よくある親睦スポーツ大会ですよ-3
長距離走と言っても学校の敷地の外をぐるぐると5キロ回るだけである。スタートはメイン玄関前のロータリーだ。八柱くんが長距離走という情報が広まっていたらしく、参加者数は50人ほどしかいないのに、ギャラリーは少なくともその倍はいた。そのほとんどが女子だ。
「いや、さすが」
功刀が八柱くんに声をかける。
「応援してくれるだけなら実害はないから。でも迷惑を掛けたらごめんね」
八柱くんは功刀に謝っていた。
「大した迷惑にはならないだろ」
前と後ろの席ということもあって、八柱くんは功刀とも少し打ち解けているようだ。八柱君は続けて訊く。
「元山くんはどう?」
「付け焼刃だからなあ」
元山くんは自信がなさそうだ。しかし少なくともリタイアすることはないだろう。練習では走り抜くことはできていた。
わたしはといえば、美古都と2人で男子3人から少し離れて様子を窺うだけだ。
「律子~~気になるのはわかるけど、自分の走りに気を付けないとケガするよ」
「おっしゃる通りです」
美古都に注意を促され、反省する。なんだかんだ言って、わたし自身、男子3人が気になっているようだ。
「なんか男同士の友情もいいよね」
「だ~か~ら~ウチはあんたを心配しているんでしょうが。女の友情を軽んじるな」
「ごめんごめん」
などと軽口をたたいているうちにスタート時間になる。
学校の周囲は約1キロあり、5周してゴールになる。
スタート地点で体育教諭が号砲を鳴らして、参加生徒が一斉に走り出す。男子3人は固まってスタートし、わたしと美古都は彼らの後を追いかける。
「紫苑く~ん」
「シオンがんばれ~」
という黄色い悲鳴が上がる中、わたしたちは校門を出て、周囲の道路に出る。外に出るとなぜかスマホを構えている一般人がいた。アイドル紫苑が走るところを撮影しようという、マナーがなっていないファンだ。
「うーん。これはすごい」
「去年はバスケットボールだったから気づかなかった」
「わたしは走ったんだけど覚えてないなあ」
いかに自分が他所に興味がないのかわかってしまった。多分彼は去年も長距離走だったはずだ。いや、それとも去年は休んだのだろうか。彼からその辺は聞いていない。
学校の警備員さんが自転車で無断撮影するファンに注意してまわるが、ファンは意に介していない様子だ。もちろん集団の速度が上がってくるとそういうあたりのことを気にかける余裕がなくなる。
まず最初に元山くんが落ちてしまった。
「僕は限界だ~~」
とかわたしたちに言いつつ集団から離脱していったので実は余裕がまだ少しあったように思われた。次に集団から落ちるとすれば自分である。呼吸を整えて学校敷地の角の交差点を曲がる。ようやく300メートルというところだ。先頭の方は20メートル以上先行している。競うつもりはないが、あまり遅いのも嫌だ。必死に前を走る美古都にくらいつく。
功刀と八柱くんは意外と先頭集団に食いついており、1周して校門に戻ってきたとき、またすごい黄色い悲鳴を貰っていた。
2週目まではわたしもがんばった。3周を過ぎたところで限界が来た。更にペースがあがったので振り落とされる。功刀と八柱くんも下がるが、わたしはもっと下がる。しかし4周目には美古都がペースを落とし、功刀と八柱くんもペースを落とし、わたしと一緒に走ってくれた。
「もう無理だから親睦に切り替えた」
功刀がわたしに言った。
「あなたは美古都に優しげなところを見せたいだけでしょう?」
「うーん。図星」
美古都は功刀にツッコむ。
「陸上部がこんなところにいたらあとで怒られるんじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫」
功刀は笑った。
「功刀くんのおかげで途中までいい線いったんだけどなあ」
八柱くんは少し悔しそうだった。
わたしたちは可もなく不可もない順位でゴールし、ラスト近くを走っていた元山くんを迎えた。
「周回遅れにならなかったことを褒めて!」
元山くんはそう八柱くんに言ったが、最初に反応したのは美古都だった。
「あれしか走れなかったのに実戦でここまで走れたんだから十分!」
美古都はタイムを見て頷いて言った。
「常盤さんに褒めてもらえるとは思わなかった」
元山くんはとても嬉しそうで、それを訊いた美古都も満足げに頷いた。コーチした甲斐があったと思ったのだろう。
外の水道で水をかぶり、体を冷やす。上は指定ジャージを着ているので透けないが、暑いのでちょっと前のジッパーは開ける。美古都もそれは同様で、功刀の目が引き寄せられ、美古都はマジで彼の後頭部を殴った。
「はは、すっごく気持ちいいね! これ!」
八柱くんは水道の蛇口を上に向けて水をすごい勢いで出して、シャワーを浴びるように水を被り始めた。
上に向けられて散って広がる水がプリズムになって通過した太陽の光が七色の虹を作る。
八柱くんは虹の中で顔を天に向けて口を開けて水を飲んでいる。
虹の中ではしゃぐ水も滴る美少年だ。
なにか映画の1シーンでも見ているかのような幻想的な光景に、わたしも見守っていたギャラリーも唖然としてしまう。そしてハッとする。
「八柱くん!」
わたしはあらかじめゴール地点に用意していたスポーツタオルを彼に投げ、水道の蛇口のハンドルを閉める。
「ええええ~~御法さんに怒られた……」
「余計な色気を振りまくのは禁止です!」
「そう? ボク、色気ある?」
八柱くんはわたしのスポーツタオルを頭から被り、小さく首をかしげて笑った。その笑みはまさにアイドルのそれだ。わかっていてやっているだけに質が悪い。わたしはムッとする。
わたしは彼が被っているスポーツタオルを使って、彼の髪を拭く。
「ほら、早く乾かさないと風邪ひきますよ!」
「御法さん、ボクのお母さんみたいだ」
「その認識で結構です!」
わたしのムッとする度合いが更に上がった。
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