第一章 ジハンキ
二○六一年四月現在。
生き
夢もなければ、
意志も弱く、
そして、生きることも死ぬことも自由。
生きることに
人類は死ぬことすら、
医療の発達によって、かつては死ぬ病気であった者が生き
さらに人口増加に
遅れてやってきた『第三次ベビーブーム』により、人間は
近年において親の
身寄りのない子を育てる
人口増加の
今から二〇年前の二○四一年。
当時二四歳だった
両親は弟が生まれた翌年に事故死したのだと、兄から聞かされた。
それが本当かどうかは、
忘れもしない、二○四一年十一月十三日。
兄に、アオガミが届いた。
このアオガミは、大日本帝国陸海軍の
その内容は、以下の通り。
――この度、
――
当時
『増え過ぎた人口を、いかにして減らすか』という問題の
ランダムとはいえ、社会に必要とされる人間は候補から外される。
要は『いてもいなくても、社会に影響のない人間』が、対象とされた。
連と弟は、兄に
兄は苦笑しながら、二人の頭を
「いい歳して泣くんじゃない」
兄は
兄弟三人でも、
「こんな大金、どうしたのか?」
蓮が問い
後になって知った話だが、兄は
兄はランダムではなく、要注意人物として選ばれたのだ。
期日前夜に、兄の送別会をやった。
思い出話で泣いたり笑ったりしながら、一晩中語り明かした。
そして期日の朝十時きっかりに、政府から
人型機械の後をついて行く途中、兄はこちらを振り返ると、弟達に笑いかけたつもりだったのだろう。
だが、その笑顔は明らかに引き
連は、兄は強い人間だと思っていた。
しかしそれは連と弟を不安にさせない為に、ずっと
ふいに兄が、何かを
だが連自身の
慌てて聞き返したが、兄は首を横に振った。
「聞こえなかったのならいい」
それだけ言うと、政府が用意したバスへ乗りこんだ。
それが兄を見た、最後だった。
もしかしたら、最後に何かを伝えたかったのかもしれない。
聞き逃してしまったことが、
翌日、封筒が郵送されてきた。
中には兄の死亡証明書と、
それを目にすると同時に、連は泣き崩れた。
ボイスレコーダは、聞けなかった。
弟が聞くことを、
連自身も兄の死を認めてしまうような気がして、聞く気になれなかった。
その日から、弟と二人で生きていくことになった。
幸い兄が残してくれた金があったから、
だが
いっそのこと、自殺しようとも考えた。
しかし、弟がいる
それから四年後の、二○四五年三月。
弟に、アオガミが届いた。
「オレは絶対に行かない。政府の機械なんて、ぶっ壊してやる!」
連も、その言葉に頷いた。
だが、ふたりは知らなかった。
まさかそれが、取り返しのつかない
兄の時と同様に、政府の人型機械が迎えにやってきた。
金属バットを振り被った弟は、機械の頭部を
その衝撃で作り物の綺麗な顔が砕け、下の機械がむき出しになった。
いくつものコードが切れ、小さな火花を散らしながら機械は動きを止めた。
「やった!」
喜んだのも
モータ音と共に再起動した機械が、弟に襲い掛かった。
「ぎゃあああぁっ! 痛い! 痛いっ!」
無感情の機械が、血に
飛び散った
恐ろしい光景に、喉がひくついて情けない悲鳴が出た。
「たす……けて、にぃさ……」
連に向かって助けを求める弟の悲鳴が、徐々に小さく弱くなっていく。
連は止めさせようと機械に飛び掛かったが、横っ
気が付くと、部屋は真っ赤に染まっていた。
吐き気をもよおすほどの、強烈な血の臭い。
弟だったものが、床に散らばっていた。
連もまた、血に塗れていた。
自身の血ではない、全て弟の血だ。
「うっ、ううっあ……。あああっ、ああああぁぁぁぁぁぁっ!」
次に目覚めた時、連は病院のベッドの上にいた。
あれから一体、どれくらいの月日が
季節は、すっかり
驚くほど心が落ち着いていて、あれは夢だったのではないかと思った。
だが家に帰ると、おびただしい
むせ返るような死臭の中で、連は激しい
「何故、こんな残忍なことをするんだ。何故、兄と弟が殺されなければならなかったんだ……? 何故だ何故だ何故だ何故だっ?」
その時、
「そんなに人を減少させたければ、死にたい奴らをみんな自殺させればいい。みんな死んでしまえ! 死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
狂気じみた考えが、連を駆り立てた。
それから約一年後の、二〇四六年四月。
連は、『
のちに、
初めのうちは「
『ジハンキ』の成果は、めざましいものだった。
ボタンを押すだけという手軽さから、自殺ブームの火付け役となった。
一時は『世界環境保護計画』を、
やがて世界中に
『ジハンキ』の普及により、『世界環境保護計画』は
二○四六年十一月一日、
『世界環境保護計画』には、あらゆる方面から多くの非難の声があった。
しかし、
そこに降って沸いた、『ジハンキ』による自殺ブーム。
これ幸いとばかりに、政府は改変を打ち立てた。
『自由に生きる権利』が尊重されているのであれば、『自由に死ねる権利』があっても良いのではないか。
それが、新法案『地球環境保護計画』の
そして今日もまた、『ジハンキ』に並ぶ長い列が出来る。
理由もなく
衝動的に逝く者。
絶望の果てに逝く者。
人の数だけ、死に逝く理由がある。
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