予言と情報操作の狭間で
1. 騎士団会議室の異常な熱狂
黒竜撤退の翌日、騎士団の緊急幹部会議が開かれていた。議題は「アルフレッド卿の次なる戦略」。アルフレッドは王都の有名詩人から拝借した、難解で意味不明なフレーズを口にする。
「闇の領域に深く踏み込むには、まず**『混沌の螺旋』を理解せねばならぬ。螺旋の頂を視よ。そこにこそ、真の『運命の座標』**は示される」
アルフレッドが言いたかったのは「次はどこへ行こうかな?」という程度のことだ。しかし、騎士団長たちは顔を見合わせ、興奮を隠せない。
「な、なるほど!『混沌の螺旋』とは、魔王軍の混乱に乗じた各国の陰謀を指し、『運命の座標』とは、それらを断ち切るべき最重要拠点のことか!」
「さすがアルフレッド卿!我々が知り得ない、深奥の情報戦を展開されている!」
会議は一転、アルフレッドのセリフの「解読」に夢中になる。
アルフレッドは「皆が俺の言葉の深さに気づいた!」と満足げだったが、隣に座るクリスは、冷たい目でその状況を見ていた。
(馬鹿げてるわ。でも、これでいい。)
2. クリスの「影の仕込み」
クリスは会議室の隅で、羊皮紙に書かれた報告書を手にしていた。そこには、彼女が**『真実の眼』**で独自に入手した、魔王軍の補給拠点と、そのルートの詳細な情報が記されている。
「混沌の螺旋……。そのフレーズ、たしか国境沿いの輸送ルートにある廃墟の古名に似ているわね」
クリスは数日前、この廃墟こそが魔王軍の最重要補給拠点であることを突き止めていた。
クリスは会議中、意図的にこの報告書を、アルフレッドの席のすぐ隣に「うっかり」落としてみせた。
アルフレッドはその報告書を拾い、クリスに渡す。
「クリス、これはなんだ?なんだか古めかしい図面だな」
「あ、すみません。ただの古い地図です。王都の図書館で借りた」
「ふむ……**『古の叡智』か。偶然にも私の『運命の座標』**を探す手がかりになるとは、やはり運命は私に味方しているな!」
アルフレッドはそう言うと、その地図の特定の部分を指差した。それは、クリスが知る補給拠点そのものの場所だった。
3. 「予言」の実現と更なる勘違い
翌朝、アルフレッドは騎士団を率いて出撃した。もちろん、向かう先は彼が指差した「運命の座標」――クリスが仕込んだ情報と、彼のセリフが偶然結びついた場所だ。
クリスは遠くから、アルフレッドの騎士団が現地へ向かうのを見届けた。そして、誰もいない裏山で、密かに魔力を行使する。
(よし。今、アルフレッドたちが現地に到着する数分前に、あの拠点の防御結界を無力化する。彼らが現地に着く頃には、補給部隊は動揺し、アルフレッドの雄叫び一つで壊滅状態になるはず)
数時間後、王都に勝利の報が届いた。騎士団は、ほとんど抵抗を受けることなく、魔王軍の最重要拠点を破壊し、大量の物資を押収したという。
騎士団長が、興奮冷めやらぬ様子でアルフレッドに報告する。
「アルフレッド卿!貴方が予言した通りでした!**『螺旋の頂』**に、全ての答えが!」
「フッ……見通していたさ」
アルフレッドは内心で(螺旋の頂ってなんだ?でも、とにかくかっこいいセリフだったからな!)と大満足。
クリスは王都の自宅で、洗濯物を干しながらニュースを聞いていた。
「またやったのね……。これで数週間は、私が大規模な作戦に出る必要はなくなった。静かな生活が守られたわ」
クリスは心底安堵した。一方、アルフレッドの「予言者」としての評価はうなぎ登り。誰も知らないところで、本物の勇者は、目立ちたがりの幼馴染を最大限に利用し、平和な日常を維持し続けているのだった。
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