカロリーくらいオーバーだな……」
「夕ご飯で調整だね」
美古都が安心させるように笑顔で八柱くんに答えた。
「つーことはお前が食ってるそれはもっと……」
功刀にツッコまれ、美古都は眉を跳ね上げる。
「いいんだよ。ウチはいつも足りない方なんだから」
普段から柔道で激しい練習をしていれば、逆に摂取カロリーが足りないことを気にしなければならないわけだ。
「調整が必要なのはわたしですよ~~」
わたしは悲鳴を上げる。
「僕はちょっと早いけど、もうこれが夕ご飯」
元山くんが得意げに言う。まだ17時前だ。わたしは元山くんに応える。
「この時間だとさすがにまた夕ご飯食べちゃうんですよね」
「わかる!」
八柱くんは笑って応えてくれた。
八柱くんと元山くんは食べながらゲームの話を始めた。邪魔したくないのでわたしと美古都は功刀を交えて雑談をする。15分ほど雑談しただろうか。八柱くんがトレイを持って席を立った。
「ごめん。これからレッスンに行かないとならないんだ」
移動でずいぶん時間を使ったから仕方がないだろう。
5人揃ってショッピングモールを出て、駅に向かう。駅では八柱くんだけ上り電車に乗るのだが、先に上り電車が来てしまい、別れることになった。
「じゃあまた後で」
「うん。すぐやるよ」
八柱くんと元山くんは2人の会話をして別れた。
下り電車も来て4人揃って乗るが、元山くんはすぐに携帯ゲーム機を取り出した。
「もしかして紫苑と合流するのか?」
功刀が液晶画面をのぞき込み、元山くんは頷いた。
「うん。移動時間は貴重なゲーム時間なんだ」
「そうか……紫苑は大変だな」
功刀は心から同情しているようだが、わたしはそうは思わない。少なくともゲーム世界の中で元山くんとつながっているのは、彼にとって自由な時間だと考えるからだ。
「元山くんと八柱くんはゲーム仲間なんですね」
「うん。この学校で一緒になる前からの仲間なんだ」
それは初耳だ。
「まさか相棒の中身がアイドルだとは思いもしなかったけど、ネット友達の素性なんて想像するだけ無駄だし、受け入れるだけだったんだ。でも高校で一緒になれて本当にうれしかった。でも前のクラスでは、僕しか彼の味方はいなかったからね……」
「なるほど」
わたしは自分に白羽の矢が立った理由がわかり、納得した。
「今度はオレもいるぜ。紫苑とはもう友達だしな。せいぜい引きずり回すさ」
「心強いよ」
功刀と元山くんは既に意気投合していたようだ。
元山くんは携帯ゲーム機を操作しながら会話を続ける。ちょっとのぞき見させてもらうと、元山くんのキャラクターは大きな身体を持つ筋骨隆々の戦士のキャラクターと一緒にいた。
「もしかしてこれが……」
一緒にのぞき込んでいた美古都が唖然とするが、元山くんは小さく頷く。普段見ている〝紫苑〟からは想像できないキャラメイクだ。自分にないものを仮の姿に求めているのかもしれない。自分だったらどんなキャラクターを作るだろうか、と自分がキャラメイクするところを想像する。
「ごめん。これから潜るから黙ってて」
元山くんが慌てたように言った。
「え、潜る?」
わたしは意味が分からないが、功刀が解説してくれる。
「ダンジョンに入ることを潜るっていうんだよ」
「ふーん。ダンジョンが地下にあるからか」
美古都は理解が早い。液晶画面の中の2人のキャラクターは縦横無尽に活躍してモンスターをなぎ倒している。それを見ながらわたしは思う。
「けど……」
「けど?」
美古都が訊き返す。
「ゲームの中で同じ時間を過ごすのもいいけど、普通の高校生らしいこともさせてあげたいよね」
操作で忙しい中、元山くんが応じてくれた。
「今しがたしたじゃない? そしてこれからも御法さんや常盤さんや功刀くんがいてくれたらできる気がするよ」
「そうだな。意外と楽しいよ、今の関係」
美古都が言い、功刀に目を向ける。
「そうだな、無理しないのがいい」
そして功刀は安心したように微笑み、わたしも同意して微笑む。
功刀が電車を降り、次に元山くんが降り、そして美古都と一緒の駅で降りる。
「大丈夫か?」
ホームで美古都が私に訊く。
「何が?」
「紫苑に惚れてない?」
「今のところ大丈夫」
それは天地神明に誓って言える。
「いろいろ心配はしているけどね」
「それはウチもだ……」
当分の間は保護者ポジションから変化することはなさそうだ、と私は思ったのだった。
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