埼玉エルフ!

蒲原二郎(キャンバラ・ディロウ)

プロローグ 埼玉エルフ

第1話 埼玉エルフ

 俺はエルフを見たことがある。しかも埼玉で。


(あれ、本当に何だったんだろうな?)


 そんなことを考えながら、学校帰り、池袋の路上を、ぼんやりと歩いていた。


(小三の時の話だ。答えなんて出ないか)


 思わず、ため息が漏れた。


 こんなにセンチメンタルな気分なのは、最近、高校生活が、ひどく色あせて見えるようになったからかもしれない。


 せっかく酷暑の夏が終わり、残暑も去って秋が来たのに、授業は元より、友達との会話も、放課後の部活も、何もかもが、楽しくない。


(どうも気分が乗らないんだよな。母さんが死んでから、ずっとこんなだ……)


 七月に、母親が突然の病やまいで亡くなってから、すでに三ヶ月の時が過ぎている。


 胸をかきむしりたくなるような驚きや悲しみは、ようやく薄れてきたが、心は一向に晴れないままだ。


(やはり、俺が母さんを)


 視界から、景色が消える。


(殺してしまったのかもしれない)


 気がつくと、目の前がグレー一色になっていた。


 いつの間にか、視線はアスファルトの地面に落ちていた。


(いかん、いかん)


 俺はあわてて顔を上げ、周囲を確認した。


(いつまでも、落ち込んでばかりはいられない)


 すると、不意に目に明るい色が飛び込んできた。


 少し先に、今時珍しい、金髪に近い茶色の、巻き髪のギャルが歩いている。


 制服を着ているので、高校生のようだ。


 持っているバッグも有名ブランドのもので、華やかな印象だ。


 女の子は黒髪全盛の世の中なので、この手の派手なギャルは、渋谷や新宿ではあまり見かけなくなった。


 しかし、池袋だけは違う。


 場所柄、おそらく埼玉あたりから漂着したのではないかと思われる。


(いずれにせよ、この子は、悲しいこととは無縁そうだな)


 気がつくと、今や幻といっても過言ではない、小柄なギャルの後ろ姿に見入っていた。


(ある意味では、この子も、“埼玉エルフ”と呼べるのかもしれない)


 俺が、クスッと笑った、その時だった。


「あれ!?」


 ギャルが突然、視界から消えた。

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