第五十七話 天正十七年、小田原征伐
俺も百歳を超え、もはや化け物だ。百を境に少し縮んだが、頭と体がしっかり動くので、もう少し世の中を見てから、「おさらば」できそうだ。モニター越しに各戦況を去年から把握していたが、北条海軍は無論、無敵である。
核融合動力の海軍戦艦を小田原沖に配備した。空母「早雲」を中心に護衛艦を四隻配備し、領内海域に入れる軍船は皆無だった。小・中型艦は消え去り、大型艦は航行不能となり、大将と側近を確保した。
山のでかい空母に連行された彼らは、自分たちの大型船が小舟だと自覚し、戦力差を実感する。先行き不安から武者震いが止まらない面々を、空母「早雲」で北米帰りの信長たちが迎えたのだった。
信雄は驚愕して土下座をし、泣き始め震えだした。
「すまぬ。連絡を入れず。お前の行動は理解している。許せ!」
「父上~、うぉ~~~~……」
「これから、お前は世の中のこと、日ノ本のことを学び、明日を支える人材になれ」
高崎を拠点としていた真田親子は、小諸周辺を占拠して戦闘をしていた。ゲリラ戦や野戦を含め、大将の前田利家を捕らえ本部へ連行。秀吉軍は大将不在により追加攻撃に耐えられず、撤退解散した。
信長は面白い事が大好きで、三河の豊橋から前進できない秀吉に対して使者を送った。秀吉は、使者の顔を見て腰を抜かした。
「殿より言伝だ、これを。……殿は、命は取らぬ。迎えの車に乗り会いに来い」
勝家の言葉と文の花押を見て、秀吉は顔を青くした。
間もなく騒がしい音が段々と近づき、オスプレーの姿が見えてきた。秀吉たちは、この世のものと思えない鉄の塊に恐怖を覚え、動揺する。その様を、日焼けで浅黒い勝家が勝ち誇るような笑みを浮かべ、こちらへと機内に案内され乗り込む。約三十分、秀吉たちは無言で空母「早雲」へ到着した。
オスプレーが着陸し、甲板エレベーターで船内に降下する。タラップから降りると、前方には死んだはずの氏康(石原莞爾)と信長、信忠。その後ろには信雄、利家、そして二百の海兵が整列して迎えた。
「統一ご苦労。謀り事のことは、問わない。奥州仕置を年内に完成させよ。その後、今後の予定を話す。終わったら小田原に来い。」
その日、秀吉は十歳年をとり、六十代の見た目に変貌した。豊橋に秀吉を戻し、北条海軍で常陸の大津まで送り、奥州に送り出した。
氏康(石原莞爾)と信長は、幻庵(高橋是清)のいる京で合流し、公家と今後の流れを決める会合に向かった。二条昭実を中心に摂家との会合だった。当然、近衛前久も参加しており、信長や北条の面々を見て青い顔で震える近衛家の者たちとは対照的に、二条一派のロビー活動は完了しており、朗らかに談笑していた。
これからの日ノ本の新しい制度と資料を渡し、説明をしていく。二条昭実より帝の了解も得て、前世日本の皇室の制度と権威、そして江戸への遷都について、立憲君主制・議会制国家の体制を簡単に説明し、摂家を含む宮内庁の職務の説明をした。
全て陛下を守るために作られた資料に、近衛家の驚愕と落胆をよそに説明は続けられた。内容的には完璧に近い資料だったため、私利私欲の者には厳しい提案だろう。
会議が終わり、五摂家の皆さんを中心に会議参加者と豪華会食が催された。秀吉が今どんな立場で何をしているかを巨大スクリーンに、昨日の奥州でのドローンで撮影された映像を流して説明した。
秀吉軍が伊達家へ向かう映像と、伊達家が慌てて秀吉軍に向かう映像が説明された。この伊達家の動向が、間もなく日ノ本が一つになり、新政府として機能する前触れであると説明されたのだ。最新の技術に驚愕する皆を見ながら、変わる現実を実感しているようだった。
公家の皆さんも、安全で安定した生活をし、公僕として帝に仕える本来の状態を維持することは、公私ともに望ましい姿だと思う。宮様はハワイがお気に入りで、統一後に帰ると言い、楽園でまったりしている。その事を伝えると、元お仕えの者から、安堵と、「私もまたお仕えしたい」という声も上がった。二条様には伝えていましたが、織田家の事情から機密事項でしたからね。
翌月、秀吉が小田原に着き、奥州の報告にやってきた。近代化された都市を見て有能な彼は、現実に対する順応力は極めて高い。自分の立ち位置を理解し、信長に対しては、仕えていた時と同じ態度で接した。新政府はかつての権威などはなくなり、新体制へと移行する。
秀吉は順応し学習を選び、自分の手にしたもの全てを手放した。
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